■編集者がねらう今年度のテーマ
おはようございます。このメルマガは、もっぱら午前中に読まれていることを最近知った本多泰輔です。
みなさん月曜の朝からこんなもの読んでいて仕事はいいのかと、心配になります。
さて、今回は2週間前から予告しておりました「編集者の生態とその落しかた」がテーマでございます。
なお、本編に登場する編集者は、すべて私本多が見たり体験した範囲のことですので、世の中の編集者がみんなこうだというわけではありません。
中には人格、能力とも優れたかたもいらっしゃるのでしょう、多分。
しかし聞いたこともないな・・・。
このテーマを書くに当たって、何人かの編集者に取材いたしました。
「今年はどんなテーマをねらってるの?」
「・・・?・・・」
全員沈黙。
秘匿しているのか、考えてないのか。
取材する側の人間は、逆に取材されるのを苦手としていますから、まあこんなもんでしょう。
さらに待つこと数分・・・。
そのうち一人が「…コミュニケーション」とぽつりと言いました。
「そりゃ話し方の本が売れてるから?」と聞くと、「そう・・・」今年も当分話し方の本は出続けますね。
実は質問が悪かったのです。
「今年の・・・」ではなく「いま狙っているテーマは?」と聞けば、答えられたはず。単行本の編集者は基本的に目先のことに集中しがちなのです。
雑誌の編集者なら、こうはなりません。向こう三ヶ月くらいのテーマは仕込んでいますから、わざと隠すような気の利いた奴以外は、三つ四つテーマをあげてきます。
単行本の編集者は、雑誌とちがい一冊にかける時間と負担が大きいので、あまり先行した企画を持ち合わせていない傾向があります。
本当はそれではまずいのですが、実務を抱えていればいるほどそうなりがちです。
近年、特に単行本に雑誌的スピードが要求されてきていますから、編集者は大変です。
だからみんな著者からの情報が欲しいわけですね。ヒットしそうな企画の情報をいつも提供してくれる人、場合によっては書ける人も紹介してくれる人、そんな人は編集者にとっては天使です。
たまにビールを飲ませてくれる人もありがたいのですが、ビール瓶に見えても天使には見えません。
情けは人のためならず。やはり天使は大切にされますよね。
■その年ごとにテーマはあるが
いま個人情報保護法関係の本が売れています。
本は日本経済新聞社の一人勝ちですね。
こういう新法テーマは得てして早い者勝ちです。そうでありながら個人情報保護法関係の本は、各社先を争ってという様相はありませんでした。
ガイドラインや法制上の措置に関して、昨年12月まで待たなければならなかったにせよ、法案自体は平成15年5月には成立しているわけですから、原稿はやろうと思えば1〜2項目を残し9割がた事前に準備できたはずです。
そうすれば今年の1月には発行可能。でもそうしたのは日経一社でした。
感度が鈍い、とは外野席からの野次ですが、新聞が本業の版元に抜かれては既存のビジネス書出版社は面目ありません。
各出版社とも「個人情報保護法」は、それほど売れるとは思っていなかったのでしょう。
確かに消費税の導入時、インターネットのスタート時に較べると、すそ野は広くありませんから、盛り上がりに欠けますし、総量としては小さいかもしれません。
とはいえ絶好球が来るとわかっていたわりには動きが鈍かった。
現在でも「少子化」「2007年問題」「環境問題」「新会計基準」とテーマはいろいろあるのですが、本をつくれば全て売れるかというとそうではありません。
「環境問題」は随分前からのテーマですが、万博もやるっていうのに『奪われし未来』以後、目立った動きの本はありません。ビジネス系では、ほぼノーヒット。
そういえば「ペイオフ解禁」も直前なのに、書店じゃこのタイトルほとんど見かけませんね。4〜5年前にいくつか出たもののあまり売れなかったんで、いまさらどこも手をつけなかったんです。
「郵貯」はどうなのでしょうか。各社準備しているのでしょうか。
まあ、まだしてないでしょうね。してるかな。
■編集者の生態
