おはようございます。
本多泰輔です。
不二家はどうやら山崎製パンが引き取るようですが、こうした企業再編の舞台の裏で演技指導しているはずの経済産業省は影も見せませんね。
銀行の合併には必ず出てくる金融庁(旧大蔵省)とは好対照でなかなか見事です。それにしてもこういうとき経済産業省の記者クラブは何をしているのでしょうか。
業界1位が業界3位を傘下におさめる、というのはよくある企業合併話ですが、1位の山崎が8000億にちょっと足りないくらいで、2位の森永が1900億程度、そして3位の不二家が860億〜880億という、売上の開きにちょっとびっくりです。
この業界は、おそらくコンビニルートが主要になると思いますので、業界1位が圧倒的に有利(コンビニは基本的に業界1位の製品を優先します)なのは仕方ないとはいえこの差は極端ですね。
加工食品業界全体では26兆〜27兆円ですから、1兆円の会社があってもいいわけですが、23兆円の自動車業界と違って企業数が多いのと企業規模が小さいのが加工食品業界の特徴です(食品業界全体もそうですが)。
経済産業省は、このあたりの業界構造もなんとかしたかったのでしょうね。
前回の雪印もそうでしたが、今回の不二家、少し前の日航など、一見社内の管理体制の不備が原因に見えますが、私には人事・労務の問題に思えます。
「人づかい」の問題が、こうした不祥事という形に現われたと見ないと設備やシステムを改めたところで問題は解決しません。
■新法施行とベストセラー
ところでホワイトカラー・エグゼンプションは、しばらくお蔵入りになりましたが、同時に提出されるはずだった労働法改正案と新法である労働契約法は予定通り現在開会中の通常国会に提出されるでしょう。
あんまり目立ってないのですんなり通過するんじゃないかと思っています。何度も書いてますが、個人情報保護法や新会社法の例を出すまでもなく、新法施行はビジネス書のチャンスです。
しかし、このチャンスはタイミングと不可分です。たとえば裁判員制度。再来年が周知期間の限度ですから、平成21年から裁判員制度がスタートします。
いま「それでも僕はやってない」という映画がヒットしてますが、裁判員制度もさることながら、多くの人は裁判そのものについてほとんど知りません。
世の中には、裁判の傍聴が趣味という人もいますが、そういう奇特な人と職業で裁判にかかわる一部の人を除く99%以上の国民は裁判と無縁です。
その割には「裁判員制度」および「裁判」についても、それらしい本がありません。はっきり言って関心は低い。郵便局の民営化も関心が低かったですが、それに匹敵します。
しかし、実際に呼び出しを食らう段になったらどうでしょう。個人情報保護法も新会社法もその年になるまで、無風状態でした。
直前になると慌ててドロナワ式ににわか勉強をする、試験前の一夜漬けの体質は国民性ですから、この少し前のタイミングこそがチャンスなわけです。
そしてこの種の新法テーマは、早い者勝ちで一番手と二番手では、山崎製パンと森永くらい差がつきます。
ジャストミートのタイミングは果たしていつか。
■今国会で審議される労働法改正と新法
そういうわけで、今国会で立法化される予定の労働契約法や改正法案も注意しておくほうがいいですね。けっこうテーマが豊富です。
この方面の専門家はすでにご存知でしょうが、下記が提出法案です。
1.雇用保険法等の一部を改正する法律案
2.雇用対策法及び地域雇用開発促進法の一部を改正する法律案
3.短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律案
4.労働基準法の一部を改正する法律案
5.最低賃金法の一部を改正する法律案
6.労働契約法案(新法)
上記6つの法案で、私が注目しているのは、
「労働契約法」
「時間外労働の割増賃金率のアップ」
「パート労働者の均衡処遇」
です。いずれも人件費や人事・労務管理にも直接影響を与えることになる法案です。
■ワンセットだった改正法案
本来、これら改正法案はホワイトカラー・エグゼンプションとのセットで用意されたものでした。
「時間外賃金の割増率アップ」は、本来ホワイトカラー・エグゼンプションとのバーターで盛り込まれたものでした。
残業代ゼロの特例をつくる代わりに、時間外賃金のつく人たちの割増率は上げましょうと、実に分かりやすい取引法案です。
したがって今回のホワイトカラー・エグゼンプションの見送りは、労働側は一挙両得、経営側は踏んだりけったり、日本経団連は忸怩たる思いでしょう。もちろん、法案が通ればの話ですが(ま、通るでしょう)。
提案されている上昇率は、月45時間までの時間外労働では、現行25%のまま、月45時間を超え80時間までは労使の取り決めによって定められる、月80時間以上だと割増率を50%とするとなっています。休日出勤の割増率も変わります。
