■本を出すことの損得
おはようございます。
前回は「樋笠社長のトップインタビュー」でしたので、今回がベタなテーマ「本を出したら儲かるのか?」です。
先々週号から「本多泰輔の出版プロデュース」のご案内をしています。
まーだ、だれも相談に来ませんね。
そんなに本多が信用できないのでしょうか。
相談料が高すぎるのでしょうか。
被害妄想ばかりが膨らむ本多泰輔です。小人閑居し不善をなす。
みなさん「本多なんぞに頼らずとも出版社が頭下げてやって来るはずだ」と確信しておられるのでしょうか。スゲー自信です。
根拠のあるなしに関わらず自信のあることはいいことです。
さてそこで、実際に出版社が頭を下げて来たとして、本を出すことで現実に経済的利益は発生するのでしょうか。
みなさん当然発生すると思ってますよね。発生しなけれりゃこんなメルマガ、速攻でキャンセルだと。
さすがに本メルマガを半年もご愛読のかたは、こう思っておられるでしょう。
「出版ってあんまり儲からないかも・・・だいたい本多は碌なこと言わなかったし。しかし、いくらなんでも損はあるまい」
果たしてそうでしょうか。
■出版にかかる工数
とりあえず計算してみましょう。
経済計算の要素(著者の工数)は下記の通りです。
(1)打合せ・企画に要する労力
(2)原稿作成に要する労力(時間と労働、および取材費)
(3)著者校正に要する労力
(4)宣伝・販促に要する労力
その他、売れなかったとき心のケアに要する費用や誤字脱字、読者からの意表をついた質問、クレームに対する心労など、経済計算に適さない項目も多数ありますが、シンプルに(1)〜(4)のみについて見ていきましょう。
といっても(1)〜(4)のうち、普通(1)は大した手間ではありません。喫茶代も編集部が持ちますし、企画は思いつきでできますから。
(4)も著者サイドが力を入れるときは、著者自身のマーケティング戦略との関係ですから置いときましょう。
最も労力を要するのが(2)の原稿作成ですね。
単行本一冊あたりの原稿枚数は、400字詰めで300枚程度(図表類も含めて)。さて何日くらいで書き上げられるでしょうか。
しかし、非常に神経質な編集者にあたった場合、入稿してからも「この部分の意味は?」とか「ここがわかりにくい」とか、原稿用紙に七夕かざりのように付箋をいっぱいくっつけて聞いてきます。
相当いい加減な編集者でも単行本をつくっているのであれば、一応仕事をしているフリを見せるため、10や20の疑問点は確認してきます。
この手間も工数に入れなければなりません。
ごく稀に、入稿後何のやりとりもなく、初校紙が送られてくるケースがありますが、それはもの凄くいいかげんな編集者か、確認するより自分で直したほうが早いという少し傲慢な練達の士かどちらかです。
後者の場合、著者はけっこう楽ができますからしらばっくれて任せましょう。
雑誌の場合は、時間がないのであまり原稿チェックに手間をかけません。だからいきなりゲラが来ます。ゲラさえ来ないで掲載誌が来るときもあります。
でも決して手を抜いているわけではありません…と思ってください。
■著者の苦労を経済計算
さて、そうしますと、原稿作成は400字×300枚を書き上げるだけはなく、編集とのやりとりでプラス50枚〜100枚くらい書く工数を要するということになります。
一時間に10枚書けるとして、300枚仕上げるのに30時間。
推敲に30時間、資料チェックに5時間。
編集とのやり取りおよび修正に10時間として合計75時間ですね。
一日5時間原稿作成にあてるとして15日。
次に(3)著者校です。
最初の原稿がしっかりしてれば、単に誤植のチェックをすればよいのですが、一般にそういうことはあり得ませんので、ほぼ推敲と同じくらいの時間を要します。よって30時間。
ここまで105時間です。
これはかなり効率がよいほうですね。
パソコンを前に呻吟する時間は入っていませんからね。
1日5時間のセミナーだと21日分。いくらの講師料になるでしょうか。あるいは、21日間コンサルティングをやったとするとそのフィーはどうでしょうか?
