おはようございます。
本多泰輔です。
出版点数は年々増え続けるインフレ状態、今年もまた昨年の新刊発行点数を上回ることは間違いないようです。記録更新です。
新刊点数の増加は読者の増加ではありませんが、版元は読者の要求に応えようとかなりテーマを細分化した編集をしています。
では、そもそも読者は本に何を求めているのでしょう。
ひとつは「知識・教養」。学問=本の図式です。もうひとつは「娯楽」。市場としては一番大きいジャンルです。三つ目は「実用べんり情報」。これも意外にベストセラーの数が多い。
他にあるでしょうか。
「著者の支援」?
まあ、そういうのもあることはありますね。
「組織団体に対する忠誠心の表明」?
確かにそうとおぼしき本も見かけることがあります。
読者はいろいろな理由で本を買うのでしょうが、大別すると上記の三つになると思います。ビジネス書の位置づけは「知識・教養」と「実用べんり情報」に両足をかけているというところでしょうか。
一般論として「娯楽」ではありませんね。まあ、つくっている側の「娯楽」、または道楽という場合はありますが。
■ビジネス書の性格分類
ビジネス書はその名の通りビジネスに役立つ知識・教養および実務ノウハウについて書かれた本ですが、法経書や学術書とちがい常に手軽さと実践に役立つ便利さをまとっています。
あえて知識、教養、べんり情報に切り分けてみるとこうなります。
知識とは、新会社法やSOX法などの新法関係の解説本が代表的です。教養とは、安岡正篤や松下幸之助、カーネギーやドラッカー、あるいはイビチャ・オシムや川渕三郎などのリーダー論、『さお竹屋・・・』や『社長のベンツ・・・』『千円札・・・』『チーズは・・・』『Good Luck』など、なんとなく役に立ちそうな気がする啓発書、『経済のニュースが・・・』もこのカテゴリーと思います。
べんり情報とは、実務に役立つノウハウシリーズなどがそうですが、知識よりの実務ノウハウとべんり情報よりの実務ノウハウがあります。知識よりの実務ノウハウとは、マナーや話しかたなどもそうですし、マーケティング手法、品質管理手法など実務スキルものに多い。
べんり情報タイプは、『手帳の使いかた』とか、『ビジネス情報源』というようなものに代表されます。
いま書店で多く見かけるのは、ほとんど実務スキル中心の知識タイプです。
知識・教養、べんり情報とも実際のビジネス書では渾然としていますが、本としては知識・教養・べんりのうちどの点を強く意識しているかは明らかです。作り手の意識が明らかでないままつくった場合は、たいてい中途半端な「知識もの」に終ってしまいます。
便利情報タイプというのは、相応のアイデアと工夫が必要ですから、作り手はかなりの努力を強いられることになります。書店の棚を見たとき、いまビジネス書は「知識・教養」に溢れこの「べんり情報」が少ないように思います。
■元祖べんり情報
「国民百科事典」や雑誌「太陽」で有名な老舗総合出版、平凡社の創設者下中弥三郎氏は一冊の本から平凡社を立ち上げました。
タイトルは『や、此れは便利だ』。
通称「や便」と称された戦前の代表的なベストセラーです。
下中氏は、埼玉師範学校で教鞭をとっているとき、常識的な外来語・流行語・新聞用語を学生たちがほとんど答えられないのを見て「新聞語の解説と文字便覧とを一本にすれば喜ばれはせぬか」と閃いたそうです。
この辺りのくだりは『経済のニュースが面白いほどわかる本』の著者が予備校で生徒に経済ニュースについて聞いたとき、ほとんどわからなかったことから執筆を思いついた、というのに似ています。
「や便」は1914年、『経済のニュース・・・』は2000年、時代を経た結果、生徒たちは外来語、流行語には通じるようになったようです。
その後、下中氏は知り合いの出版社社長に話しを持ちかけ、社長の「や、これは便利な本ですな」という一言から『や、此は便利だ』が誕生しました。
戦前のことなので発行部数がどの程度なのか正確な数字は残っていませんが、いわゆる「伝説の本」として挙げられる一冊です。
その内容はつまり「時事用語辞典」。
残念ながら実物を見たことがないのでコメントできませんが、資料で2ページほどを見る限りでは、これがそんなに売れるのかと思う、用語と解説が並ぶ辞書的な単調なつくりです。
とはいえ「新語辞典」や「時事用語辞典」というのは、恐らく「や便」以前にも、また以後にも多くあったと思われますから、用語の選び方や解説の工夫など相応に編集に光るものがあったのだろうと想像いたします。
要するに昔も今も人は「べんり情報」を求めている。しかるに、最近は「べんり情報」本がすくないじゃないか、これは企画のスキ間ではないか、ということが本稿の趣旨です。
「ビジネスにべんりな△△」という切り口で見れば、既存のテーマもまた新しい魅力を湛えるのではないでしょうか。
■文章の極意
話はがらっと変わって漢書『菜根譚』に次のような文書があります。
「文章極所に做(な)し到れば他に奇あることなく只だ是れ恰好。人品極所に做(な)し到れば他の異あることなく只だ是れ本然のみ」
文章の究極は、特に奇抜なテクニックがあるわけでない。適切な表現があるだけだ。人品も究極は、特に他人と変わっているわけではない。ただ自然のままにしているだけだ。
弓の名人は、弓と矢を見たとき「それなに?」というくらい弓矢を忘れてこそ究極の達人と云われる中国のことですから、テクニックのない文章が極上の文章だというのも当然です。
しかし、古今東西テクニックのない文章を上等とするのはまったく同じ。もちろん日本でもそうです。
ナチュラル・イズ・ベスト!
