一度や二度の失敗なんて
おはようございます。
株の商いが連日史上最高というニュースが続いているので、平均株価は依然バブルの3分の1以下なのにどうしてなんだろうと疑問に思っていたら、「それはデイトレーダーが一日中売ったり買ったりしているからだ」と某銀行の新人営業に教えてもらいました。
売買高なんて「連結前の商社の決算」みたいなもんなのかと、いまごろになって知った本多泰輔です。
先週号で「1万部以下の不調に終っても、出版社へのアプローチ次第で2冊目は出る」と書いたところ、数名の読者から「第1作があまり売れないと二度目のチャンスがないと聞いた」という反論というか、声がありました。
初めて本を出す著者に対し、面と向って「これが売れなければ次はない」と言える某プロ野球オーナーみたいな編集者はまずいません(もしいたら今後の付き合いを考えるべきです)。
恐らく著者のほうから「これ売れないと次の本は出ないんでしょ?」と恐る恐る聞いた問いにあいまいに頷いたのだと思います。
出版社は本が売れないと倒産してしまいますので、できれば著者にも大いに頑張って販促して欲しいと思っています。
誤解であっても本人が見えざるプレッシャーを感じているなら、あ
えて否定する必要はないと、反則気味の販促に隠微な期待をしたの
だと思います。
そういうやりとりから「第1作が売れないと2作目が出ない」という話になったのではないでしょうか。海千山千に見えるコンサルタントの先生がたも著作に関しては案外うぶですね。
実際、第1作が売れなくても第2作でブレイクした人もいますし、
第1作も第2作も売れなくて、第3作でブレイクした人もいます。
あるいは第1作が売れたにも関わらずそのままで終ってしまった人も大勢います。
一度や二度の不発で諦めてはいけません。
■好調業界ほど学習意欲が高い
出版社に通りやすい企画というのは、売れてる本をパクったテーマ、その出版社の既刊本ラインナップのすき間となっているテーマと、ここで何度も書きましたが、自分に合ったテーマが類書にもないしすき間にもない、あるいはそういう姑息な手段はとりたくないという人のために、企画の王道というかごく当たり前のやり方をご紹介します。
ごく当たり前といっても、そこは自他共に認めるユニークさが売り物の出版メルマガ、凡百の切り口ではありません。
<その一、好調業界を仮想読者とする>
読者を決めて本を書いても、予定の読者が読んでくれるかはわかりません。ある医学書の読者はほとんど一般人でした。この本が人体局部の構造についての研究書で豊富な写真が掲載されていたためです。
また、戦前の話ですが、大正期に東京帝大教授が『相対性理論の研究』という学術書を出したところ、一般読者に飛ぶように売れました。
このとき著者である学者と某女史との間で、今でいう不倫スキャンダルがあり、みんな相対性理論を「相対する(つまり男女の)性についての理論」と思い込み、不倫のいきさつが書かれていると思って買ったそうです。
この話を知ったとき、日本人って本当はバカなんじゃないかと思いました。
企業がコンサルタントを呼ぶときは、業績が悪くて何とか立て直したいというときか、景気がよくなってきたからもう一段上を考えているときでしょう。
どちらのケースが多いかといえば、圧倒的に後者ですよね。
ビジネス書も同様な動きをします。
景気の悪い業種、業態、パッとしない職種、職域が対象となるテーマは、やはり本になってもクスブリです。
にっちもさっちもいかない閉塞状況で、あえてビジネス書にブレークスルーの糸口を見つけようという剛の者は少ない。
近所にある行列のできるラーメン屋にひと時の安らぎを見出し、わずかな小遣いを賭けてパチスロで勝負する、という人が大半なのではないでしょうか。
やはり好調な業界のほうをターゲットにすべきです。
■仮説を立ててテーマを考える
そもそもは、不調な会社こそ「勉強しろ」と唱えるべきなのですが、人の世の哀しさか「勉強するより仕事を取って来い」となるわけですね。
好調なところは余裕があるから社員に量より質を求め、レベルアップのための学習を要求する。かたや貧すれば鈍する一方、勝者と敗者の差は開くばかりです。
現在好調な業界といえば、パチンコ、チェーン飲食店、量販店(食品スーパー含む)、近頃になって証券会社、まあ、あと自動車、一部家電メーカーなど、調べればもうちょっとあるでしょうが、話の都合上このくらいにします。
【仮説1】
いま『さおだけ屋はなぜ潰れないのか』(光文社新書)を筆頭に会計の本が売れています。