さて、こうした近い将来のベストセラーは目先の実務に追われる編集者には、気づく余裕がありません。しっかり教えてあげましょう。
ただし、取締役編集部長クラスになるとけっこうヒマですから、3行情報でなくある程度背景も説明しないと納得してくれませんのでご注意を。
さて、ビジネス書の編集者の生態は次の通りです。
順番に意味はありません。
<生態>
(1)忙しい。
それはもう確かに忙しい。それゆえどんなに几帳面な人間でも忙しさゆえルーズになるところがある。したがって「約束してある」といって押しかけても自信を持って断れる編集者
はいない
(2)権威慣れしている。
肩書きには一応感心して見せるが、それで終わり
(3)すぐ「先生」と言う。
だが他に適当な呼称がないのでそう言ってるにすぎない
(4)雑談好き。
情報が欲しいので話が多方面に飛ぶことを嫌わない
(5)印税の話をしない。
出版契約書を交わすときまで印税の話をしないので、気になる人は事前にそれとなく聞きましょう。聞いちゃいけないわ
けでありません
(6)いつも企画のことを考えている
(まあ、本人はそう言ってました。いつも合コンのことを考えていたように見えましたけど・・・)
(7)口には出さないがベストセラーを出したいと思っている
(8)ビジネス書を担当しているが、ビジネス分野に特にくわしいというわけではない編集もいる(!確かに!)
ついでにどんな著者がほしいか?という質問には
A.たくさんのファン組織をもっている人
B.本を売ることに自分から一生懸命になってくれる人(口で言うだけでなく、自分で販売に直結する動きをしてくれる)
C.実例を持っている人
D.体験の棚卸しができる人
A、Bはいつもいっしょですね。贅沢なことばかり言ってます。
C、Dは似てますけど、ちょっと違います。Dはテーマの切り口によって実例の切り口も変えられる人のことで、これが出来る人は書くテーマの幅が広がりますから著作が多くなります。
逆に言えば、出来ないと1〜2冊書いたら枯れてしまうということです。講演会は同じ話を何度でも出来ますが、本は同じものを2冊出すことは出来ません。
著書3冊以上を目指すかたは「棚卸し」の訓練に励んでください。
■こうすれば必ず落ちる編集者
なんか、キャバクラの攻略本みたいな見出しになってしまいました。
しかし、キャバクラ嬢に「落とす」決め手がない(ものの本によるとです。決して体験からではありません)のと同様に、実をいいますといかなる編集者にも通用する「決め手」というのはないのです。
ああ、羊頭狗肉・・・。
ところでキャバクラ嬢(別にこだわっているわけじゃないんですが、話の流れで)だって結婚するんだから、どこかでだれかに「落ち」ているはずですが、なぜ「落ちない」のでしょう。
どうやら客として通ううちは「落ちない」ということなんですね(くどいですが体験からではありません)。
ま、それはさておき編集者です。
編集者は、本づくりがメインの関心事ですが、編集部長クラスになると売上に関心が移ります。
「オレはだれよりも工場現場を知っている」と自慢していた某大手
経済新聞の記者は、部長になったとたん広告だ、部数だ、イベント
だと記事の中味には一切触れなくなりました。
「あんた現場記者一筋じゃなかったの」と一応突っ込みましたが、「だって部長の仕事は売上なんだよ」と嬉しそうに答えた顔が忘れられません。ま、わかりやすい、いい人ですけど。
編集部長クラスを落とすならビジネスになる話を持っていけば一発で落ちます。
例えば、顧問先の企業が創立100周年で立派な社史をつくるというような話でもいいですし、有力な広告スポンサーを紹介してもらえたら泣いて喜びますね。
売上は別に本でなくてもよいので、とにかく売上に結びつく話にはすぐ飛びつきます。
ビジネス書の出版社は、大体そんな大きな規模ではありませんので、数百万円単位のビジネスで十分インパクトがあります。
ただ、相手が本づくり一筋型の平編集者の場合、こうしたビジネスになるお話に感度の悪いやつも多く、こちらの誠意(いい話だということ)が伝わらないケースもままあります。
