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第121号 ちょっと気になる近頃のこと』

おはようございます。
本多泰輔です。

先週は「誤植」をテーマにしましたが、そんなことを偉そうに書いたメルマガの中に誤植があったことに皆さんお気づきになられましたか。それも誰にでもすぐわかるヤバイ誤植です。

果たして何人から指摘があるだろうかと楽しみにしていたのですが、ほとんどありませんでした。あまりの少なさに「やはり本当はだれも読んでないのだろうか」と暫く落ち込んだほどです。

きっとみなさん心優しいので、本多を傷つけまいとあえて指摘しなかったのだろうと、とりあえず自分を誤魔化したところで、さて誤植に気づかれたかたはその時どう思われましたか。


■誤植の内訳


わずかに指摘してくれたうちの旧知の編集者はこう言ってました。「誤植のテーマで誤植出すなよ。アホ」

大変遠慮深いことばとその気遣いの暖かさに感じ入ってしまい、一瞬褒められたのかと思いました。

読者の多くが同じように感じたと思います。「よくこんな不注意な原稿で、ぬけぬけと誤植について書いてるな」

また、もっと多くの人は「そんなのあったっけ」と忘れているでしょう。

「そもそも先週の出版メルマガなんて読んだかな?」

さて、先週の誤植の箇所は次の二つです(他にもあったらそれは本当のミス)。


<読者にすぐわかる誤植がとにかく一番恥ずかしい。許しがたいヘマです。誤植がテレビ局にとって「後で誤れば済む」程度のことなのか、「後で誤るくらいなら」事前にもう一人に見させればよいことなのかは知りませんが、テロップの誤りを訂正する場面が異常に多いのは確かです。>


「謝る」べきところを「誤る」としています。


もうひとつは


<なぜ誰にでも誤植とわかる間違いがヤバイのか・・・中略・・・言うまでもなく著者自信の名誉にも関わります。>


確かに自信も名誉も失われますが、問題なのは著者自身の名誉です。自身と自信、極めて単純な誤植です。誰も原稿チェックしていない証明みたいなミスです。


■静かなる読者


以上二つは面目丸つぶれって類の誤植でした。

私は昔こういうしょうもない原稿のミスを指摘されるたびに、指摘した編集者に対し「いまごろわかったか」と開き直ったものですが、不思議と相手は怒りませんでした。いい人たちばかりだったのだな。

買った本の文中に明らかな誤植を発見しても、たいていの読者は「なんだこりゃ。バカだねえ」、あるいは「この本、立派なこと言ってるけど本当はちょっとレベル低いのかも」などとは思っても、いちいち出版社に指摘するのは面倒くさいので教えてくれません。

先週のメルマガも多分そういうことだったのだと思います(さもなきゃやっぱり誰も読んでないのでしょう)。ことほど左様に、出版した後に読者から誤植の指摘が来ることは極めて稀です。

しかし読者からクレームがなかったからと安心はできません。読者は基本的に静かなものなのです。

その静かな読者が騒ぐということは、大ベストセラーの兆しか、大トラブルの発生か、そのいずれか。

静かだとしても「こんなアホの書いた本はもう読まねえ」と多くの読者が密かに決意しているとすれば、そっちのほうが怖ろしいですよ。


■著作権法の改正


著作権法がまた改正されるらしいです。現在諮問委員の間で審議中で、夏ごろに答申が出るようです。様子を見る限りでは、あまり出版界を意識したものではありません。

改正のポイントのうち一つは、著作権法違反が親告罪から非親告罪になること。つまり原著作権者から訴えがなくても、司法警察が違反を発見したらただちに摘発、逮捕できるようにする。現行犯逮捕ですね。

もう一つは、違法なソフトはファイルをダウンロードした側も罪になること。ばら撒いてる側だけじゃなく、利用者側も取り締まろうって法律です。これは音楽著作権協会から来てる委員が強く主張しているようです。

さらにもう一つあったと思いますが、何だったか忘れてしまいました。権利保護期間を死後50年から、70年に延長するだったかな。

出版界でも一部で騒いでいるみたいですが、改正のねらいが音楽映像ソフトの海賊版潰しと同ソフトのネット上の違法利用潰しであることは明らかです。

もちろん法制は施行されれば出版もネットも区別なしですから、ペーパーメディアの世界にも一定の波及はあるでしょう。

ただ侵害された人にしかわからないような本文の一節を、官憲が発見するなどということは事実上あり得ないことですし、発見したとしてそれが原著作権者の許可を得ているかどうか確認する手間をかけた上で逮捕するほど当局もヒマではありません(ヒマだとしても、もっとおいしいことをするでしょう)。

