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第144号 『リテール出版という視線』

おはようございます。
本多泰輔です。

民主党党首は、結局元の鞘に納まりましたね。
よくわからないけど、とりあえず一件落着。

しかし、民主党ってのは攻勢にかかっているときに、よく自ら転ぶ。

昨年「偽メール」に引っ掛けられたと思ったら、今度は党首自らのご乱心、わが身を犠牲にして自民党を支えているようにしか見えません。

先週、山田洋行元専務、宮崎氏の身柄が地検特捜に取られました。特捜が動く時の的は議員バッジです。

前回も書きましたが、わたしは小沢党首の大連立、辞任、辞任の取り消しまでの一連のダッチロールは、特捜の防衛利権捜査に関係しているのではないかと勘ぐっています。

だって、それ以外の理由、連立に参加することで政策を実現とか、政権担当能力を示すでは、かつて自民党幹事長をやっていた人が考えることとは思えません。

邪推に過ぎないのでしょうが、特捜の逮捕をかわすには、閣僚に逃げ込むか、議員辞職するかです。

閣僚が無理なら議員辞職しかありません。党首のまま議員辞職というわけには行かないので、とりあえず党首辞任、だったのではないか。

そんな中、党首を継続したということは、一定のセーフティーゾーンの見通しが立ったのか、民主党執行部が、たとえ法案と引き換えにしても全力で守る(なつかしいフレーズ)と言ったのか、ということだったんじゃないかと妄想が膨らんで止まりません。

問題は、宮崎氏がどこまで歌うかですが、検察に協力するより黙っていたほうが、利益がでかいのですから、たぶんしゃべんないでしょうね。

そもそもこの話、山田洋行の内紛から始まったことなので、山田はいろいろしゃべるでしょうけど、こっちもしゃべりすぎると防衛省からにらまれてしまうし、共犯になりかねない。

いまごろは話が大きくなりすぎて、ちょっと蒼ざめているんじゃないでしょうか。

さて、今回の捜査、バッジというより、そもそも守屋氏本人までいくのでしょうか。


■意外とあるリテール出版物


先月、安〜い居酒屋で、ある出版社の人間と飲んでいたら、別のある出版社から電話が入りました。

「何かいい原稿もってないか」と。

その時は、行き先未定の原稿はなかったので「ない」と答えましたが、ま、発行スケジュールに穴が開いたのでしょう。わたしのところまで追いかけて来るとは、よほどの事情だったと推察します。

こういう時に、押し込める原稿を常に1、2本持っているべきかとも思いました。

しかし、原稿には書き手がいるわけですから、あんまり大量に原稿が集まって来ても、すべてに対応できるパワーはないので、これ以上著者を待たせてがっかりさせるのもつらい。ま仕方ありません。

話変って、出版というのはリテールにはあまり向かないものと思っていたのですが、「東京ウォーカー」を始めとする地域レジャーガイドはエリアごとに一定の部数を保って、十分商業ベースになっているようです。

また、グルメマップのような地元誌的なものも書店の一角を確実に押さえています。

それも東京、名古屋、大阪、福岡、札幌といった大都市だけではなく、山梨とか埼玉とか千葉とか、あるいは滋賀とか高知とか熊本とか、要するにどこでもエリアガイドはあるわけです。

いまは秋の行楽シーズン終盤ですから、特に目立ちます。

お出かけは近場で済まそう、なのか、近場の再発見なのか、いずれにしても一定のエリア内なのですから、そう大部数を望むことはできないでしょうが、雑誌でも1万部、2万部で採算の取れる制作体制なのでしょう。

実際、中味はレジャーガイドにグルメガイドですから、記事なんかその辺の閑なライターを飛ばして取材させるだけだし、写真はデジカメでいけるし、広告だったら撮影料もらえるし、制作コストはもっぱら印刷費ですが、いまはかなり安いし、一番割高な紙代は、制作部数がすくないですから全国に大量に配本するより有利とさえいます。

そんなわけでローカル出版も可能な時代なわけですね。書店も取次ぎもエリア限定の配本に、そんなに抵抗がないみたいですし。

市民図書館の貸出データでも、ランキングのトップ3に地元のレジャーガイドが入ってきます。エリア限定の出版は、それなりに全国版に対する比較優位性がありそうです。


■リテール出版とビジネス書


ビジネス書でローカルなテーマというのは、ありそうでないジャンルです。

『大阪ナントカ』とか『名古屋ナントカ』というのは、一般書のジャンルにはありますが、ビジネス書らしいビジネス書で地域ものというものは、まだ未開拓という状態かと思います。

もっとも、地域の人による、地域のための、地域の人しか読まない本、というのはビジネス書が存在したとしても、エリア限定の本のことは、こちらの耳にまで入りませんから、わたしが知らないだけかもしれません。

じゃあ、ビジネス書でローカルなテーマって一体なんだと考えてみると、例えばマナー、エチケットの機微に属する話、全国レベルと一般的振る舞いと地域ごとの所作には自ずと違いがあるでしょうから、「津軽地方の訪問マナー」とか「信濃甲州方面の電話マナー」というのは、ありでしょう。

