おはようございます。
本多泰輔です。
無謀なタイトルをつけてしまいましたが、これは私が考えたものではありません。某法曹関係の方々の集まりでしゃべらされるテーマがこれです。
本来「そんなのわかってたって人には教えないよ」というところなんですけど、実はわかってないから教えようがありません。
「売れない本の書きかた」なら良くわかるんですけどね。
著者のこだわりだけで本を書くとか、2年前に流行ったテーマで本を書くとか、見たこともない四字熟語を無理やり使って書くとか、いろいろと研究成果はあるのですよ。
ま、しかし、それでは相手も納得しないでしょうから、ちょっと考えてみました。あまり期待せずに読んでください。
■売れる本の条件
「売れる本」という定義ですが、版元の規模にもよって差はあるといっても大体どこでも2万部を超える部数が出れば、「まあ、いいか」ということになります。
「いあや、よかったね!」というのは5万部超クラス。
「やりましたね!!」だと10万部超、ここまでくると版元からも何らかの接待があるでしょう。
50万部超は驚異的な数字なので、不慣れな編集者は口も利けません。中小版元なら社長を呼び出せます。
そういうわけで、「売れる本」というのは、2万部を超える本ということになりますかね。では、ビジネス書で2万部を超える本ってえのは、いったいどのくらいあるのでしょうか。
100冊に20冊・・・あれば、それでも比較的好調な出版社ですね。
書店で目立ちまくってる出版社でも、既刊本のデータを見るとまさに死屍累々、こんな本あったのか、見たことないよ、というのがリストにはぞろぞろと並んでいます。
上位2割、それが「売れる本」の実態です。
意外に高いハードルでございましょ。
ではどうすれば上位2割に食い込めるか、軽〜くウォッチしてみることにしましょう。
上位2割に入るための条件
1.これまで世の中になかった斬新なテーマ企画
2.世間の関心と出版がシンクロするタイミング
3.著者の個性で読者を魅了
以上3つのうちのどれかに該当すれば2万部超は可能です。
3つとも該当してれば400万部超も夢ではありません。
そういう人がいたらすぐご連絡ください。
本多めがお迎えに上がります。
■これまでなかったテーマと企画
売れてる本のパクリでも元本がベストセラーなら2万部を超えることも不可能ではありませんが、やはりオリジナリティなしで2万を越すのは難しい。
しかし、あまりオリジナリティが強すぎると出版社がびびってしまうこともまた事実、そういう点では法曹界の人は恵まれていると思います。
そう、新法施行の度に「いままで世間になかった」ものが、ある程度の市場性を担保された形で登場するわけですから。ま、この分野は早いもの勝ちですね。
近くは「新会社法」「個人情報保護法」、ちょっと昔なら「労働法改正」による時短、消費税の導入、といろいろありました。
その中でいつもパッとしなかったのが「商法改正」でしたね。
なぜかあんまり読者の関心を呼びません。
労働法関係は今後もごろんごろんと変わるみたいですから、宝くじが連番で次々と当たるような、パチスロなら連続リーチ状態です。ああ、うらやましい。
新法に限らず、モバイルメールが登場したときもそうですし、旧くはパソコンが登場したときも使い方の本が一世を風靡しました。いままでになかった新しいものが社会に登場したときは、出版は大きなチャンスを得ることになるのです。
斬新なテーマとは、出版企画自体がユニークであることと扱いテーマが新しいという二つの側面があります。
東洋経済の『食品の裏側』は、食品添加物といういままで注目されていなかった分野を照らし読者をつかみました。草思社の『声に出して読む日本語』は、日本語ルネッサンスという切り口の新しさで100万部を超えました。
『本当は怖いグリム童話』も切り口の新しさ(本国では新しくないのですが、日本では新しかった)ですね。
いままでにない斬新なものというのは、既存のテーマの中にも山のようにあるのです。いわば足元にもあるわけです。
■出版のタイミング
とはいうものの『食品の裏側』や『声に出して読む日本語』が昭和30年代に出ていたら、斬新な企画と見られたかとなると疑問です。
怖いのは食品添加物より夏場の食あたりの時代、そしてラジオで名作の朗読が定番となっていた時代にあっては「それがどうしたの?」と素通りされてしまうかもしれません。
出版は、文化という背景がついてこないと際立たないのです。この文化の趨勢を正確に読むことができたら、出版どころか全産業を牛耳れるでしょうね。
ところが、出版一つ取ってみても時代の空気を読むことはできないのです。つまり「なにが売れるかわからない」わけです。
50万部を超すベストセラーの多くは、いくつかの例外を除けば、「とりあえず出してみたら売れちゃった」というケースがほとんどです。
例外というのは巨大な団体がバックについているケースですから、書店市場で勝負している本で「50万部をねらって出した」というところは、はっきりいってありません。
このタイミングというのは、いくら考えてもどうにもならない部分です。パクリなら「売れてる?それ行け!」でタイミングをつかむことはできますが、それ以外は信心を篤くするしかありません。
■著者の個性で読者を魅了
いま上記3つの条件を備えているのは、小泉前首相くらいで本人が本を書けばベストセラーは間違いありませんね。ある意味『ハリーポッター』並みです。
間違っても岩波書店や朝日新聞社から出ることはないでしょうが、どこが出すにせよ出たらこれはブームになるでしょうね。5匹目くらいまでドジョウが続けられるでしょう。案外、書いてる最中かもしれませんが。
ま、そういう個性抜群、知名度最高の著者が読者を魅了するのは、別にどうでもいいので、ここで注目したいのは個性的な表現方法の部分です。
本ですから表現方法は、絵か文章しかないわけで、これらの表現方法が個性的でも十分読者は魅了できます。
別に女子大生探偵を登場させなくて、個性豊かな表現方法で会計の入門書はできますし、マンガにしなくても国際関係について記すことは可能です。
個性的な表現方法という点では、何度も例に取上げてますが細野真宏氏の経済や株の本が出色ですね。
メインキャラの妙に荒んだクマと素朴なクマのイラストよりも、思い切って説明をデフォルメし、少ない文章によるマージン(余白)を恐れない斬新な表現方法で経済や株式のことを説明しているのは、いまだに他にありません。
そうした個性もあるわけです。
■まとめ
書いてみて(実は書く前から)わかったのですが、やはり「わかったところでできるわけじゃない」ことばかりでした。
結局のところ、買わなきゃ当たらない宝くじと一緒で、出さなきゃ売れることもないという原点に行き着くわけでして、1.2.3の条件を頭の片隅に置きつつ企画書を練るしかないですね。
社会も変われば企業も変わる、学校が変われば学生も変わる、変わることは全て出版にとってチャンスです。
来年もチャンスの多い年になりそうです。
では、また来週。
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