■本多にタブーはございません!
こんにちは。
その昔、業界では珍しい正直者で通っていた本多泰輔です。よってタブーもなんのその、今回も本音で語ります。
このテーマ、普通の人にはあまり関係ないかなと思っていたのですが、何人かのコンサルタントの人から、
「○○出版社から電話が来て、出版の話だというから喜んで聞いてたら、ついては2000部引き取れというんだよ。冗談じゃないといって断ったよ」
という残念なお話をうかがいました。残念なというのは電話してきた版元の人にとっては、という意味です。
2000部かあ、最近は買取部数も減ったんだなあ。不況だなあ…と妙な感慨を抱きつつ、それならここでも、すこしその辺の状況について触れておこうかなと思い至った次第でございます。
それに○○さん、本当は断っていないのかもしれないし。
■ブックマーケティングとは
“ブックマーケティング”とは、本を商品・サービスの宣伝広告媒体として出版することです。
だから著者またはスポンサーが出版社にお金を払って本が出ます。
つまりヒモつきです。
著者の買取をあてにして出す本を「ブックマーケティング」というと、ちょっと広義すぎるのですが、正確に定義された用語ではありませんので、ここでは概ねそのようにとらえた上で話を進めます。
ブックマーケティングというと「・・・がなおった」とか「毛が生えた」とか・・・。
著者は医学博士だけど最後のほうにスポンサーの薬なり器械なりが出てくるようなバイブル商法型が代表的という印象があるので、ブラック(またはグレー)な印象がありますが、別段詐欺まがいのものではありません。
バイブル商法は違法ですが、ブックマーケティングは広告手法のひとつにすぎません。出版業界では、昔ながらのビジネスのひとつです。
でも、表立って広告ですというと、そんな本を誰も買わないので、妙に隠微な暗がりに置かれて、存在を無視されています。
ですから、ブックマーケティングとは言わずに「協力出版」と言っているところもありますし、その版元なりの名称をつけているところが多いようです。
でも実態はみんないっしょ。
この手法は、なにも健康関連商品や企業の宣伝ばかりに使われているわけではありません。
ある宗派の300年だか500年だかの記念事業の一環として、何万部か買い取ることを条件に開祖の小説を文芸書の大手から出版する、なんて話をかつて高名な作家が嬉しそうに話していたのを思い出します。
■個人に対するブックマーケティングのケース
以下その内側をケースステディで明らかにしていきましょう。
ある日、コンサルタントの本多さんに樋笠出版社(仮名)から電話が来ます。
「本多先生の書かれた××(雑誌でもネットでも、とにかく外部に露出しているもの)を見てお電話しました。ぜひともわが社から本を出していただきたい・・・・・・(ややあって)つきましては、発行時に○千部著者買取りをお願いしたい」
さあ、どうしましょう。
1.速攻で断る
2.考えときましょうとお茶を濁す
3.同姓同名の間違い電話だと言い張る
待ってました!という人はいないでしょう(もしいたら即刻私に電話ください!)から普通は(1)ですね。(2)だとまたかかってきますからね。
■出版社の事情
一方、電話をかけてきた出版社はどんな具合になっているのでしょう。
樋笠出版社(仮名)は年商は小さいですが、利益率の高い会社です。それはそうです。制作費をもらってつくっているんですから。でも、返品率が高くて取次ぎ、書店からはあんまり歓迎されていません。
最近では、あまりにもPR然とした本が目につくため、ものによっては卸値からさらに宣伝手数料を10%引かれる厳しい措置に遭っています。
会社としても深刻な痛手で、樋笠社長はPRか普通の出版か見分けがつけづらい著者(コンサルタント・税理士等)に「出版営業」をかけるよう社員に一層の拍車をかけています。
樋笠出版社編集部員は、
「昔はよかったなあ・・・。健康食品の本とかグッズとか、新製品の販促とかスポンサーが大金を出してくれて。バイブル商法が禁止されてからこっち、ブックマーケティングしようって企業はぐっと減っちゃってるし・・・。個人に電話してもすぐ断られちゃうし、社長は強欲だし、ああ、普通の出版社に転職しようかな・・・」