相手がピンと来ていないと感じたら「改めて編集長にお話したい」と念を押しておきましょう。
上位のクラスを落とすのはそういうことなんですが、朴念仁というか実務一筋型の編集者を落とすにはどうすればよいのでしょうか。
彼らにとっては何がニンジンなのでしょう。
■雑誌と単行本の編集者
雑誌と単行本の編集者では、圧倒的に雑誌の方が付き合いやすいと思います。雑誌は慢性的に企画飢餓状態ですから、情報源として有力な人とわかれば彼らから定期的にコンタクトしてきます。
当然寄稿のチャンスもありますから、仕事を通じての信頼関係を築くことが出来ます。
そして雑誌の編集者でも何年かすれば単行本編集部に異動しますから(雑誌しかないところは別ですが)、そのときはほっといても単行本出版のオファーが来ます。収穫のときまで焦らず待ちましょう。
雑誌編集者とのファーストコンタクトのとり方は、紹介者がいなければ企画書を送ることになりますが、企画が通ろうが通るまいが適当に連絡をとり続け、こちらに有益な情報があることを認知させなければなりません。
お愛想は要りません。連絡はメールで十分です。有益な情報源と編集者が認めれば、必ず「一度会いましょう」となります。
これで一人ゲ〜ット!
さて、何度か会って情報交換するようになり、雑誌の原稿も何回か書いた段階で「実は本を出したいのだけれど」と言えばいいんだろうと思ってるかた、多いんじゃないでしょうか。
ここが肝心、焦って目的を達成しようとして、失敗するのはキャバクラ(しつこい)と同じ。
雑誌の編集者が単行本をつくることはよくありますが、基本的には単行本のラインとは別筋ですので「僕の本は売れると思うんだよね」と言われても当人は実際問題困ってしまいます。
親密な著者に単行本の企画を持ち込まれたとき、雑誌編集者は「どうすれば当たり障りなく断れるだろうか」と心を痛めていると思ってください。
■現場一筋型の編集者対策
雑誌がない、単行本だけやっている出版社の場合、どうすればよいのでしょうか。しかも相手が朴念仁だったら。
いかに朴念仁でも編集者である以上、ベストセラーの企画を常に捜し続けています。なんとか会って話す機会を得たなら、自分の企画にこだわらず、相手の編集者が漠然と捜し求めているテーマについて応えてあげましょう。
例えそれが自分の専門外のテーマでも「なんだ、オレのテーマじゃないじゃん。知らねーよ、そんなこたあ」とは思わずに、別の著者を紹介してあげるくらいのユーティリティなサービスをして相手の心をがっちりつかみましょう。
編集稼業は人間関係業ですから、受けた恩義は忘れません。大体、著者は自己中タイプが多いんですから、少し親切にするだけで印象点高いです。天使のようにありがたがられること間違いありません。
■まとめ
テーマの惹句に比して、内容があっさり気味でした?
生態は一般論化できるんですが、落とし方は実に様々なんですね。昔ながらの接待で落ちるのもいますし、紹介者との力関係で落とす手もあります。
ここでは、普通の人はあまりやってない少し手の込んだ方法を紹介しました。私の体験からも、小さなことでもいろいろ助けてくれた人のことは忘れないですよ。
きちんとご恩返しが出来ていないのが慙愧の極みですけど。
次回は、「あなたの本に相応しい出版社はここだ!」です。
またまたタイトルだけは仰々しいですね。
大手から出版すれば全てハッピーかというと、実は必ずしもそうでもないのです。出す以上は効果極大をねらわなければいけません。
小出版社のほうが有利なケースもあったりします。
ま、そんなこんなでお楽しみに。
最後になって恐縮ですが、前回アンケートにご協力くださいました方に改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。
また抽選に当選なさったかた、おめでとうございます。
はずれたかた、すいません。
また、近いうちやりますので次回もよろしくお願いいたします。
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