おはようございます。
本多泰輔です。
先週半ばに起きた世界同時株安は、改めてグローバルな金融市場というものを実感させてもらいました。
地球の自転にとともに上海、EU、米国、日本という具合に株安が移動したのは、まるで谷川俊太郎の詩「朝のリレー」のようでした。各国市場に株安というバトンが渡されたわけです。
一方、地理的ポジションとは別に、各国の世界市場に占める影響も、今回の「株安リレー」の順番に相当しているというのは妙な偶然です。世界経済は、いまや中国、米国、EUを軸に動いていることも見せつけられた感があります。
実力はあるのに控えに回っている選手のように、日本にはいまひとつ勢いがありません。
実力はあるのにぱっとしない、この勢いのなさの原因を軍事的な不均衡に求めたり、国に対する誇りや愛国心に求めているのが昨今の世の中なのかもしれません。
しかし、EU発足前のヨーロッパも実力とストックはあるが勢いがないという時代が30年以上続いたわけですから、勢いを取り戻せないわけではないと思います。
ただ、今回の世界同時株安で一番に思い出したのは、87年のブラックマンデーですね。バブル経済は87年のブラックマンデーから始まったというのが私の印象です。当時の現象として目立ったのは、株価と地価の高騰、そして求人難。
新卒の求人難はすでに始まっています。株価は少しずつ伸びています。地価は都内の中心部に限れば死者が出るほどの動きです。これからまたあのバブル期のような景気になるのかしらと期待半分、不安半分です。
それにしても株買っとけばよかった。
■自前の本
自前の本とは、要するに自費制作の本です。
自費出版といってもいいのですが、自費出版の専門版元に頼んで書店に置いてもらうという類のビジネスモデルではありません。
本にはご承知の通り、出版社から商品として書店市場に配本される通常の流通ルートのものと流通ルートには乗らない自主制作の本があります。このメルマガで出版といっているのは前者のことです。
しかし、自前の本にもそれなりの有効な使いみちがあり、一般にはあまり目にすることはないものの高い利益率を上げている本も少なくありません。今回は書店に置かない本の有効性について少し考えてみたいと思います。
「書店に置かない本は本じゃない」
そこまで暴論は言ってないと思いますが、それに近い話をここでしたこともあるかもしれません。前提があります。
コンサルタント、またはビジネス支援効果を期待して出版を考えるなら、市販本の持つ影響力、市場性、権威が必要です。したがって流通に載せた本でなければこの種の出版効果は薄い(というよりほぼない)、ということですね。
市販本の特性としては次の通りです。
1.ベストセラーの期待(テーマにもよりますが)
2.知名度向上の期待
3.オーソライズの期待
全体に著者の名前、信頼度、社会的なポジションの向上につながる効果です。
概して経済的な効果は薄いのですが、世の中にはベストセラーの広告ばかりが溢れているため、経済的にも巨額の印税が入るものと錯覚する人がいますが、ベストセラーは年間7万5千点を超える新刊の中でわずか20点〜30点だけですから、ほとんどの著者には経済的な恩恵は巡ってこないというのが現実です。
対して自前の本は、主に経済的な期待でつくられます。
■第2の商材
自前の本とは、具体的にはコンサルタント会社、シンクタンクが自社でつくる高額本の類を指します。販売は直販ルートです。
講演やセミナーの会場で、あるいは指導先に対して直接販売するため発行部数は僅少です。指導・研修の際のテキスト・マニュアルとして活用する場合もあるようですね。
いわば講師料・指導料の付加価値です。レジュメ・アジェンダでは料金を請求しづらいですから。テーマはニッチで深堀型ですので、テーマにおいても市販本とは対極です。
特定業界の動向リサーチ、特定業界の管理技術・販促手法、例えば一昔前なら「ガソリンスタンドの利益向上のための油外商品販売マニュアル」などというのがありました。
いまなら「飲食業の新卒採用マニュアル」などというものでしょうか。「印刷業の単価アップのための商品開発」などは永遠のテーマです。
コンサルタント会社、シンクタンクがつくる自社の出版物は、業界研究ものが多いですね。いまは本という体裁をとらずCD-ROMなども多いようです。そして、どれも高額です。
値段が高いのは、クオリティが高いとか手間がかかっているためではなく、売れる数が少ないからです。ニッチなテーマでは、限られた企業にしか販売できませんので高額になるわけです。
市販本の場合、1500円の本は10万部売れると正味で1億以上の売上になります。
一方、自前の本は、一般的な流通市場のない直販商品ですので、1億を売上のためには5万円の本を2,000部売る戦略を選ぶことになります。5万円の本は、なかなか見ず知らずの人は買いません。
したがって、過去にコンサルティングを行った企業、現在指導中の企業、セミナー・講演会の参加者という、ややメンバーシップに近い人たちが購入者となります。
つまり、コンサルティングや研修などの本業に付随してくる商品ですので、第2の商材なのです。
■直販本という業界
直販の出版社で一番大きいのは、ベネッセでしょうか。ビジネス書だったら京都のPHP研究所も大きな存在です。直販雑誌の最大手ならたぶん法人会です。
直販は通販と同じような特性を持ちますので、基本的に固有のメンバーを持ったところでないとビジネスとしては成り立ちません。
多くの企業を顧客に持つコンサルタント会社・シンクタンクであれば、直販出版ビジネスも成功するでしょうが、数十社のクライアントを抱える段階ではビジネスとして独立させることは難しいと思います。
自前の出版は、あくまで本業の補完的なポジションに留め置き、大量の在庫を持たない慎重さが大切です。
一度に大量につくると自前の本を売るために、新規に販路開拓を行わなければなりません。新規開拓のチャンネルはいくつかありますから、格別不可能なわけではありませんが、本業とのバランスが崩れる恐れがあります。
システム手帳や電子手帳の登場で最近あまり目にしなくなった「ブルーダイアリー」というタナベ経営(コンサルタント会社です)が発行していた手帳があります。
なかなか好評でタナベ経営の利益を支えていたといわれます。能率協会におけるシステム手帳のような存在ですね。ある時期からは、所属コンサルタントも手帳の販促に動いていたという話をよく聞きました。
自前の出版物が安定して稼ぐようになると、時として本業の研修・コンサルティングを凌駕する規模になることもあります。
1970年代は、コンサルタント業界はマニュアル時代で、各社が自前でマニュアルをつくり企業に直販していました。非常に利益率がよいため各社大層儲かったとのことです。
■まとめ
知名度とグレードの市販本、利益の自主制作本、ということで本にもいろいろな期待があるのですね。経済的な期待で出版を考えるなら市販本よりも自主制作の本を直販で売り続けるほうがよいかもしれません。
いまは70年代と違い、買い手に合わせて一冊一冊を微調整しながらつくることができる時代です。オートクチュールでつくることも、セミオーダーメードでつくることも可能ですから、より付加価値のある「高額本」ができるかもしれません。
市販本と違い、決断すればすぐできることですので、志ある方はチャレンジしてみてはいかがでしょう。ただし、市販本同様必ずしも売れるとは限りません。
ではまた来週。
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