業績好調とはいえ、パチンコ業界、フードサービス業界、量販店業界は、はっきりいってマネジメント暗黒大陸でした。ほぼ全員基本が弱い。
会社で一番大事なものは(私は人だと思っておりますが)お金。ようするに売上と仕入れと税金です。とてもカンタンな会計の本は、こうした人たちに大変需要があったのでしょう。
【仮説2】
金融証券、自動車、家電メーカーは、従来マネジメントは高い水準にありますので、基本ものには寄りつきません。
彼らは、より先進的、理論的、IT的マーケティングの読者です。一昨年の今頃は「大丈夫かしら」と思っていた東芝も、最近はHD対ブルーレイの一方に旗頭になるくらい頗る元気で、同病と思われていた日立とはまったく様子が異にしています。
やはり、GEを救った「6シグマ」は東芝でも効果を発揮したのでしょうか。
それはともかく、並みの中小企業ではその意味さえ判読しかねる、暗黒大陸業界にあっては存在すら知らない「6シグマ」を自社に取り込めるくらいのインテリジェンスがある企業ですから、最先端を行く手法やテクニカルなテーマでも十分読みこなせるのです。
ところで、パチンコ業界が絶好調なら、パチンコ業界向けの基本ブックをつくればいいだろうと考えたくなります。
好調な業界ごとに「量販店の会計」とか「飲食チェーンの商法」などをつくって売れるなら出版社も楽ですが、そうはいかないのです。
なぜかの説明は長くなるので(本当はわからないので)しませんが、要するに「読者は本を選べても本は読者を選べない」ということなんでしょうねえ。
とはいえ、そこに読者がいることはわかります。
だからといって編集者に向って
「パチンコ業界の読者ってやっぱり基本的でわかりやすいものを求めているんじゃないの」
「だから会計とか商法とか宣伝PRとか基本的なテーマで行こう」
などとストレートに提案してはいけません。相手はあなたほど業界に明るくありませんし、一業界の事情を出版市場全体に敷衍できるような飛躍した思考法を備えてもいません。
プレゼンには順序が必要です。
パチンコ業界、飲食チェーン等を核としてサービス産業でマネジメント学習の機運が高まっている(事実高まっていますが、データが足りない場合は脚色しても可)。
サービス産業の就業人口は全労働者の3分の2(だったかな?)を占める。彼らの多くがマネジメントの基本に弱い。いまわかりやすい基本ブックをつくればチャンスであると、一工夫二工夫加えることが必要です。
■時代は派遣
<その二、ニュースから拾う>
先般、さる銀行の派遣社員の女性が何億だか横領していたことが発覚し、ニュースになりました。銀行員の横領など珍しくないのですが、当事者が派遣社員だったというところが新鮮でした。
派遣だから異動がなかったのが事件の背景にあるということでしたが、まあそれはともかく、新卒や中途採用はなかなか集まらなくなってきている中、派遣社員の占める割合はかなり大きくなってきています。
これはテーマですね。
【仮説3】
「派遣社員の管理」
「派遣社員で失敗しない」
かつて「パート・アルバイトの活用」というテーマでは、よくマクドナルドのマニュアルが事例に取り上げられていました。最近ではディズニーランドでした。これからは「派遣」です。
【仮説4】
そして派遣にしても新入社員にしても、職場では同じニューカマーです。
そうすると「協調性」「コミュニケーションのとりかた」が問題になってきますね。これは受け入れる組織側にも新たに参加する当人にとっても重要なテーマです。ここでもテーマ発見です。
【仮説5】
ニューカマーにとっては「会社の仕組み」「組織の原理原則」を憶えておかねば、生存に関わります。
新入社員は、その会社の独自な風土を自然身につけていくでしょうが、漂白の民である派遣社員は、他社では通用しない独自性など身につけては生きていけません。
スタンダードな知識を持っていなければ、全体には通用しないのです。ゆえに組織論や行動科学(古い!)の基本は生活の知恵となるわけです。
考えてみると、日本の近代経営史上、初めてマネジメントの基本教科書が職場に生きる時代になったわけです。感慨しきり。
■まとめ
株の本が売れるのは株価が上がっているから。
本を読んでもう少しよけいに儲けようと思うからです。
株で損しないために本を買う人はいません。だって損したくなければ株を買わなければいいんですから。
同様に景気のいい業界の人間でなければ、本を読んで質を上げようなんてしません。だから好調業種に注目し、彼らの求めているのは何なのかを推理する。