おはようございます。
本多泰輔です。
自費出版大手の碧天舎の倒産が先週末ちょっとしたニュースになりました。なんでも250人ばかりお金を払ったのに本がつくられない人がいるそうで、債権者説明会の折、「詐欺だ、金と原稿を返せ」と騒然としたとか。
さらに碧天舎の社長が金曜朝のワイドショーに「わざわざ」出てきたため、もう一騒ぎあったようです。
自費出版とはいえ書店に流通させるのがこの会社の(というか昨今の自費出版会社はみんなそうらしいですが)特徴で、作家を夢見る人たちの血を大いに沸かせたようです。
4年間で1,400点つくったそうですから、出版点数だけならAクラス版元以上、総合出版社並です。この碧天舎のことは来週のメルマガで紙幅を割いてやります。
この騒ぎで自費出版に注目がかかり、いまやベストセラー作家『さお竹屋はなぜ潰れないのか』の著者山田真哉氏も最初は自費出版からのスタートだったことが報じられました。
そういえば神田昌典氏も始めはずいぶん身銭を切って出版したんだっけ、とかその他にも自費出版からメジャーになった人がたくさんいるんだということが、はからずも明らかになりましたね。
自費出版というと著者の格が下がってしまうように思う人がいますが、身銭を切ってまで本を出すというのは、ある意味よほど自ら頼む気持ちが強いのでしょう。それだけの自信があれば、なるほど確かにベストセラー作家になり得る素養があるといえます。
さて、本編は自費出版ではなく、版元から拝み倒されて出版した森昭彦さんに樋笠トップがインタビューいたします。
では本編です。
■日経コンピュータの連載がきっかけで
樋笠:森さん、本日はよろしくお願いします。さて昨年7月に日経BP社から『SEの会計知識』を出版されましたね。まずはその反響からお聞かせいただけますか。
【90分で学べるSEの会計知識 ITプロフェッショナルの基礎知識】
森:これは会計の純粋な専門書ではないですし、自分もコンサルタントとして会計でメシを食っている訳じゃないんですが、システムコンサルタントとしての実体験から「この程度のことはSEとして最低限知っていて欲しい」という思いで書いたんですね。
後になってベストセラーの「さおだけ屋」を読んだんですが、けっこう、ノリは同じじゃないかな、と感じました。まぁ面白く表現できている点では、向こうが数段上でしょうけど(笑)
反響は、アマゾンのレビューなんかを見ると、いい声もあり、批判もありといった感じです。売れ行きのほうは、類書もありますし、そんな爆発的ではないですがじんわり売れているといった感じでしょうか。
樋笠:森さんにとって、これが始めての単独での著書(単著)ですね。これはどういった経緯で出版が決まったのでしょうか。
森:私が入っている日本システムアナリスト協会のグループで「日経コンピュータ」という雑誌にグループで連載記事を書いていたんです。これは、『不条理なコンピュータ』というシリーズで、実はこの連載も、最近、本になったんですが。
【IT失敗学の研究―30のプロジェクト破綻例に学ぶ】
その連載の最終回に、「がんばれ、システムエンジニア」という思いを込めてコラムを書きました。
内容は、上から横からの不条理に対抗するために、自らもスキルアップを目指しましょう、最低限のコミュニケーション力や会計知識が大事ですよ、とコいったラムを書いたんです。それがたまたま編集部の目にとまり、一度会いたいと連絡を頂いたのがきっかけでした。
樋笠:なるほど。やっぱり雑誌の連載って、本を書くチャンスがあるんですね・・・。
森:それで編集者の方が、会計士関係の専門書でなく、SE向けに会計に関する実務的、実践的な内容の本をつくりたいという希望で。あくまでもアカデミックなものでなく、全体を網羅していなくて良いから実例や実務に即したノウハウを中心に企画しましょう、と。それでOKしたんです。
樋笠:こういったターゲットを絞った企画って、はまる人にはぴったりの本になりますね。
■出来上がった本に対するジレンマ
樋笠:執筆のほうはスムーズに進んだのでしょうか?森さんは、すでに共著で10冊以上、書いていらっしゃいますから意外とラクだったんじゃないですか?
