おはようございます。
本多泰輔です。
新潟県中越沖地震に被災されたかたがたに心よりお見舞い申し上げます。
柏崎には行ったことはありませんが、何年か前までは仕事の関係で柏崎の沿岸部をよく通過しておりました。
中越地域ばかりが震災に遇うのは、いかにも理不尽な気がいたします。
一方、いよいよ今週末が参院選挙投票日ですね。
あまりに与党に不利な予想が出揃っていて、結果が気になるところですが、それよりも麻生外務大臣始め現役議員たちのリミッターのぶっ飛んだ発言ぶりのほうが注目される今日この頃です。
ところで、以前にも本を出すことで、どの程度経済的利益が発生するかということを書きました。
経済的利益というのは、原稿料というケースもありますが、多くの場合要するに印税ですね。
安倍首相も『美しい国』の出版で、2千万円くらいの印税があったようです。麻生外相も『とてつもない日本』が売れてますから、同じくらい印税収入はあるでしょう。
それで首相や外相個人がどれだけ儲かったかはわかりませんが、10万部を超えるベストセラーであれば、ファンドマネジャーほどではないにせよ、著者にもかなりの経済効果をもたらします。
しかし、年間76,000点の新刊の中で、どれだけの数が10万部超えに成功しているかは、もう改めて記すことはいたしません。
■印税率
果たして本を出すことは損か得か。
収支はどうなんでしょう。
本一冊つくるまでの著者の労力は下記の通りです。
(1)打合せ・企画に要する労力
(2)原稿作成に要する労力(時間と労働、および取材費)
(3)著者校正に要する労力
(4)宣伝・販促に要する労力
その他、読者からの意表をついた質問や校正ミスのクレームなどに対する心労など、経済計算に適さない項目も多数ありますが、一番労力を要するのが(2)の原稿作成であることは、論を俟ちません。
対して収入は多くの場合印税。印税収入が、最低この労力に見合うものでなければならないわけですが、さてどうでしょう。
印税は
<定価×刷り部数×印税率>
または
<定価×実売部数×印税率>
のいずれかで計算されるケースがほとんどです。
実売部数というのは、一定期間内に納品部数(刷り部数)から返品部数を引いて出すところが多いようです。
新刊のときは判りやすいのですが、一度返品されたものを再出荷しているうちにだんだん計算し難くなってきそうです。
たまたま期間内に全品出荷してしまえば、そこで精算しますから、その半年後に返品があっても「印税返して」というわけにはいきません。
刷り部数形式のほうが、著者に有利なのはもちろんですが、二者択一を迫られる場合もあります。
その場合、実売形式のほうが印税率は高めなので、自信があれば実売形式を択んだほうがいいでしょう。
あまり自信がない場合は、刷り部数形式の印税が8%以上ならそっちがいいかもしれませんね。
4〜5年前あたりに刷り部数形式から実売形式の印税契約が増えたといわれてましたが、最近ではあまり聞きませんね。一段落したのでしょうか。
実売形式は出版社にとっては、リスクが下がるような気がします。
事実、見込み生産で大量に初版を刷る場合には、印税を刷り部数で払っていたら大きな負担です。
しかし、初版のコストをいくら切り詰めても、その本が初版どまりでは、結局のところ損を小さくしただけに滞まるのみ、黒字になるわけではありません。
また、実売形式で契約してくれる著者は、あまり有名人や実績のある人ではありませんので、そもそも初版部数はそれほど多くありません。
大きな損を小さくするというより、小さな損をもう少し小さくするということでしょう。
とはいえ、これだけ返品率の高い時代では、出版社のそうした行動も一概に非難できない面があります。
ただ、印税契約を実売形式に変えたから会社がよくなった、という話は聞いたことがありません。
■実は一定ではない印税率
印税率は、だいたい横並びなのですが、会社によってはかなり低いところもあります。ビジネス書の版元は、1〜2社の例外を除き概して低いほうです。
最も多い印税率帯は、初版印税8〜7%であろうと思います。
最大では10%、最低は・・・わかりません。5、6%という話は聞いたことがありますが、それ以下もないわけではないでしょう。
現在ビジネス書の版元で一律10%の印税を原則にしているところは、ごくごくわずかです。
