おはようございます。
本多泰輔です。
そろそろ夏本番。本なんか読んでる季節じゃありませんね。
涼しい避暑地で文庫を片手にベンチで憩う姿なんぞが電車の中吊り広告に出てきたりしますけど、はっきり言ってこの季節本は売れません。
雑誌は夏の特集号なんてものを出しますが、別に売れるからではなくて編集部および印刷所が休むためです。
取次ぎと書店は、旅行ガイドや登山ガイドなど季節に応じて売れるものぽつぽつありますから休みません。でもお客は少ないので夏期講習に通う受験生を煽る、そういう季節です。
そんな夏枯れが約一ヶ月続く出版業界ですから、ネタを持ち込むなり顔をつなぎ誼を通じるにはいい季節といえます。出版社で全社休業というところはありません。
なにしろ書店は通常営業しているのですから、夏期休暇は半減上陸、交替で休暇を取りますので編集部員も少なくても常に半分はおります。
ところがこの時期、特にお盆に当たる8月15日の週は、印刷所が休みのところが多く世間も基本的に夏休み、都心のオフィス街にある出版社だと飲み屋も休みという状態になりますので、出社しても割合ヒマです。
だれか来ないかなあーと思っている編集者が各社に一人や二人、間違いなくおります。そんなとき「新規企画の件でお話したい」という電話でも来れば…
「人の行く裏に道あり山桜」
暑い夏にもチャンスはあります。
これだけいえば今週はもういいかな、と思いもしますが長いメルマガをお望みの皆様に失望させてはいけないので、あえてもう少し続けることといたします。
■夏といえば
大体この時期は11月から12月、年末にかけて発行する企画を仕込んでいます。そういえば今年の暮れで期限を迎える税制措置がいくつかありますね。
過去の時限立法は景気対策的色合いを濃く持っていましたが、政府の認識では景気回復基調にあるということですから、このあたりは再延長なしでガラリと(元に戻るだけですが)変わると思われます。
あまり魅力的なテーマではありませんが制度の変化は基本的にビジネス書にはチャンスです。大蔵財務協会のような専門のところでは周知でしょうが、多くのビジネス書の版元は、ほぼそのような細かいことは知りません。
税制改正をそのままテーマにする出版社は財協を除けばほとんどないでしょうが、景気対策税制の期限は19年3月末、20年3月末が多いので企画のヒントにはなると思います。
例えば年金基金や退職一時金づくりと不動産資産のオフバランスには特例税制が使えるうちにやっといたほうが得なのでは、などなど。ひとときのヒマをむさぼっている編集者も大いに啓発されると思います。こうしたテーマは他にもいろいろあるのではないでしょうか。
ともかくも、色々企画を持ち込むにはよいチャンスといえます。10月、11月に出版された本がベストセラーになることは多いのですよ。つまり夏に仕込んだ企画がベストセラーなることは案外多いのです。
古くは昭和20年に3ヶ月足らずのうちに350万部を売り上げた伝説のベストセラー『日米会話手帳』も真夏の8月15日に企画されたものでした。
期待しましょう。
■セミナー企画
最近はあまりビジネスセミナーのお知らせを見ることがなくなりました。投資セミナーは、株価も上がっていたし郵便局や銀行でも買えるようになったので、春先までけっこう賑やかだったのですがそれもここのところあまりお見かけしませんね。
もともと夏場は本やセミナーがあまり流行らない時期ではあるのですが、いわゆるマネジメントセミナーは年間を通じて随分少なくなってしまいました。
かつてマネジメントセミナー華やかなりしころ(ということはつまり30年以上前ですね)、セミナー成功の法則がありました。私が教わったのは25年前ですが、多分いまでも変わっていないと思います。
その法則とは
「業界新聞に出た後で、業界誌に出る前の新テーマは絶対に当たる」。
業界紙と業界誌は実際同じようなものなので、この間隙を抜くのは達人の技ですが、業界紙ないし業界誌に新テーマが登場した段階で企画して、マネジメント雑誌に頻繁に出るようになる直前のタイミングでセミナーを開催できれば失敗はないというふうに当時私は理解しました。
つまり、どういうテーマかというと、世の中の人がまだよく知らない用語が出て来たときがチャンスなのです。