森:いや、けっこうキツかったですよ(笑)。昼間はコンサルの仕事がありますんで、夜や休日を使って。なんやかやと言って3ヶ月以上掛かったかなぁ。
やっぱり会計の本なので、間違ったことは書けないですし、そのへんに神経を使いましたね。ただ構成というか流れは頭にできていたので、まだ書き上がるのは早かった方かなとも思います。
樋笠:編集者の方からのアドバイスなどは、いかがでしたか?
森:編集者は本当に超人的にがんばっていらっしゃいました。私が初稿を出した後は、編集者の熱意で一気にザーッと進んだ感じです。ただ売れる本として貢献できたか?どうかの部分は、自分では納得できていない部分もありますね。
自分としては、まず書くこと、表現することが好きなので、目的は果たしたという思いなんですが、完成して書評なんかを読んでいると、意図をわかってもらっていない部分もあったり。
例えば、会計処理の専門知識やアカデミックな部分を求められると期待はずれだったりする訳じゃないですか。そのへんの期待感とのギャップに難しさを感じています。
自分自身でも納得いっていない部分もあって、どこかおおっぴらに人に宣伝できない複雑な気持ちもあるんですよね。
樋笠:手放しで喜べないというか、やっぱり出来上がってもジレンマがあるものなんですね。
森:そうですね。ジレンマというのが的確かもしれませんね。後になってですが、編集部の部長さんから「売れない本を作るために、売れる本をつくるんです」なんて話をいただきました。ビジネスなので利益も大事だけど、売れなくても良い本はあるという意味だと思います。
「自分で棺おけに入れたくなるような本を作りましょうよ」とも言っていただいて、また頑張ろうという気持ちになりました。
■共著と単著のちがい
樋笠:森さんは過去に10冊以上、共著で書いていらっしゃいますが、共著と単独の著書との違いはどう感じましたか?
森:共著の場合、構成上の調整、例えばネタがかぶったりしないか、文体は統一されているか、など気を使いますが、分量自体はさほどでもないので、その点は楽ですね。アイディアや知識・経験がふんだんに盛り込まれる点も良い点だと思います。
単独の場合は、調整は必要ないんですが、やっぱりボリュームがありますし、けっこう大変は大変です。ただ共著の場合も、単著の場合も、意見のぶつかりあいというか、対立が大事ではないかと思います。
共著の場合は、執筆者同士で、けんかにもなりかねない雰囲気でお互いのこだわりや意見をぶつけあったり。そういった中で、内容としてはじける部分が出てきて、良い本になるという気がしています。単著の場合は、まだあまり経験がないのですが、編集者との対立があるといいんじゃないかなぁ。
樋笠:そうですか。やっぱり違う意見を戦わせて、練り上げることって大事なんですね。ところで、ちょっと立ち入ったことですが、かなり本を出していますし、
印税のほうは・・・山分けですか?
森:共著はページ数で割ることが一般的ですかね。そんなに大した金額じゃないですよ。いつも条件面はお任せなんです。自分自身の中で、書くことが好きですし、何か形になるものを残したいという思いでやっていますので、あんまり印税とか考えていないですね。
やっぱり本っていうのはいちばん「形」として残しやすいじゃないですか。自分の中では、コンサルティングをやったり、ITタレントとかになってテレビに出てみたいとか、やりたい事はいっぱいあって。本を書くことも、その中のひとつという位置づけです。
それから今回みたいに頼まれた仕事は、頼んでくれたこと自体が嬉しいじゃないですか。頼まれた仕事は決して断らない主義なんですよ。(笑)
■まずは良い先輩を見つけてついていきましょう(笑)
樋笠:では最後に。本を出したいという友人のコンサルタントへ、何かアドバイスするとしたら?