あまりいいことばかりではないようです。
PR目的だけというのは、駅前で配っているティッシュといっしょですから、あまりお金を払って買う人はいないんですね。
やはり下心丸出しでは読者の歓心は惹けません。書店の人もそれがわかるからあまり良い扱いはしません。即返(入荷即返品のこと)かもしれませんね。
ところでコンサルタントの本多さん、あれから電話の話が気になっています。
「○千部はいやだけど、○百部くらいなら、PR用に配ればいいんだし・・・。○千部でもひょっとしてベストセラーになったら印税で相殺できるし・・・」
ヤバイ傾向です。
ちょっと揺ぎ始めています。
そして数日後、本多さんは件の樋笠出版社に電話いたしました。
やがて半年後に樋笠出版社からめでたく本は刊行され、本多さんの家に買取分○千部のうちの数百部が、ひと部屋を占拠し、残りは出版社の倉庫に在庫されることになりました。
「ベストセラーになれば・・・」
いつの間にか本多さんは乾坤一擲の勝負に出てしまったようです。
■本多さんの失敗に学ぶ
本多さんはなにかまちがったのでしょうか。
いっそ自費出版すればよかったのでしょうか。
たしかに自費出版であれば、いまやどこの版元でもやっています。
天下の講談社でさえ講談社出版サービスセンターなる別会社をつくりホームページ等でPRしています。
さらにいまどきの自費出版は、部数は僅少とはいえちゃんと書店に流通させるサービスも怠りなくついています。
でも、自費出版では全国に配本されないし、配本するとしたら○千部程度の負担ではすみません。やはり自費出版はプライベートなものでPRには向かないのです。
時は少々遡り、樋笠出版社。本多泰輔著の本を前に何人かで談合しています。
「これ買取いくつ?・・・○千部かあ。あんまり売れそうにないなあ。ちかごろまた返品率上ってるからなあ・・・。C配本でいこうよ」
「著者は何か言ってる?・・・別にない。お任せか・・・。よし、そうしよう!」
C配本というのは、配本先も配本部数も一番少ないパターンです。配本部数が少ないから返品率もあまり高くなることはありません。
少ない配本から大ベストセラーに駆け上がった例もないわけではありませんが、極めて稀です。
これでは印税も期待できません。
ブックオフチェーンでも2000部は引き取りません。
かわいそうな本多さん・・・。
がんばれ本多!へこむな本多!
朝の来ない夜はない。いつかは輝く明日が来る。
■本多、再起なるか
結局、本多さんは散財してしまいました。
でも、詐欺ではありませんから訴えることも出来ません。
ブックマーケティングは、モノを売るために本を媒体として使います。お酒の特集に酒造メーカーが協力する(お金を出す)雑誌のタイアップ企画を見たことはありませんか。
テレビで広告費をもらって温泉街を取材して放映する番組、多いでしょ。あれと同じです。
広告ですからどちらにもメリットはあるはずなのです。
では、本多さんの悲劇はどこから来るのでしょう。
何のために本を出すのか、どのようにリターンをはかるのか、このあたりが無計画だったんですね。性格がアバウトなため、原稿をつくり、校正しているうちに出版自体が目的化してしまったのです。
心得ておくべきは次の点です。
(1)売れない本はPRにならない。
本は、売れてこそ華。つくっただけで満足するなら自費出版すべきです。
本は出版社に売る気がなければ、90%売れません(10%は期待可)。あとはお任せではいけません。お金を出す以上、出版社の営業計画くらいは確かめておきましょう
(2)本によるPRをどう仕事に結びけるかのスキーム。
読者と自分のビジネスを結びつける仕掛けが必要。読者ハガキがたくさん来るような仕掛け、読者を顧客に取り込むためのサービスや仕組みづくり、印税などあてにしてはいけません。
読者をもう一つ内側へ誘導するために“ブックマーケティング”はあるのです。ただし、あんまり露骨にやりすぎると元も子も失いますからご注意!
