おはようございます。
本多泰輔です。
最近『セミナー講師で稼ぐ法』(総合法令)という本を見ました。もの凄く売れているというわけではありませんが、かなりよい動きをしているようです。
「コンサルタントになるには」とか「講師の技術」的な本は昔からあるのですが、ほとんど売れないジャンルでした。このメルマガ同様、狭い範囲の読者をねらうのですから、そう大部数が出るはずもありません。
ところが上記の『セミナー講師・・・』は、それら超地味な本に較べるとかなり部数が伸びている本で、ビジネス書の中でもいまのところ売行き良好書の部類に入ります。
『・・・で稼ぐ法』というところが効いているのでしょうか。このメルマガも「本を書いて稼ぐ法」とすれば、もう少し人気が出たのかもしれません。
果たして07年問題が影響しているのか。それとも会社勤めを嫌う人が増えているのか。それなら「研修講師で稼ぐ法」「コンサルタントで稼ぐ法」というのもいけるのでしょうかねえ。今度企画書つくろうかな。
■版元にとって出版とは
いまさら言うまでもありませんが、版元(出版社)にとって本は商品であり、出版は事業活動に他なりません。本を作って売るのが商売です。その点では一般メーカーと何ら変わるところがありません。
ただし、一般メーカーに較べると新商品を送り出す頻度が異常に高い、例えば自動車メーカーなら新車発表は年に数台、モデルチェンジをいれても十数台でしょう。
対して出版社は自動車メーカーよりも規模は遥かに小さいながら、業界トップで年間2,000点以上、中堅規模でも200点に及ぶ新規開発商品、すなわち新刊を発行しています。
既刊本の重版を重ねるなら安心安全の堅実経営ですが、新刊はある意味ハイリスクハイリターンであり、常に冒険です。
要はお金の問題ですので、ハイリスクハイリターンな「投資」をしているといっても差し支えありません。版元にとって新刊イコール投資です。
投資である以上、できれば高い利率で、なるべく早く回収したいと思うのが人情です。しかし、あらゆる投資がそうである通り、すべてが思惑通りにいくことはありません。
大当たりの投資もあれば大ハズレもあります。ゆえにトータルで利回り10%もプラスであればよしとせねばなりません。投資利回り10%では経営なんてやってられないじゃないか、と出版経営者の怒りを買いそうです。
実際、決算上の利益はもっと大きいのが普通です。売れない在庫も利益に見なされるのが出版社の決算ですから。
でも流動性だけを見れば、多くのところで大体こんなもんじゃないかと思いますが、いかがでしょう。
では、投資というなら一体どのくらいの金額を注ぎ込んでいるか、という疑問が湧きます。新刊一点に対する投資金額を見てみましょう。
■モデルケース
出版社の商品は、新刊だけではなく既刊本もありますが、計算がややこしくなるので、ここでは新刊のみに注目します。
新刊一点あたりの投資金額とは、つまりは制作・販売に注ぎ込む費用です。
なお、ここで挙げる金額は、ま、こんなものという程度の数字であくまで目安です。この数字をそのまま出版社経営に流用すると多分倒産します。
まず前提条件を定めます。
会社規模。
中堅、年間新刊発行点数200点、社員50人、社歴30年ということにします。
取引条件。
取次ぎへの卸価格を正味といいます。
上は定価の75%から下は60%までという厳しい差別社会ですが、社歴30年の中堅なので正味は69%といたします。
著者印税。
最近は世知辛く10%を払うことが少なくなり、新人著者の場合6%や5%というケースも稀ではないのですが、ここは著者のためのメルマガですので、すこし高めに定価の8%といたします。
初版の発行部数。
企画によって差がありますが、中堅どころなら大体8,000部〜5,000部が初刷りの部数です。印刷費はどっちでもそう大きく変わらないので8,000部といたします。
定価。
これは一番多い価格帯、1,500円といたしましょう(本体価格は税抜きですから普通端数になりますけど、ここは計算のしやすい数字のままでまいります)。
■新刊一点の投資と回収
上記の条件でコストを見てみます。
まず印刷・製本費用。
仕様を何にも定めないまま数字を出すのもどうかと思いますが、そこは大胆さが売りのメルマガ、著者の独断と偏見で見当をつけます。ざっと200万円ってところかな。
次に大きいのが著者に支払う印税。
8%だと実売方式でカウントしているところも多いのですが、やはりここは著者のためのメルマガ、印刷部数方式でいきましょう。
すると定価1,500円の8%で初版8,000部印刷ですから96万円(消費税は定価で無視しているのでここでも無視します)が初版の著者印税です。
そして編集費。
つまりは人件費ですから給料の高い人がやれば高くなるし、新人がやればいくらか安くなります。年間200点発行だと編集一人あたり月3本は出しますから、当然外部の編集スタッフを使います。一点あたりだと50万円程度の見当かと思います。
本当は一ヶ月で編集できませんけど。
給料がよい会社ならもっと高いですね。
広告・営業費および間接経費。広告はほとんどが新聞広告です。営業費用は人件費や交通費も含みますが、この数字は出しようがありません。
よってここも大胆に著者の記憶と気分で、一点あたり30万円くらいとします。
さらに間接部門の人件費、(あまり働かない)偉い人たちの給料、家賃、倉庫料、借金があれば金利など、諸々がこれに加わります。が、企業の事情により大きく異なりますし、とりあえず置いときます。
さあ合計です。ざっと376万円が、新刊一点に要する制作コストでした。
さて、初版8,000部の新刊にかかったコスト376万円を回収するには、何部売らねばならないのか。
モデルケースの場合、正味は69%ですから、376万円÷1,035円はざっと3,633冊。しかし、これでは返品率54.5%!取次ぎからペナルティをくらい、関節経費も出ない。儲かりません。利益が出なければ再投資もままなりません。
じゃあ、一体どのくらい売れればOKなんでしょう。
■編集者を数字で説得せよ
「4,000部売れれば損はないんですよね」と中堅どころの編集者に言えば、普通「冗談じゃない!」という顔をしてこう言うはずです。「1万部売れて、やっと元が取れる程度ですよ!」
実際、見たとおり4,000部では利益なしの自転車操業ですから出版社も困りますが、編集者の「1万部」も習慣的にそう言ってるに過ぎず、さしたる根拠はありません。
斟酌すれば、「次の投資(新刊制作費)分くらいの余剰金は欲しい」ということでしょうか。経営ですからね。細かいことを詰めると話が破綻してしまいます。
要するに、今回申し上げたいのは次の点です。
(1)各出版社は毎月20点近くの新刊ひとつひとつに400万円くらいの投資を実行しているということ。
(2)投資である以上、「企画を提案する人は、投資家である出版社、あるいはその窓口である編集者に対し、投資家をかき口説くように説得しなければならない」ということです。
すると口説き文句はこうなります。
「このデータを見てください、これなら上手くいけば10万部も可能ですよ。次にこちらのデータをご覧ください。これなら仮に先の目論見が違っても1万部は確実です」
それでも渋る相手なら「万が一の場合でも4,000部はこの人たちが購入しますから、確実です」と、とどめのデータを示せば失敗はありません。
元本保証の上、高利回り企画となれば出版社もイチコロです。
こうした手段もひとつのアプローチです。
ではまた来週。
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