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第073号 『本を書く人へ』

おはようございます。
本多泰輔です。

まあ多くの人の予想どおりではあったと思いますが、サッカーW杯、残念でした。

3月の野球のWBCでは、予選落ちの危機から世界最強のUSAメジャーリーガーが敗れて決勝トーナメント進出という起死回生の逆転劇がありましたので、同様の奇跡を期待していたのですが、やはり現実はこの辺りが実力なんでしょう。

みんなわかってはいたんでしょうけど、スポーツマスコミが煽るもんだから・・・。スポーツだってもう少し正確に報道すべきなんじゃないですかね。まあ、ニュース報道が正確だとは言いませんけど。

ジーコの采配に非難轟々ですが、Jリーグ発足前のサッカー後進国日本の住友金属にジーコが来たのは、高額が報酬のためだけではないはずです。スーパースターで母国ブラジルでは大臣までやった人ですから、金なら十分にあるでしょう。

強引な譬えでいえば、長嶋茂雄がケニアに行って野球監督をやるようなものです。恐らく周囲は止めたでしょう。いまさら分の悪い話に乗る必要はないのは、わかりきっています。

いろんな事情はあったにせよ、代表監督を受けるときにもそこに頂点でサッカーやってきたものの使命感のようなものがあったはずです。

とはいえ、負ければ一番の責任を問われるのは監督の宿命。非難轟々もむべなきこととはいうものの、スポーツマスコミの安易な姿勢に同調するのもいかがなものか・・・。

いずれにしてもあと2年でオーストラリアには勝てるチームになって欲しいですね。次回からはオーストラリアが同じ地区予選アジア枠ですから。W杯本戦進出がまた遠のいてしまいます。

さて、今回はW杯予選敗退に無力感いっぱいの本多が、気力を振り絞ってお送りする珠玉のメッセージ、題して「本を書く人へ」。

けっしてW杯観戦にうつつをぬかし、データ収集を怠ったわけではありません。


■本を書く人へ・・・その一


本を書く人は、また本を読む人でなければなりません。

「私は本は書きますが、めったに人の本は読まないんでねえ」という人にはいまのところ出遭ったことはありませんが、これではいけませんね。

「本が売れない」背景はご自身が本を買わないことにもあるわけです。出版側の本音からすれば、本を読まない著者に本を書いてもらうことにはかなり抵抗を感じます。

だから外国人作家の本、つまり翻訳ものは出したくないという人もいるくらいです。そう言いながら実際は出してますけど。さらにそれが一番売れてたりしますけど。著者を志すかたは、せめて毎月5冊以上は読んで欲しい。

ご自身の専門分野は別です。
専門分野の本は仕入れみたいなモンですから。

専門以外の本を月5冊、買ったほうがよいですが、世の中には買うといつでも読めるからと安心し読まないままにする人もいますので(そういえば全集って買ってから一度も読んだことないなあ)、図書館で借りることもOKとします。

この際、ブックオフで買うこともよしとしましょう。ジャンルは問いません。ただ、偏らないほうがよいと思います。

現代小説、歴史小説、法律書、税金の本、宇宙の本、建築の本、健康の本、哲学書、占い本、ライトノベル(一冊くらいは参考のために)、古典、漢文、古代史、オカルト、分子化学、マンガ・・・その表現法、語り口、語彙、事例、雑学、参考にならないものはありません。

ものによってはほとんど参考にならない本もありますが、それでもひとつくらいは収穫があります。そうやっていくつも読んでいくと面白さというのは、格別文章の上手い下手で決まるわけではない、古典など今日にはなじまない、ぶつ切りの表現であっても面白いものは面白いということに気づきます。

ベストセラーは意識して読まなくてもかまいません。
ベストセラーはいろんな意味で例外だからです。

でも、たまにはひとつくらい読んでみてもよいと思います。
そこにはやっぱり時代の後姿がありますから。

ちなみにベストセラーはブックオフでもすぐ買えます。

ベストセラーはともかく、売れてる本は一応目を通しておきたいものです。売れてる本とは、ベストセラーほど著しくないまでもそこそこ売れてる本。現象面では、書店に行くといつも割りと目立つ場所に置かれている本です。

書店によって置かれている本が違いますが、大型書店で長いこと平積み(表紙が見えるように積んである)になっている本は準ベストセラーかロングセラーです。こうしているとたちまちの間に月間5冊は超えてしまいます。


■本を書く人へ・・・その二


本を書く人がやってはいけないこと。

“和田画伯のようなことはしてはいけません”

和田画伯とは微妙に違いますが、ネットで検索したことを継ぎはぎして原稿を作ることも自ら戒めるべきことです。

便利なモンで、昔なら図書館か古書店まで身体を使って調べるか、金をかけて手下、または助手に調べさせるかしたものをネット検索ならアホな手下よりはるかに的確な情報が瞬時に取り出せます。

