■振り向けば30号
先日、ある読者から「もう30号ですね。よく続きますね」といわれました。
こんな狭いテーマでそんなに書けるネタはないはずだと、みなさん思っているのですね。
ふふふ・・・・。
豈はからんや。300号はいけると思っている本多泰輔です。
その根拠は、と訊かれると少々よろめきますが、ベストセラーの歴史をみてもわかるようにビジネス書のテーマは時代を経て何度も繰り返されます。
相手変われど主変わらず。
人の世の記憶とは、はかないもの。また、忘れてくれなければ、今日あるほとんどのビジネス書が不要となります。恐らくは語学書も。
忘れていただけるからこそ、多くの本が装丁だけを変えて、なお市場で生き長らえることができているのです。
そういうわけで、このメルマガでは今後も似たようなテーマが忘れてころに出てくるということを予告しながら、今回のテーマへと移ります。
さて、悪文といっても、文章自体に問題があるというケースは、むしろプロの作家・記者などに見られる文章の悪癖のことで、普段文章を書いてない人が「わたしは文章が苦手で・・・」といった場合、それは単に書き慣れていないビギナーのぎごちなさ、あるいは語彙の不足、または力みすぎ、接続詞の多用・混乱などということが原因であり、しばらくのあいだ訓練、すなわち書き続けることで解消されるシチュエーションがほとんどですし、読み返してみれば自分でも気がつく良性の欠陥ですから、自助努力で改善することも可能であるとともに、近しい人に指摘されても比較的素直を受け入れやすく、書くほどによく上達しうると思われます。
とまあ、むしろ悪文とは上記のような文章のことです。一例ですが。
「あからさまな間違いはないが、なんかくどい」
「最後まで読んでると、何いってんだかわからなくなる」
「長くて読みづらい!」
つまり、テンポが悪い。あるいは、歯切れが悪い。こうした書き慣れているがため、妙な癖を持つ文章を悪文といいます。
そんなこといったら明治から昭和の半ばまでの小説は、文豪を含めてみんな悪文だよということになってしまいますが、こと現在のビジネス書に限ってはそうです。文章は歯切れ良く書いていかねばなりません。
なにしろ小説やエッセイと違って、書いてあることはそんなに面白くないのですから。
せめて文章はキレが良くないと。
■プロの文章とは
メールが普及し始めたころ、リテラシーということばが流行りました。文章力です。
では、文章力つまり作文能力とはなにか。
真っ赤なウソを真実のように書くこと・・・。ちがいます。
それは本多の最も得意とするところですが、詐弁の芸は文章力とは異なるものです。浪速の作家藤本義一氏が、かつてこう仰いました。
「一般の人が3行で書くことを一行で書くのがプロの文章の付加価値だ」
正確には、もっと鮮やかな言い回しだったのですが、概ねこういうことだったと思います。
すなわち最短の文章に最大の情報を搭載する。
う〜ん、リテラシーですねえ。
この定義で見た場合、作文の上で何が重要となるかというと、重複の排除です。
「勢い余って人が馬から落馬した」
あまりに陳腐な例で恐縮です。本多のパソコンでも、すでにこの重複に対する警告サインが出ております。
「馬から落馬」というあまりにベタな重複は、普通やりませんね。で、とりあえず「馬から」の三文字が省略されました。三文字リストラです。
一般の人はここまでで「いいかな」と思うでしょうが、プロは偏執的ですからもう少しリストラを試みます。
普通、猿や犬やキジは馬に乗りません。自分の肢か翼を使います。
乗馬なんて横着なことをするのは人間だけです。
よって「人が」も要らないね、とさらに二文字、鬼のようなリストラを試みます。それでもこの一文に込められていた情報量に変化はありません。ムダ取りですね。
一文字いくらの売文業にとって、文字を削るのは売上額を減らしていくようなもの、自発的な労働強化、値引き。そうした経済的肉体的苦痛に耐えながら原稿はつくられていくのです。
一方、文章には文脈というものがあります。
省略しても文意に不足がないかどうかは、文脈にもよります。
もし前段の文章で、桃太郎が犬と猿とキジで競馬をしていれば、この「人が」というのは効いてきます。シュールですが。
■ことばは文化、慣習に従う
もう一つややこしいのは、例えば「空を飛ぶ」というような、あからさまに重複ではないけれど、「空をと断らなくても普通飛ぶといったら空じゃん?」というような思考のラビリンスに陥るような表現です。
これを過剰に追究し重複を制限していくと、文章はダイエットの域を超え機能不全で死に至ります。
昔の本を見ると「やってみる」という表現を「やって見る」と記しています。
これを現代に援用すると「見上げてごらん夜の星」は「見上げてご覧夜の星」ということになります(しかし、星もたいてい夜だよなあ)。
「見る」も「ご覧」も同じ意味ですから、あきらかな重複です。
文法的によく考えたら「ほら!見て御覧なさい」などと軽々しく子供に言えることばではないはずです。
でも、日常的によく遣われる表現ですし、違和感もありません。
ま、こうした表現は慣習ということでスルーしましょう。
つまり気にしない。
あるいは、なにか別の意味や理由があるのでしょうか。ご存知のかたがおられましたら、無学な本多めにお教えください。
漢字には、同じ意味の文字を重ねて使っているものが多い。打撃、投擲、尊敬、思想・・・・。いくらでもありますね。
四字熟語を二文字にダウンサイジングするとき同じ意味の文字を選ぶということをルールとしたんでしょうか。
ですから日本語には、過度で安易な重複を避けるということと、同じ意味のことばを重ねたがるという傾向があるではなかろうかと思います。
ことばは時代とともに変化しますから、とりあえずその時代に同期している部分を切り取って使うしかありません。
そうした作業が作家ないし文筆家の使命なのでしょう。
結論としては、作家ではないコンサルタントのかたがたは、そんなにことば遣いを気にして書く必要はないし、多少はみ出すことがあってもOK!