単行本と新書、文庫では、印税率もまた違います。
ビジネス書の文庫には、書下ろしはほとんどありませんから、印税率はすこし低い。そのかわり初版の部数が3万部くらいですので、収入額にあまり差はありません。
20年くらい前までは、単行本の印税率は10%というのが基本的な数字でした。
本の流通は戦前まで溯ると、現在のような委託制ではなく書店による買取が主流でした。返品はほぼありません。
そのころの書店は、自分の目利きを頼りに本をいくつ仕入れるかを見定めました。出版社も、どのくらい仕入れてもらえるかを見極めて印刷部数を決めました。
目利きと目利きの勝負だったわけです。
とはいえ、当時は初版500部からの時代、いまなら自費出版の冊数ですが、書店の数も少なく、大量配布、大量返品ができなかった時代ですから、それでもよかったのです。
一時期、「円本ブーム」が委託制と大量配本システムを拡大しましたが、それでも読者の予約を背景にしたものであり、已然大勢は買い切りでした。
つまり当時の出版というのは、現在のような返品率40%以上という博打のような発行部数ではなく、格段に見通しのある手堅いものだったわけです。
そしてその当時から稼業を張っており、今日に至るまで栄華を誇る講談社、新潮社、小学館、岩波書店などの老舗は、ビジネス書版元と違い印税を出し渋ったりしません。
というのは、これら老舗版元は取次ぎの正味でかなり優遇されているからです。
出版社から取次ぎへの納品は、定価の何掛けということで卸します。この掛け率は、会社によって大きく異なります。
最も条件の厳しい新参の会社は定価の60%で納め、最高に条件のよいところでは75%で納める、その差実に15%です。新参が印税率を多少倹約したところで、埋めようがありません。
中堅どころの出版社では、だいたい定価の67%〜69%が正味です。
65%の会社と75%の会社では、取次ぎに納品した段階で、売上にすでにこれだけのハンデがあります。
老舗版元の印税は10%、人気のある人なら12%もあるようです。
対する新興・中堅出版社では7〜8%程度、仕入れの待遇で10%以上の差があることを考えれば、老舗版元の10%印税でもまだ安いじゃないか、という気がします。
■経済的には骨折り損?
このように出版社によって、印税率は異なりますので、経済効果を考えれば老舗版元から出したほうが有利であるといえます。もちろん販売力もありますから。
しかし、大手老舗になるほど出版のハードルが高くなるのも事実、市場に出ないよりは、多少不利な条件でも出したほうがよい、というのは正解です。出せば、一応の実績になるし、ベストセラーになる「可能性」もあります。
当たることはほぼないが、買わなきゃぜったい当たらないサマージャンボ宝くじと同じで、出版しないことにはベストセラーにはなりません(念のため断っておきますが、初版3千部以下ではベストセラーは不可能です。500部しかつくらない自費出版が、今日の流通市場でベストセラーになることは、多分100年に一度くらいしかないでしょう)。
そんなわけで多くの場合、出版に成功することはできても、出版で成功することは難しい。
だいたい「骨折損だったなあ」というケースが多かろうと思います。すくなくとも経済的にはそうだろうと思います。
あとは実績としては残りますから、そこに活路を見出すしかありませんね。その一方で、売れっ子という著者もいるわけで、そういう人はベストセラーを連発しています。
出版社もベストセラーになりそうな企画が欲しいわけですから、ベストセラー著者の真似をして本を出すのも、ひとつの方法ですが、あまりにも似たようなのばかりが並ぶと、かえって似ているものからパージされることもあります。
またベストセラーの真似は、水面下で異常なほど多くの人がやっていることも知っておくべきです。真似のほうが競争率は高いのです。
企画は真似かオリジナルか、ここいらへんがまた難しいところですね。美人は何をやってもさまになるが、そうでない人は・・・・・、というのと同じなんでしょうね。
彼も我も同じ人間。
動物界ではそうでしょうが、出版界ではなかなかそうは言えません。
ではまた来週。
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