森:まじめな研究会なんかに入れば、必ず本を出そうという話や出版経験のある人が、一人くらいはいるものです。まずは、そういう経験のある人についていけば、ステップアップしていけるんじゃないでしょうか。
書いているうちに編集者とも知り合いますし、知り合いができれば、書きたい企画を見てもらうのもいいんじゃないかと思います。
以前、メーリングリスト&メールマガジン活用法という本を企画して共著で書いたことがあるんですが、その時は、前に参加した共著の関係で知り合った編集者に企画を出しました。たまたまですが、意外とすんなりと企画が通ったので、ああこんなこともあるんだなってびっくりしました。
それから、もし本当にすぐに書きたい企画があるんだったら、当たって砕けろ、というかこれはもうすぐにでも行動すべきです。
樋笠:森さん、本日は花粉症で具合がよくない中、どうもありがとうございました。
■まとめ
再び本多です。
話はまた碧天舎で、四面楚歌の社長自身が朝のワイドショー(日テレ系)に出演するというので、仕事にも行かずに朝からテレビを見てました。
MCはお笑い芸人だったと思うが名前が思い出せない男性、アシスタントは局アナらしき女性(やはり知らない人)、テリー伊藤(イチゴミルク色の帽子が不気味にかわいい)、あと知らない女流漫画家(杉浦日向子みたいに和装、でも絵はスゲー下手だった)、知らないイケ面弁護士、その他(記憶に残らず)・・・。
・・・がコメンテーターで居並び、8時半くらいから30分間、碧天舎の社長をまるで自分たちが被害者かの如く罵りまくり、とってもばかばかしかったですが、碧天舎社長が時折うっかり漏らす業界の仕掛けをせっせとメモしておりました。
日テレのワイドショーもあれだけ特殊な才能(追及すべき論点がわからない、私的な感情を優先する、当事者の話を聞かない)のコメンテーターをそろえるには並々ならぬ苦労をしたと思います。プロデューサーはきっとかなりの辣腕に違いありません。
その中でも女流漫画家が口を極めて碧天舎社長を非難していましたが、発言のたびに「私はプロで・・・」と暗に自費出版の著者との区別を強調するところが姑息でしたね。
最後には「二度と社長とはお仕事しません」と極めて私的な捨て台詞。過去に世話になったことがあるなら、もう少し暖かい激励をしてあげてもいいような気がしましたけど・・・。
あっ!もしかしたらここの読者にも関係者がおられるかもしれないので、ひとつだけ申し添えます。
こういう時には「うちが替わりに出版しましょう」と言ってくる業者が現れます。良心的なところもあれば、良からぬ下心を持って近づく業者もいるでしょう。
いずれにしてもタダでやるところはありません。いくらかの追加料金を求められるはずです。恐らく50万円、加えて広告費は別ですとしてくるでしょう。あるいはその他に営業経費を求めてくるかもしれません。
どうするか決める前に次のことを知っておいてください。
印刷所がコケたら原稿は紛失しない限り戻ってきますが、出版社は潰れても出版権(=原稿)は資産ですので著者が返せといっても一定の条件が満たされないと戻ってきません。
原則として出版権は原稿入稿後6ヶ月を経て出版が実行されなければ消滅させることができます。そうすれば原稿返却を求められますので、契約書に出版権についてどのように記載されているか、原稿を渡したのはいつか、確認してください。
また、ひょっとすると原稿はすでにDPT(編集・レイアウトが済んだ)の段階まで進んでいるかもしれません。
そこまで進んでいれば、最近の印刷製本技術は小部数少予算でもかなり柔軟に対応することが可能です。なるべく作業の進んだ状態のものを入手するようにしてみてください。
資産である出版権を売却して返済に充てることは管財人の仕事ですが、出版権が別の出版社に売却されたとすればそこから出版されることになりますので、これならまあ結構な話です。
しかし、ここでも入稿後6ヶ月を経ても一向に出版される気配がなければ、前述の通り出版権を消滅させ原稿を引き上げることができます。
また「出版権を譲り受けたが、出版流通させるためにはあといくらか必要だ」などという話も起こり得ます。その場合、よしあしは一概には申し上げられないので、別途このメルマガ宛に質問してください。
ということで、まず甘言を用いて近づいてくる業者に返事をするのを急いではいけません。「一週間以内のご返事なら30%値引きします」と言われても慌ててはいけません。そういう業者は一ヵ月後でも値引きします。
ではその他の論点についてはまた次回。
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《著者プロフィール》
森 昭彦(もり あきひこ)
有限会社オフィス・ビー 代表取締役/システム・コンサルタント
1961年生まれ。大学卒業後、産業用機械の販売会社に18年間在籍し、製品品質管理、製品修理、システム設計、営業支援、業務管理、情報システム構築、情報戦略作成・進行、経営企画等の業務に従事後、2002年1月に独立。保有資格は、上級システムアドミニストレータ、中小企業診断士、システムアナリストなど。
《参考コラム》
『労働時間を基準にした利益管理の指標』
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