とはいうものの、この「適切な表現」が最も難しい。「恰(あたか)も好し」っ立って何が好いのかわかりません。結局のところ、頼るべきはセンスと訓練しかないわけです。
何を伝えるかによって、どのことばが適切なのか異なってきますし、本当は英語で伝えるのが最適な場合でも、さすがにこれは日本語にしないことには読者に理解してもらえないということもあるでしょう。
また、適切な表現を求め『大漢和辞典』を渉猟しても、ことばを厳選し過ぎてかえって読者に伝わらない表現になる、というのもよくあるケースです。
そういうときはなるべく肩の力を抜いて、シンプルな表現を心がけたほうが結果は良いほうに出るんだよ、ということを『菜根譚』の著者は言っているのだと思います。
ナチュラル・イズ・ベスト!といっても、なんにも考えていないままのナチュラルと苦悩の結果にたどり着いたナチュラルはやっぱり違うのですから、苦労はいつか報われます。
■まとめ
先々週、コンサルジェントで新企画「あなたの企画書お預かりします」のご案内をしました。
企画書出せったってどんな風に書けばいいんだよ、とお思いのかたもいらっしゃるでしょうから、見本を添付することにしました。
(サンプル)
http://www.consulgent.co.jp/pdf1/kikakusyo_sample.pdf
シンプルすぎてまだわからんというかたがいたら、来週さらに具体的なサンプルを掲示いたします。
秋の夜長を企画書づくりにいそしんでください。
では、また来週。
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◆◇コンサル出版新企画【あなたの企画書、お預かりします】◇◆
締め切り迫る!9月末で第一次募集を締め切ります。
<企画概要>
あなたの企画書を、本多が目利きして、版元へ持ち込み出版交渉をします。お受けできる条件は、
○ビジネス系の出版企画であること
○商業出版を前提としたもの(社史や専門書は不可)
○まだ出版が決まっていない企画であること
○すでに出版社へ持ち込んで検討中のものでないこと(訳あってボツになった、交渉が決裂したものは可)
○お預かりする費用は無料です
○企画は、コンサルジェントおよび本多氏がセレクションした上で出版社へ持ち込みを代行します
○セレクションの結果、持ち込めないとなった企画については、本多氏がコメント(もっとこうすれば良いんじゃない?)をつけて簡単なアドバイスをいたします
※持ち込めないとなった企画書の添削はいたしません。有料の添削
やプロデュースサービスをご希望の方は、こちらをご覧下さい。
○見事、出版が決まった企画については、初版印税のうち3%という成功報酬です
○企画書の事例は、ご本人の承諾のうえで、このメルマガでご紹介させて戴く場合があります
<応募方法>
出版企画書を、以下の体裁で、下記アドレスまでお送り下さい。
1.仮タイトル
2.仮目次
3.本書のセールスポイント
4.本書の持つ市場性・ターゲット読者層
5.類書の有無
6.類書との違い
7.原稿の仕上がり予定
8.著者略歴・著書の有無
9.原稿見本(10ページ以内)
<サンプル>
http://www.consulgent.co.jp/pdf1/kikakusyo_sample.pdf
(メール送付先)
maimagl@consulgent.co.jp
※件名に『コンサル出版企画書』係まで、と明記ください。
(郵送の場合)
〒103-0023 東京都中央区日本橋本町1-10-2きめたハウジング6F
株式会社コンサルジェント 『コンサル出版企画書』係
<締め切り>
2006年9月末日までに到着分まで
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