わかればそれでよしということで、テンポよくいきましょう。
それより構成上のこと、例えばいつまでたっても結論が見えない、実例がないから説得力がないといった話の組み立てに注意すべきです。
■ずばり!文章づくりの解決法
ずばり!この際ゴーストライターに頼みましょう。
文章問題はこれですっきり解決です。
世の中、たいていのことは金で片づきます。
コンサルタントが本を出すねらいの一つは、やはり本業のPR。
作家ではないのですから、文章まで責任を負う必要はありません。
それならばゴーストライターを使うことも、本を出す上での一つの有効な手段です。
大工さんがつくっても私の家。自分で書かなくてもあなたの本。
世に出るのはあなたの名前です。
実際、現在好評発売中のベストセラーにもゴーストが書いているものが、知る限りでも5冊以上はあります。調べればその何倍かあるでしょう。
ゴーストといっても、なにからなにまでやれるわけではなく、肝腎のネタは著者が提供しなければなりません。
文章化するのがゴーストライターの仕事ですから、いわば川下産業、はっきりいえば下請け、外注。最近のことばでいえばワークシェアリング。
放てば満てり。
少ない印税を独り占めしようとせず、仕事を分かち合えば原稿づくりの悩みや苦労など一気に解消します。
さらに、それ相応の手練れを使えば、編集部とのやり取りも驚くほどスムーズに運びます。
ネタにつまっても助けてもらえるし、計画的に進行するので編集部も大喜び。書店にあってもそのまとまりのよさに他社編集部の注目を集め、次々とオファーが来る、可能性が高いのです。
「でも余分な金がかかる」とお嘆きに諸兄、メルマガ第26号「出
版することの経済効果 夢の印税生活!本を出したら儲かるのか?」を読み返してくだされ。
そこで書いたいい加減な・・・いや、画期的な経済計算式で検討してみれば、本業を断って執筆するくらいなら、ゴーストライターに書いてもらっちゃったほうがコスト的にも有利という結論になりますまいか。
ホームページや名刺を自分でつくる人はいますが、外注している人も多いはず。原稿だって同じことです。
■まとめ
みもふたもない解決法で恐縮でした。
どうしても自分の文章で本にしたい。ゆくゆくは作家になりたいというかたは、やはりせっせと書き続けていつかは晴れる青い空に夢と希望を託して、精進してください。
それはとても尊いことです。見ている人は見ています。
努力が報われない人生はない。
しかし、著書は本業のPRという邪まな・・・ではなくて、現実的なかたは、文章作成を外注することも選択肢にいれて、コストと経済効果をしっかり計算しておくべきです。
よいパートナーと組むことができれば、出版へのハードルはぐっと低くなります。
ただ、レストランにも美味いところとまずいところがあるように、ライターの看板を上げていればだれでもいいというわけではありません。
よほどラッキーでない限り「絵本作家です」という人に、ビジネステーマを書いてもらっても「上手な図解本ができた」などということはありません。
また、凸凹工業新聞とか○×経済新聞記者OBという場合でも、ビジネスものを書くのは上手くない場合があります。
大体構成が下手ですね。
とはいえ、この辺をチェックしておけば、文章自体は任せておけますし、執筆も早いので「絵本作家」よりは安心です。
では、どういう人が最適なのかといわれれば、やはりビジネス書、あるいはビジネス雑誌をつくってきた人でしょう(なんか我田引水・・・っていうか利益誘導?)。
あまり下心が見えないうちに、今回はこの辺で。
次回テーマは「ビジネス雑誌、業界紙からネタをキャッチする」でいこうと思います。