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第075号 『企画会議の壁を抜ける術』


おはようございます。
本多泰輔です。

W杯もやっと終了し、とりあえず深夜に起きている理由がなくなりました。

ところで先週は週の頭に中田引退、週半ばにミサイル騒ぎがあり退屈しない一週間でした。中田引退はどうでもいいですが(多分、講談社あたりから手記が出るんでしょうけど)、北のミサイルはちょっと興奮しました。

田岡俊次さんによれば今回のミサイル発射は、北のミサイルレベルの低さを証明し軍事的プレゼンスを一段と引き下げただけ、小川和久さんもあまり深刻な事態とは捉えていませんでしたが、そうしたかつて私がお世話になった軍事専門家の話を他所に、マスコミの論調は相変わらずヒステリックで大阪冬の陣で本丸の近くに流れ弾の砲弾が落ちただけで和睦に走り、外堀を埋められてしまった淀君のようです。

それでも98年のテポドン騒ぎのときよりは平静な感じがします。日本のマスコミはあのときを契機に半北朝鮮になりました。瀬戸際外交も諸刃の剣、このメルマガをご覧の北朝鮮首脳のかた(いないでしょうけど)、やはりミサイルより六カ国協議で話し合ったほうがいいっすよ。


■壁の穴


壁の穴といっても新宿西口の京王モール(新宿駅前で一番悲惨な商店街)にあるスパゲティ屋さんではありません。

企画を持ち込んでもなかなか通らない。編集者は前向きな発言をしていたのに「企画会議で通りませんで」と言われボツになってしまった。だれでも一回はこういう経験があります(一回も持ち込んだことがない人はもちろん経験ないでしょうが)。

企画会議は高い壁です。ところがこの壁に穴が開くときがあります。ある時期、ある条件が重なったとき、時空間にワームホールが空くように(SFでは必ず空きます)そこからいきなり向こう側へと通り抜けられるのです。

条件その一は、年間100点以上の新刊を出している版元でないとなかなかワームホールは空きません。

条件その二は、決算の4ヶ月前から2ヶ月前にならないと空きません。条件その三、空いてもすぐ閉じられてしまいます。

つまりこういうことです。

年間100点以上の発行点数を持っている出版社は、ある種メーカーのような性質を持ちます。年間の生産(発行)ノルマが発生するのです。売れないものをつくる必要はないだろう、というのは社長と外部の人間の言い分で、組織は理性とは別のロジック、個人の都合の集合によって動きます。

編集部員にはとにかくつくらなくてはというプレッシャーがかかり、特に編集長はなんとかつじつまを合わせることに心を砕くようになります。営業からも矢の催促が来ます。

その年、大ベストセラーがあったとか、中ベストセラーが5本連続したとか、一生の運を使い切ったような好況に会社があれば営業部も催促などしませんが、大体そんな状況ではありませんので今期の目標をクリアーするためには、売れるかどうかはともかく予定の点数を出せと編集部に迫ります。


■外圧もある


最近は取次ぎとの特約などがあり、出版社にはそちらの方面からも一定の条件が課せられます。発行点数、発行部数、返品率、特約といっても実際は取次ぎのひとつの「商品」ですから、なるべくペナルティに至らないよう配慮されていますが、それでもかばいきれない事態は起こります。

発行部数や返品率はどうなることかわかりませんが、版元はせめて発行点数の約束くらいは守ろうといたします。というような条件下にあって、編集部は手元に適当な企画がない場合、往々にして適当な持ち込み企画に飛びつくという傾向があります。

では、いかなるタイミングで企画書を持ち込めばよいか。まあ、ここまでの話ですでに見当のついている人もいるでしょう。頃は、そう、決算期が目安です。出版社の決算は取次ぎが3月決算であることから多くは3月です。

ま、別に取次ぎに合わせなければならない理由はないので、新しいところは必ずしも3月ではないようです。このへんもホームページで確認しましょう。


■穴は二度開く


編集長がそろそろやばいなと思い始めるのが、決算期の4〜6ヶ月前、このあたりで予定遅れの企画や間に合いそうもない原稿が顕在化してきます。3月決算であれば11月か10月あたりがその時期です。

もはや、どうやりくりしても穴が開きそうだということが見えてきます。絶望の暗い穴です。そして同時に企画会議の壁にもぽっかり穴が開きます。

さて、編集長は考えます。


「3月ばかりに大量に集中することはできないので、できるだけ1月、2月、3月と上手く振り分けよう、そのためにはできるだけ原稿の早そうな人を優先してチョイスしなければ。場合によっては補助的にライターを付けてもいいや(コストは印税から引くし)」


