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第123号 『流行のタイトルのことなど』
 (なんだか文豪の随筆みたいなタイトルになってしまいました)

おはようございます。
本多泰輔です。

さて、今年の夏は猛暑だとか。嫌です。

猛暑と聞いただけで国外逃亡したくなりますが、逃亡先にあてがないため結局今年も暑さに耐えるだけの夏だろうと思います。

暑さに耐え、貧しさに耐え、世間の冷たさに耐える。どれも嫌です。

そして夏が来れば参院選、ひょっとしたら衆院選もあるかもしれません。何か体感温度が2度くらい上がりそうな暑苦しい予感がします。

今国会は、松岡ショックと年金問題で、延長するとかしないとかやっておりますが、その他の法案がどうなったのかあまり報道がありません。

知らない間に通過しているのでしょうか。ちゃんと報道して欲しいものであります。そういえば労働契約法など、どうなったんでしょう。一応渦中の厚労省の関係なのですが、すでに成立していたりして。

!ということは、仲間の社会保険庁を人柱に差出し、その隙に労働法を大きく変えようってえ、非道の戦略だったのか。怖いな厚労省。

あーあ、どうも梅雨どきは頭がカビるわ。


■すごいタイトル


ベストセラーが出ると、それを追いかけるように、似たようなタイトルの本が書店店頭に並びます。

同じようなタイトルが並ぶと、そのテーマがブームとなっているような印象を受けますが、必ずしも同様のタイトルの本すべてが売れているのではありません。

確かに店頭に生き残っている本は、一応の販売部数を維持していますが、すでに書店から退去させられた「同様なタイトル」の本は、存在が読者の目に触れないだけで、いくら似せても売れないものは多いのです。

特に4番手以降は勝率が格段に低くなります。

書店での実売は上記のとおりですが、出版社に企画を提案するとき、流行りのタイトルを仮タイトルにワンポイント応用することには、一定の効果があると思います。ただし、流用するのはキーワード。

タイトルには流行りのキーワードがあります。いまビジネス書で流行りのキーワードとしては、「すごい」と「できる」、そして「なぜ」、ちょっと前まで「頭のいい」というのもありました。

「儲かる」「売れる」が氾濫したときもありますね。売れませんでしたが。

「すごい」は『すごい会議』から始まっていろんな「すごい」ものが出ていますし、「できる」は『できる人の勉強法』とか「できる上司」とか。

「なぜ」はいまさら言うまでもありませんね。「なぜ」のつくタイトルは、疑問詞を冠するため長くなるのが特徴です。

『さお竹屋はなぜ・・・』『社長のベンツはなぜ・・・』などが代表例。

さすがに「なぜ」はもう峠を越したように思います。編集者もそろそろ「またかよ」と思い始めているのではないでしょうか。


■キーワードの「勢い」に便乗する


いま「できるナントカ」、「すごいナントカ」という企画書が出版社に送られて来たら、受け取った編集者もまあパクリだなとは思いますが、「できる」「すごい」をつけることで旧来のビジネステーマがすこし新鮮に見えてしまいます。

流行りことばの勢いですね。

『すごい上司』というタイトルは、4年前なら「なんだそりゃ?どんな上司だ」と思いますが、いまならどんな上司かその具体像は不鮮明なものの、そこに一定の積極的なイメージを感じ取ることができます。

流行りのキーワードの勢いが、タイトルイメージに輪郭を与えるわけです。例えば


「すごいマーケティング」
「できる人の電話応対」(ちょっと地味め)
「すごい品質管理」
「できる社長の経営計画」


などなど、使い古されたテーマが流行りのキーワードで飾るやたちまち鮮やかに蘇る。まるでベテランOLが新卒に変身して再入社して来るみたいです(この表現は多分セクハラだな)。

企画書のインパクトを決めるのは、なにはなくてもタイトル(仮タイトルですが)。タイトルの「見た目」が印象の7割〜8割を占めます。

インパクトだけで出版するかどうかを決めるわけではありませんが、タイトルにキャッチパワーがなければ、中身を読み進めようという気になれないものです。

編集者に検討させるための第一関門が“タイトル”です。そこで、企画書の仮タイトルにいいフレーズが思いつかなければ、ともかく文のどこかに「すごい」「できる」をつけておくことをお奨めします。

凡庸なフレーズに少しだけエッジをつける効果が期待できます。流行のキーワードを企画書タイトルにまぶすことで、編集者を次なる関門、コンテンツのチェックに誘引することになるのです。

ところで、いま念のためインターネットで調べてみたら「すごいマーケティング」はすでに既刊本でありますね。「すごい」「できる」が行き着くところまで行くのは、もはや時間の問題かもしれません。

新たなキーワードを見つけなくては。


■パクリのマナー


企画書のタイトルはあくまで仮タイトルですから、類書と酷似していても差し当たり著作権で揉めることはない(法的にはともかく現実には)ですが、そっくりそのまま他の本からコピーするようなことはやめましょう。