もしそんな捜査が行われたとすれば、よほど身柄を押さえたい別の理由があるとしか考えられません。

それにしたってもう少し手っ取り早い逮捕理由は他にいくらでもつくれます(創れると書くと怖いですね)。

よって、キャラクターグッズや音楽映像など海賊版が存在する業界には関わりがあるでしょうけど、書籍の世界では審議中の改正案が立法化されたとしても、官憲の手が執筆者に及ぶことはほとんどないだろうと思います。

こう言うと一部から「認識が甘い」、「そんなおめでたいことじゃあ出版人失格だ」と糾弾されそうなので、一応付け加えておきますと、私も徒に著作者の権利保護の拡大を謀り、情報の伝播を制限する著作権法改正の動きには反対です。

特に音楽著作権協会。人々の口の端に乗ってこそ音楽だろう、リスナーまでお縄にかけようってのはどういう料簡だ、そんなに大事なら金庫にでもしまって金輪際表に出すな、などと思っております。


■時事ネタから企画のテーマを探すとき


近頃、テレビのニュース番組の特集で「インターネットカフェ難民」がよくとり上げられます。マスメディアでとり上げられるテーマは一応旬といえるのですが、次のような傾向があることも見逃せません。


・「ニュース」の素材として取り上げるテーマは現在進行形
・「特集」で取り上げるテーマはすでに過去

ベストセラーの場合、テレビなどでとり上げられるのは売上のピークを越えたあたりです。

それは当然で、書店で売れたからマスメディアもベストセラーと知りえるのであって、これから売れるものをとり上げるなどという離れ業はいかなるメディアにもできません(細木数子でも多分無理でしょう)。

つまりマスメディアが嗅ぎつけた時点では、すでにピークアウトなわけです。

それでも書籍の場合は、テレビのニュースでとり上げられると、そこから再浮上するので、場合によっては報道された後にもっと大きなピークをつくることがあります。そうなれば現在進行形といえるかもしれません。

一方、そんなニュース番組の特集テーマを企画のネタにしようとすると、すでに終わったネタをつかまされる恐れがあります。

例えばネットカフェ難民は、いまだ現在進行形であっても増加中ではありません。

それは現場に聞けばわかることですが、「もうすでに天井は打って、いまは収束しつつあるインターネット難民ですが・・・」とやってしまっては、ニュースコンテンツとしては色褪せるので、あたかも拡大しつつある現象の如く扱うことになります。

捏造ではありませんが一種の印象操作です。

したがって新聞やテレビでネットカフェ難民を特集しているから、若者は仕事がなくて困っているのだろう、だったら

『必ず就職できる本』

(実際そんな本ありますね)を書けば多くの若者に喜ばれ必ずヒットするに違いない、などと思うのは早計といわねばなりません。

もう一方のニュース、「来春の企業の採用予定数はバブル期を超えた」ことも合わせて考える必要があります。両者を併せるとネットカフェ難民=就職難とはなりません。

最近はバブル期並みに、採用のための企業CMも流れ始めました。あれほどネット偏重だった求人メディアも少し変わってきているのでしょうか。

それとも藁をもすがるつもりでテレビCMにかけたのか。若者が三年で辞めるというのも、統計的には過去になりつつあります。

採用難の結果、会社が「辞めたけりゃ辞めればいいさ。人は余ってんだから」という姿勢を改め、採用者を手厚く処遇するようになったから辞める人も少なくなったわけです。

当世の若者気質よりも、古くから変わらぬ人間本来の心理が反映しているだけってことは、この間の社会学者の諸説は一体何だったのでしょうかね。

なお、企画のテーマは最先端でなければダメかというとそうでもありません。なぜなら読者も出版社も、トップより半周ばかり遅れてから来るという法則があるからです。エコーですね。

だれも知らないテーマではヒットしませんが、終わったテーマでは見向きもされません。ベストセラーは早すぎても遅すぎても誕生しないのです。

いわばニュース素材と特集テーマの中間くらいにグッドタイミングの企画テーマはあるといえます。

今週はどこに誤植があるでしょうか。

ではまた来週。



    《編集後記》
 


先週号の誤植の件、申し訳ありません・・・。お詫び申し上げます。私も念入りにチェックするようにいたします(発行者:樋笠)


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出版プロデューサー/本多 泰輔(ほんだ たいすけ)

プロデューサー・本多泰輔氏は、ビジネス出版社(版元)で20数年の経験をもつベテラン編集者から、出版支援プロデューサーに転身した人物です。その考え方について詳しく知りたい方は、本多氏編集のメールマガジン『コンサル出版フォーラム!本はあなたをメジャーにする』のバックナンバーをご一読下さい。

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