つまり、このタイミングに間に合うよう10月以前に企画書を送っておけば良いわけですが、瀬戸際で考える人間は遡って企画を探すよりも目の前を捜します。やはりタイミングを見計らって企画を送ったほうがチャンスの芽が出るか、確率は高い。

ふと机の上を見ると
「おや、こんなところに企画書が・・・これで行くか」(理想図)

という具合です。

さて、10月、11月に編集部から電話が来なくてもあきらめるには早すぎます。実は企画会議の壁の穴が開くタイミングはもう一回あるのです。

年度内のノルマを達成するため四苦八苦した編集長は2月になってほっと一息、どうやら今年はなんとか目標点数をクリアーできそうだ。やれやれ。と思ったのもつかの間、2月3月に点数を突っ込んでしまったため5月のラインナップに穴が・・・。

4月は新年度であり定番商品も多くあまり企画に困ることはありません。しかし、年度末を乗り切るために手元の企画を使い切ってしまった編集部は、5月の企画でまたぞろピンチに陥ります。

困ったな。もう本当にないぞ。と呟きつつふと机を見る。
「おや、こんなところに企画が・・・ま、これでいいか」(理想図)

という運びです。

以上、企画会議の壁には年間2度ほど穴が開きます。自信のある企画も自信のない企画もこのタイミングで持っていけば、ちょっとだけことが有利に運ぶ可能性があります。

ただし、企画自体が季節性やタイミングのあるもの、例えば新入社員ものであるとか法改正に関する企画などは、そのタイミングで企画を提案しなければなりませんから壁の穴を使うことはできません。

では、年間100点以上発行している出版社はどこか。おなじみランキングでいうとDクラスまでは確実に100点以上です。あとは出版社のホームページでも探ることができます。

または、書店に行き、どこに行っても本が置いてある出版社であれば、年間の発行点数は100を超えていると見て間違いありません。

そこらへんがねらい目です。


■まとめ


上手く発行スケジュールのエアポケットに収まるかどうかは、残念ながら予見することはかないません。企画段階の発行スケジュールなど秘中の秘ですから、外からはうかがえません。

年度半ばでまだ50点に届いていないとか、3割程度だとかは、丁寧にホームページを見ていけばわからんことはないですが、それが企画が不足しているのか方針が変わったのかまではつかみきれません(スパイがいれば別ですが)。

ですが年間100点以上発行している版元は、広く見れば70社以上ありますからそれぞれに送っておけば一社や二社は穴埋めに悩んでいるはずです。


■おまけ


<ミサイルうんちく>

第一次湾岸戦争のときイラクはイスラエルに向って39発のスカッドミサイルを撃ち込みましたが、人的被害は2人。2人とも心臓麻痺だったそうです。びっくりしたんですかね。あるいは普段走らない人が一生懸命地下街やシェルターに逃げ込んだんでしょうか。やはり自己防衛は普段の健康管理です。

いまだにミサイル一発あたりの被害発生率で、第2次大戦末期ナチスドイツがロンドンに撃ち込んだV2号を上回る結果は出ていません。つまり通常弾頭のミサイルの破壊力は驚くほど小さいのです。

一方、迎撃ミサイルもほとんどあてにならない。イラクのスカッドを迎撃するためパトリオットミサイルがイスラエルから発射されたのですが、このときの迎撃率が後々米国の研究で6%と判明いたしました。

ですから個人的には今般にわかに追い風が吹いた感のあるミサイル防衛システムには、精度の面においてかなり疑問があります。

ま、もっともミサイル防衛システムは共同開発ですから、今後の進歩に期待するということで現在の精度が低いのはスタートラインだから当然ともいえます。

それにしてもミサイル防衛システムができれば、まるで無傷ですむような幻想的印象を与えていることには釈然としないものがあります。



    《編集後記》
 
壁の穴・ワームホールとは、実際に企画会議で苦しんできた本多さんだからこそ書けるインサイダー情報?でしょうね。こういった組織の事情は、意外と、非合理的だとばかにできない側面があると思います。

これから企画書を考えている方は10月を狙ってみると、うまく穴があくかも・・・(発行者:樋笠)


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出版プロデューサー/本多 泰輔(ほんだ たいすけ)

プロデューサー・本多泰輔氏は、ビジネス出版社(版元)で20数年の経験をもつベテラン編集者から、出版支援プロデューサーに転身した人物です。その考え方について詳しく知りたい方は、本多氏編集のメールマガジン『コンサル出版フォーラム!本はあなたをメジャーにする』のバックナンバーをご一読下さい。








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