どうですかね。

実際、そういう本もありそうな気がします。
見たことはないですが。

「神戸、明石で営業成績を上げる方法」とか「愛知、岐阜で焦げ付きを減らす方法」などという、実務的なテーマもあってもいいですね。

ビジネス書の編集部では、いままで全国共通を前提にしてテーマを切り分けていましたが、エリアごと縦に切り分けてみると、さらにテーマの幅が広がりますね。

ビジネス書出版の世界では、市場の9割は東京圏といわれてますが、それはローカルに対応していない企画のせいかもしれません。

新聞だって地方に行けば、朝毎読より地元紙のほうが強いんですから、書籍も地方に注目した企画があってもいいかもしれません。

そうはいっても、大体、編集の多くは地方出身者なんですが、出版社の9割近くは在京ですから、地方の情報には極めてうとい。

東京以外に支社、または営業所を持っている出版社は、大手でもわずかです。よって、ローカルで出版をやっているのは新聞社ばかり。

問題は、エリア限定でも販売部数が担保できるかどうか。


■リテール出版という選択肢は


コンサルタントには、あえて東京を射程外に置き、リテールなエリアを活動ステージにしているかたがいますね。

出版はメジャーになる手段、という本メルマガの煽りとは逆行しますが、リテールでも出版は有効に機能できると思います。

出版することのメリットである、出版という事実による権威付け、著書から広がる知名度は、全国レベルの出版に較べると全体にスケールダウンしますが、そのかわり競争相手が少ないため出版のハードルは下がります。

一方、在京の中核出版社からローカルなテーマで出版できれば、権威付けに関しては遜色ありません。

とりあえず、リテール出版のための行動を見てみましょう。


○リテールの出版社に働きかける

根本的にリテールの場合、ビジネス系の出版社も著者も少ないので、エリア内に出版社が存在すれば、話は早いと思います。適当な出版社がなければ、地元紙か大手新聞社の支社に売り込めばいいでしょう。

大手の場合、出版は本社(東京、大阪、西日本)だけということが多いと思いますが、最近は印刷所を分散してますから、どこであれ可能性ゼロではありません。


○在京出版社にリテール出版の企画を持ち込む

在京の出版社の多くは、先に述べたとおり市場の9割が東京圏という過去の事実にとらわれており、リテールで出版した経験がないので、まず一筋縄では落ちません。

ただ、最近は販売データはエリアごとにも詳しく出ていますので、具体的に特定地域でも適切な企画であれば、商業ベースとして成り立つことを納得させることは不可能なわけではありません。

要は、リテールでの実績を示せればいいわけです。

例えば、信越地域限定で初版2千部出した本が、年間で5千部売れたとすれば、全国であろうがリテールであろうが、5千部であることは同じです。

しかし、5千部でよしとする版元は、ちょっと小規模ですので権威付けにしてもやや面白くありません。では、どの程度の実績があれば中核出版社の心を動かせるのでしょうか。

近畿地方限定の本が、初版3千部で一年間に重版を重ね1万部まで行ったとなれば、営業面でどこまでフォローできるか、その会社の事情によって揺れはありますが、どの出版社であっても商業的にはGOとなりえます。

全国で1万売れない本でも、リテールで1万売れるとなれば、どこでもかなり前向きに傾くでしょう。

いまは、取次ぎもリテール対応できますから、流通面で不利な点はありません。

全国区のメジャーは目指さない、地域と共生する地域型のコンサルタントを目指す人にとっても、出版は一定の効果はあろうかと思いますし、データ面で担保できるものをお持ちなら、リテールのテーマであることを売りに企画を提案するのも一つの手段かもしれません。


■近頃の自費出版


最近、自費出版系の某文芸社の新聞広告を拝見しましたら、だいぶ以前とはメニューの組み立てが変ってきており、一見したところでは、だいぶお客さま=著者の方向に歩み始めたのかな、という気がしました。

リターン率の大きいメニューなどは、ファンドタイプを参考にしたのかなと勘ぐりたくなりますが、とにかくいろいろ競合も増えたり、お客=著者も賢くなったのでしょうね。

いろいろ気になるところのある自費出版系の出版社ですが、その変わり身の早さというか、対応力というのは一目置くに値するところがあります。

では、また来週。



    《編集後記》
 

ローカルな地域に限定したビジネス出版はあまり見たことがありませんが、けっこう面白い視点かもしれませんね。そもそも全国販売を前提に考えがちですが、エリアでも十分に採算の合う部数で、エリアに特化したビジネステーマを扱うというのも一考の余地があるのではないでしょうか。視点がユニークなら、意外と全国でヒットする可能性もあるでしょうね(発行者:樋笠)



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出版プロデューサー/本多 泰輔(ほんだ たいすけ)

プロデューサー・本多泰輔氏は、ビジネス出版社(版元)で20数年の経験をもつベテラン編集者から、出版支援プロデューサーに転身した人物です。その考え方について詳しく知りたい方は、本多氏編集のメールマガジン『コンサル出版フォーラム!本はあなたをメジャーにする』のバックナンバーをご一読下さい。








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