やはりパクリといえども程度があり「50歩100歩」は同じではありません。交通事故の過失致死と連続殺人くらいの差があります。

売れてる本のタイトルをそのまま写してきたら、やはり顰蹙を買います。企画趣旨で言い訳しても読んでもらえません。

タイトルを見ただけで、最近の編集者は著作権侵害に神経質ですから、この著者は危ない人と見られてしまいます。

ベストセラーじゃなければいいのかというと、売れてない本のタイトルをコピーした場合、一見してパクリとはわかりにくいですが、編集者が後で類書をチェックしたとき売れていない本であることがわかるため、売れ行き不振を理由にまず企画は通りません。

よって、売れてない本のタイトルをパクルのも避けるべきです。

実際、タイトルのような短いフレーズに著作権が発生することは稀ですが、ないわけではなく、広く世間に浸透しているタイトルをパクルと不正競争防止法にも抵触することがあります。

では、タイトルはちょっと違うが、企画の内容がそっくりという場合はどうなんだ、そういう本はすでに書店に溢れているじゃないか、といわれると・・・、あ〜え〜、きっと大丈夫なんじゃないですか。

みんなやってるんだから。もし、企画が似てダメということになったら、ビジネス書の出版社は、ほぼ絶滅してしまうし。

ビジネス書には、あまり新理論というのはありませんから(稀には本物の新理論もありますが、多くはオリジナルは別にあるマイナーチェンジ程度)、定理や事実の説明に「独創的な表現」があるかのかが問題になります。

結局、文章を読んでわかってもらうか、絵で見てわかってもらうかで、だれがやっても似たようなものにしかならないだろう、とは思います。

ので、とりあえず文章文体が酷似していなければセーフということにして、みんなあまり考えないようにしてるんじゃないでしょうか。真剣に考えるとかなり深刻なことになってしまいます。

文章文体は違っていても、『チーズはどこに消えた』と『バターはどこに溶けた』のような例もありますから、それで安全地帯にいるという保証はありません。


■まとめ


「誤植」をテーマにした120号で、書いた本人も誤植をいっぱい出していた、というのは、一部はあそびだったのですが、本物の間違いもあり、だれも原稿チェックをしてくれない貧しい発行体制に悲哀を感じています。

有名な独壇場と独擅場(どくせんじょう)のように、間違えたほうが常用語となって残ってしまうこともあります。

ご存知のとおり、今日、独壇場、つまり一人舞台で得意絶頂の様をいうこの言葉は、独擅場(どくせんじょう)「思いのまま振舞うこと」の誤りでした。

土へんとてへんの間違いなのですが、両者は似ているので読み方を間違えたのか、表記を誤ったのかはよくわかりません。

古い辞書には独擅場しか載っていないといいますから、みんなが「どくだんじょう」と言ってるので、多数に日和って文字のほうを壇(だん)に変えてしまったのか、それともどこかでだれかが擅を壇と書き間違えて、それがあっという間に日本中を席巻してしまっ
たのか。

ただ、独擅場を間違えて「どくだんじょう」と読んでいるだけなら、その意味するところの「思いのままに振舞う」が「一人舞台」に変わるのはちと解せません。

独壇(だん)場は、三役総崩れの中、全勝優勝を決める朝昇龍であり、独擅(せん)場は手刀を左手で切ったり、慣習を守らない朝昇龍なわけですから、意味が異なることにみんな気づくと思うのです
が。

ということは、巷間謂われる、読み間違いがそのまま伝わったというのは疑わしい、どうもちょっと誤植の匂いがいたします。とはいえ、時代を経るうちに言葉の意味も変わるという例は、枚挙に暇がありません。

たとえば「羊頭狗肉」は、中国古典「晏子」にある「牛頭馬肉」がオリジナルで、いつの間にか羊と狗に変わったものですが、その意味するところは、前者がつまり昔の新宿歌舞伎町のキャッチバーで、後者が「率先垂範」。

「牛頭馬肉」の、牛の頭を看板に出し中で馬肉を売るのは詐欺っぽい(蕎麦屋でうどんを売るのはどうなんだろう)、だからリーダーは襟を正し自ら範を垂れなければいけない、言ってることとやってることが違ってたらだれも従わないよ、という故事の意味するところが羊頭狗肉では抜け落ちています。

言葉というのは読みも表記も時代とともに流れ、転変とするものですから今後も未来のどこかで誤植が常用語に取って代わることがあるかもしれません。

やはり後生畏るべし。
(念のため申し上げますと、一応校正と後生をかけております)

ではまた来週。


    《編集後記》
 


著書のタイトルは最終的に出版社さんが決めるようですが、企画書をもちこむ段階でも、仮のタイトルをちょっと考えてみる必要があるようですね。

露骨に流行の著書を真似たものが多いんじゃないかと私は想像しますので、やり過ぎは逆効果になるかも?やはりコンサルタントの場合は自分をブランディングする意義が大きいので、内容のユニークさ、著者の個性をタイトルにしっかり打ち出すべきでは、と思います(発行者:樋笠)


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出版プロデューサー/本多 泰輔(ほんだ たいすけ)

プロデューサー・本多泰輔氏は、ビジネス出版社(版元)で20数年の経験をもつベテラン編集者から、出版支援プロデューサーに転身した人物です。その考え方について詳しく知りたい方は、本多氏編集のメールマガジン『コンサル出版フォーラム!本はあなたをメジャーにする』のバックナンバーをご一読下さい。

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