出版は、ここまでやって初版の印税が80万円〜120万円です。
いかがでしょう。
一日38,095円から57,142円。
苦労を思うと割に合わないんじゃないですか。
■儲かるのは重版以降
300枚を30時間でと書きましたが、普通はそんなに早くは書けません。
コンサルタントで一番早かった人は、正月休みの一週間で書き上げましたが、一ヶ月で書き上げることができれば早いほうです。
私の知る限りで一番早かったのは、ある編集者ですが、3日で入稿した剛の者がおります。
3日間連休があったんですが、休みの前の日に取材して連休明けに単行本一冊分丸ごと入稿してきました。これが最速です。
さらに驚くべきことは、その本が7万部も売れてしまったということです。時間をかければいいというもんじゃないという証明でした。
前述の計算ですが、一般的にはこうなりましょう。
21日間の講師料 or コンサル料 > 初版印税
前にも申し上げましたように出版社は重版がかからないと儲からない。同様に著者も初版だけでは儲からないようですね。
ただし、著者はセミナー講師やコンサルティングを断って原稿を書いていることはないでしょうし、書いてることは本人の頭の中にあることだから仕入れは要らないので、わずかな印税でも損したような気はしないようです。
「書いて損した!」
と面と向って言われたことは、いまのところありません。でも初版で終わった日にゃあ時給7,000円から10,000円です。
最近はどこの版元も印税率が渋いですから、もっと安い恐れもあります。やはり書く以上、初版どまりではいけませんね。
一方、増刷り増刷りで重版を重ねていく本であれば、格別本人が何もせずとも次々と印税が払い込まれてきます。
2万部となれば時給も2倍超、でもまだセミナー講師料のほうが高いですね。3万部4万部となってはじめて経済的利益を得られるというところでしょうか。
文庫の場合は5万部を超えれば儲かったといえる線かと思います。
そうして重版が延々と続き、第二の『窓際のトットちゃん』500万部を夢見て明日の出版に期待するのも気分のよいことです。
■新刊の重版率
出版界全体は、新刊発行点数が増え総発行部数は横ばいですから、あまり重版はかかっていない状況が続いているといえます。
つまり、著者サイドから見れば出版するチャンスは増えたが、儲かる見込みは薄いということです。
そういう中で、どうすれば重版のかかる本がつくれるのでしょう。
結局テーマ、企画しだいということになってしまいますが、ビジネス実務のテーマで書いた本を息長く続けていこうとすれば、版元も選ばなければなりません。
現実には、ビジネス実務をテーマにした本で、著者が元をとろうと思ったら、新刊ベストセラー主義傾向の大手・中堅よりもそれ以下の版元から出したほうが、確率の高いベターな選択だと思います。
実務書は、だいたいそんなに足が速くありませんので、一年に一回か二回くらいの重版しかかかりません。
2万部を超えるまで二〜三年かかる本を中堅以上の版元では待ちきれません。次々と新刊が出てきますから。
最近は、日本経済新聞社でも実務書を出していますが、こうした傾向に変化はありせん。
話題性のあるテーマなら規模の大きいところが有利、実務のテーマで重版を重ねようというなら中堅以下、テーマと出版の目的に応じて出版社を選択いたしましょう。
■まとめ
今回は、出版することの損得を「直接の労力とその報酬」で見てみました。
多くの著者が言うように、出版それ自体はなかなか労力に見合う報酬になりません。印税生活が夢に終わるか、実現するかは運と実力しだいです。
とはいえ、本来コンサルタントとしての本業を持つみなさんが、印税生活を求めているわけでもないでしょう。
今回、あえて出版による「PRおよび社会的信用の向上」という効果をはずしました。
そもそも広告による経済効果は測りにくいということがひとつですが、PRや社会的信用を上げるということは、著者にはっきりとした目的意識がなければ結果も曖昧なものになってしまいます。
出版のPR効果を発揮させるためには本を出すときに読者を誘う仕掛けをする必要がありますし、出版後に読者を受け入れるための仕組みをつくっておかねば、徒に読者が通り過ぎていくのを見送るしかありません。
本業に結びつけようと思えば、目的はPRで本はそのための手段のひとつですから、他にも十分な戦略を準備しておく必要があります。
具体的なことをいえば、著書を出すときは、必ず本に読者相談カードをはさんで、カード送ってくれた人には何らかの、金のかからない、露骨じゃないが役に立つようなプレゼントが当たるようにして、本業へ誘うようにいたしましょう。
印税だけじゃ儲かりませんので。
出版することで「社会的信用」が高まっても、本業のPRがおろそかになっていては、読者は「大した人だなあ」と感心しつつも、何をしてくれる人なのかわからないまま時間の経過とともに忘れてしまいます。
出版単体では、PRの経済効果は表面に現れて来ない。
このへんが出版によるPR効果の上品なところでもあります。
この「本業に結びつける仕組み」がきちんと出来上がっていれば、印税も当てにしなくていいし、なにも本人が苦労して原稿を作る必要もないと思います。
さて、次週は夏休みシーズンに突入することもあり、人が休んでいるときこそ企画をまとめるチャンス!ということで、年末から来年に向けての企画棚卸をいたします。