ORとかIEとか、いまだによく知られていない用語もありますが、こうしたことばが新聞にちらりと出始めたときがビッグチャンス、世間が知らないのだからセミナー企画者も知るわけがありません。
たいてい何だかわからないまま記事に登場している研究者(大体当時は学者ですね)を講師に立てることになります。そんなことでも成功するのがセミナーなのですね。はっきりいって主催者にインテリはいません。
出版だって似たようなもので、原稿読んでるうちになんとなく知恵がつくものの企画段階では何にもわからないまま原稿依頼することもあります。
一方、受講者はインテリばかりです。知的需要はエリートのほうが高いですから、大手企業の幹部、管理者が大挙して押し寄、セミナーは大成功というのは、こうした意味不明の専門用語をテーマにしたときでした。
ちょうど着火した炭が燃え盛っているころでしょうか。
■セミナー企画と出版物
本は原稿を書く、編集するという作業がありますから、セミナーに遅れることほぼ1〜3ヶ月で書店に現れますが、この段階ではもう炭はだいぶ灰になりかけており、かき回してやればときどき赤く燃えるという程度でした。
目新しい用語のテーマというのは、用語が世間に流布してしまったらおしまいなのです。つまり、いま話題のナントカで本をつくろうというのは、花が散った後でお花見に出かけるようなものです。
稀に世間に知られてからも、なお二つ三つ展開してブームになったTQCのようなものもありますが、ブームにまで高まるときはエリートのみならず中小企業までセミナーに参加し始めたときです。
エリートと違って底辺が大きいですから、中小企業まで及べばかなり長い間ブームが燃え盛るということになり、遅れてきた本でも十分ブームに便乗し恩恵をこうむることができます。それでもそういうけっこうなテーマはごく稀にしかありませんでした。
TQCは日科技連を中心に出版物もセミナーも随分成功しましたが、ISOはセミナーは早い者勝ちで一部が成功という程度、本ではほとんど見るべきものはありませんでした。
QCの後、ロジスティクスブームというのがあり、セミナー業界では成功したテーマでしたが出版物としては全く火がつかないまま終りました。
その後も10年に一回くらいロジスティクスブームというのはありまして、直近ではサプライチェーンマネジメントの流れの中でサードパーティーロジスティクスという新しい装いで現れたのですが、これはエリート向けセミナー止まりでした。
ところが最近そのセミナーがあまり流行りません。セミナー業界は同じことをやっているはずですが周囲のほうが変わってしまったのです。
■出版のタイミング
ひとつは受講者たる知的需要の高いエリートは、納得するまで自分で調べてしまうようになってしまいました。
かつてはなまじ情報感度がいいものですからセミナーにせっせと通ってきたのですが、新しい用語の概念と概要を知るだけならウェッブからでも十分拾えますし、実際に導入するなら個別にプロジェクトを組んで講師を招きますから一次情報としてのセミナーの持つ役割は減ってしまいました。IT化による変化といえます。
もうひとつは出版物の発行が早くなったことがあります。
これも技術的はITですね。
セミナーといえども、今日思いついて明日やることは不可能です。なぜなら人を集める以上、どうしても相応の告知期間は必要です。普通1ヶ月では短く、2ヶ月以上告知期間をとるところも珍しくあ
りません。
30年前は単行本は長く売るもので、技術的にも精神的にもスピード重視ではありませんでした。それがこの間大きく変わり、いまやセミナー開催と単行本の発行に時間的な差はなく、優雅な業界団体よりはよっぽど早く本のほうが先に出てしまうことがあります。
ゆえにかつてセミナー成功の法則はいまや単行本成功の法則となった感があります。要するに新しいテーマをどこよりも先に出すということです。そのためにどこから情報を拾えばよいか、ここが成功の鍵となります。
さあ、明日から業界紙30紙に毎日目を通しましょう。1年続けていれば売れる企画は手に取るようにわかります。
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