「割増率が上がったから残業するな」というわけにはいきませんから、月45時間を超えるようなシフトで常態化している職場は、人件費負担が増えることになります。
どのくらい増やすのかは各社の事情に応じてお決めください、というところに経営側への配慮が感じられます。また、数値については折りしろとして国会に預けたのかもしれません。
どうなるにせよ、この辺は人件費・労務管理の問題として新たなノウハウが必要になるでしょう。2〜3年は引っ張れるテーマです。
「労働契約法」は、いわばホワイトカラー・エグゼンプションがメインディッシュでした。結局、前菜とデザートだけになってしまいました。それでも労働契約法にはいくつかの注目点があります。
ひとつは解雇を巡るトラブルがお金で解決できること。法律が決まってないうちから、あまり軽率なことを言ってはいけないのですが、思い切り乱暴に言えば
「2年分の賃金を支払いさえすりゃあ、つべこべ言わずに解雇できる」という法案のようです。
退職金とも違うわけですから、「解雇資金」まで引き当てなければならないようになったら、企業の財務は大変なことになってしまいます。
2年分の賃金目当てに無断欠勤や遅刻を繰り返す不心得な社員が出てきたらどうすればよいのか。
また、労働契約法では「労働委員会」なるものが、契約の改正や締結の場面で経営者と協議することになります。
この法案の趣旨が「給料2年分を払えば不当解雇もやりたい放題」なのか「2年分の給料目当てに不行跡を繰り返す不良社員にお得」なのか、いろいろ新しいことが出てくるので、現場での運用が大きなテーマになりそうです。
この法案は、一番手がそこそこベストセラーになる気がします。
■パートの管理者に正社員の部下がつく
「パート労働者の均衡処遇」とは、同じ仕事をしているパートと社員の格差をなくせということです。福利厚生、同一職務同一賃金はもとより人事の処遇においても均衡させよということなので、昇進昇格も正社員同様となります。
これは、つまり非正規社員の正社員化を促す法案なのだろうと思います。賃金・処遇まで社員と同じにしたら事実上パート雇用のメリットなしですから。
しかし、中小企業や大手でも生産現場では、かなりの労働力をパートに頼っていますから、その影響は大きいと思われます。
均衡処遇によるコストアップを抑えようとすれば、思い切ってパートの採用数を増やし、職場全員パートにするということになるのでしょうか。それでもパート労働者の管理コスト、採用コストは上昇することになります。
また、処遇の均衡はパート労働者だからといって簡単に解雇することもできなくなるのでしょうか。解雇に2年分の給与を用意するとなったら、パートさんも喜んで解雇されるでしょうけれども。
人事も均衡ということですから、能力しだいでは正社員よりも先に管理者になるパート労働者も登場するかもしれません。
事実、スーパーなどの流通現場ではパート・アルバイトのフロアー長もいますし、飲食チェーンではパート・アルバイトの店長も実在しています。
ただ、新入社員はともかく一般社員がパート店頭の下にいるケースはあまり多くないと思います。
企業にとってパート・アルバイト・派遣労働者などのいわゆる非正規社員の採用は、総人件費の抑制が一番のねらいですから、この改正が成立したら人件費負担が増えることは否めません。
そこでホワイトカラー・エグゼンプションだったのでしょうが、とりあえず当面は増えるコストの負担のみです。
一方、パート・アルバイト労働者の中には、それぞれの事情で正社員を望まない人も一定割合います。
派遣社員の場合、多くはできれば正社員になりたいという人ですが(中には積極的に派遣を選んでいる人もいます)、特にパート労働者には家計の助け程度の労働という側面と時間的拘束を好まないという傾向があります。
賃金が上がることはそれなりに歓迎でしょうが、責任や時間的な拘束が増えることに対しては、労働者側からも必ずしも賛同が得られるとは思えません。
また、パート労働者の厚生年金の加入は、週30時間以上の労働者でしたが、今次の法案では週20時間以上働くパート労働者まで対象が広がります。
社会保険の原資を多方面から集めたいという政府の思惑は、企業経営にとってどのような結果を招くことになりますか。
パートの戦力化もさることながら、社員を含めたかなり総合的で効率的な運用・管理をしないとコストアップは避けられません。
この辺のテーマもベストセラーにはならないまでも底堅い需要のあるテーマであることは間違いありません。ここまで見ただけでもいろんなテーマがありますね。
どれが売れるかまでは予測できませんが、早い者勝ちであることは間違いありません。腕に覚えのある方は、早速いまから準備して来るべき日に臨んでおきましょう。
では、また来週。
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