それでネットで見つけたテキストをそのままコピーし貼り付け貼り付けしているうちに、そこそこまとまった原稿になってしまいます。

これならどんなテーマの本でもちょちょいのちょい、法律の解釈やシステムの解説にオリジナルというのはつまり異論、暴論、普通はだれがやろうと同じような結果になってしまいますから、入門の本ならネットの落穂拾いでできないことはありません。

なんかどっかで見たことがあるような文章の塊ですが、凡そ入門書というのはそういうものです。ユニークさを出せるのは比喩と表現法(図解にするとか、マンガにするとか、数式であらわすとか)しかありません。

さはさりがら、否バウアー、だれでもできるからこそ専門家として世に貢献する立場を自負する著者は、そういうことをしてはいけません。つまり、自らの目で見、耳で聴き、身体で体験したことを書いてこそ著者のことばは読者に届くのであります。

専門家とは素人から見れば熟練の体験者ですから、身体で覚えたことを伝えるのがミッションというものです。著者たるもの書き手としての矜持を失ってはいけません。


■本を書く人へ・・・その三


10年先に残せるものを書こう。

出版を商売にしている出版社の共感を得るには、時代に迎合したテーマで企画を出すこともやむを得ません。とはいえ、その内容までも一過性の儚いものである必要はありません。10年先にも通用する中味の濃い、深みのある内容を目指すべきです。

本は著者の分身です。

たとえ本業のセールスプローモーションのための出版であろうとも、刹那的な内容で構成したり思いつきレベルのアイデアだけでまとめることは避けるべきです。それは運だけを頼りにブラジルに向っていく日本サッカーといっしょです。

自らの体験を振り返り、整理し、分析し、十分吟味して一つのテーマにまとめる、つまり書くための準備をしっかり整える必要があります。思いつきでまとめるということは、結局まだ本を書く準備ができていないということです。


■本を書く人へ・・・その四


出版とは著者と出版社の共同プロジェクトです。どちらかがどちらかに一方的に頼み込んでやるものではありません。

きっかけはいずれかにあるにせよ、やるとなったらそれは共同で行われます。寿司屋のネタのように仕入れた魚を寿司職人が加工してお客に出す、というものではありません。

分業しているとはいえ、両者の関係は全工程を通じて影響し合う共同作業です。原稿さえ入れれば「あとはよろしく」と思いがちですが、それほど手離れのよい仕事ではありません。

レイアウトにまで口を出す著者は現場では嫌われるタイプですが、本当はそれでいいのです。

ただ、往々にして口を出すタイミングが悪く、作業が遅滞するような事態になるので現場が鬱陶しがるのであって、発言を拒む理由は版元にありません。ただし、共同作業である以上版元も相応の主張はします。

結果どちらの意見を容れるかはともかく、出版社が著者の顔色ばかり窺ったり著者が出版社にまかせっきりで顧みないという情況は何ら健全ではありません。

普通は、原稿は著者、それ以降編集制作販売は出版社と分解されているように思いますが、共同作業である以上著者は編集にも販売にも関係します。

関係しない本は結果論としてもよい本ではありません。「あとはよろしく」はスケジュールのきつい月刊雑誌くらいまでで、単行本に本来「あとはよろしく」はないのです。


■まとめ


メルマガ発行から二度目の夏がやって来ようとしています。今年こそ夏は軽井沢か北海道で仕事しようと昨年も思っていましたが、結局避暑地で仕事などまたまた夢に終りそうな気配です。

黒部の山小屋の番人をしないかという話もありましたが、クマが出るのはまあいいとして携帯が通じないインターネットができないのでは、ネット落穂拾いばかりやっている拙い本多としては仕事にならないので諦めざるを得ませんでした。

せめて電話の通じる避暑地へ呼んでくれる話はないのかと思う今日この頃です。

ではまた来週。



    《編集後記》
 
本を書く人へのメッセージ、いかがでしたでしょうか。最近はテクニック的な情報が氾濫していますが、こういったシンプルな内容に真理があるのかな、と私は思いました。とくにコンサルタントにとっては『本は著者の分身です。10年先にも通用する中味の濃い、深みのある内容を目指すべきです』というのが重みのある言葉ですね。

私もamazonを良く見ますが、評価されているビジネス書でも、数十年前の本がかなり多いことに気づかされます(発行者:樋笠)


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出版プロデューサー/本多 泰輔(ほんだ たいすけ)

プロデューサー・本多泰輔氏は、ビジネス出版社(版元)で20数年の経験をもつベテラン編集者から、出版支援プロデューサーに転身した人物です。その考え方について詳しく知りたい方は、本多氏編集のメールマガジン『コンサル出版フォーラム!本はあなたをメジャーにする』のバックナンバーをご一読下さい。








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