(3)「出版」を電話セールスするところにはなにかある。
「出版」自体をセールスしているところは、出版成立をもってゴールとしてしまいがちです。それでは自費出版です。
PRでもなんでも、出版はスタートでなくてはいけません。ちゃんと「出版」をスタートと見る出版社かどうか確かめてから契約しましょう。
以上3点を踏まえていれば、“ブックマーケティング”もひとつの有効な手段です。このメルマガのタイトルではないですが、上手くいけば「本はあなたをメジャーにする」わけですから。
■“ブックマーケティング”で失敗しないために
樋笠出版社が、一応仁義の通った版元であったら、電話セールスの後、次のステップを踏んだはずです。
【ステップ1】
本多さんの書きたいテーマと、専門分野、経歴を聞いた上で、編集部サイドで最も販売力のあるテーマに落とし込むための企画打合せを行う。
【ステップ2】
本に関する本多さんの要望を聞いた上で、どこまでが可能か、要望を満たすためには何がさらに必要か明らかにする。
【ステップ3】
出版契約を作成し、印税その他の条件を明らかにする。
【ステップ4】
基本的な営業計画について打ち合わせる。
要するに出版社には、本多さんをプロデュースするためのプランがなければいけないのです。なぜなら売れない本をつくることは、結局版元にもマイナスだからです。
ですから、ブックマーケティングばかりやっている出版社はお奨めできません。
つくれば利益になる出版ばかりやっていると、企画で勝負することをしなくなりますから、どうしても企画力が枯れてしまうのです。
企画力がなければプロデュースなど不可能です。
そして、本多さんもぼーっと出来上がりを待つのではなく、本を売るために自分で出来ることを講じなければなりません。
残念ながら出版社は、「協力出版」とか「ブックマーケティング」だからといってその本を重要視するわけではありません。
売れればフォローするし、売れなければすぐにあきらめます。
ですから、あとはお任せではだめなんです。
この辺の手法は、前々号の金森先生のお話が参考になりますから、もう一度読み返してくださいね。
■“ブックマーケティング”の損得
近年は不況のためか、多くの出版社でなんらかのブックマーケティング業務をしています。そのための編集部を独立させているところもあります。
ブックマーケティングからスタートして、意外にベストセラーになってしまったという本もけっこうたくさんあります。
名誉のために書名は出しませんが、最近でも10万部を超えたものがありますね。テーマの良い本を普通に配本すればちゃあんと売れます。
不肖本多も3000部買取の条件でつくった本が12万部のベストセラーになったことがありました。
著者のビジネスにも随分貢献したようで、大層感謝され同じ条件で続けて3冊くらい発行しました。
かなり大量の配本をしたにも拘らず、後の3冊はあまりパッとしませんでしたが、著者の本業には数億円相当の効果があったそうです。
何年かたってそのことを聞いたときは、もっとふっかけとけばよかったと思いました。
単行本という媒体は、製品や性能に関する情報よりも思想やシステムについて共感するのに優れているというのが、その当時からの感想です。
一冊読むと読者と著者の距離は一気に縮まり信頼感が生まれます。これは本の特長でしょう。
そういう読書体験は、みなさんもお持ちなのではないですか。
■コンサルタントにとってのブックマーケティング
個人のコンサルタントで「これから売り出そう!」というかたにとって、本がどういう位置づけにあるかは、いまさら言うまでもないですよね。このメルマガが自体がそういうテーマなんですから。
企画書つくって、人脈つくって、という手順がまだるっこしいという人は、ブックマーケティングに照準を合せるのも手っ取り早くていいかもしれません。
だいたい「この本はブックマーケティングでつくりました」とは、どこにも書いてありません。
ちゃんと編集部が汗をかいてつくったものであれば、なんら普通の本と違いはありません。ベストセラーになることも十分あるのです。
でも私のように長いこと本を見てると、どういう素性かは一目でわかりますけどね。本が勝手に告白してきますから。
「私にはパトロンがいます」と。
最後に一つ、私の経験から得た、確度の高いブックマーケティングの効果をお教えいたしましょう。
ブックマーケティングで本を出すと、それを見た別の版元編集部から執筆依頼が来ます。
なぜか来ます。
■まとめ
1.“ブックマーケティング”は広告だ。
2.売れる本でないとPR効果はない。
3.出版社はしっかり選び、ちゃんと要求も出そう(出来るかどうかは別として)。
4.読者の反応を受け止めて、本業に結びつける仕掛けを用意しよう。
そして、「お金を出してまで出版したくない」というかたは、企画と文章をしっかり磨きましょう。ということで、次回は「文章の書き方」その1をやります。
|