おはようございます。
本多泰輔です。
『ミシュランガイド東京』が出たそうですね。
版元はどこかと思ったら、ミシュランでした。
当然です。発売は日販アイ・ビー・シーでした。
クリスマス商戦の直前に出すなんて、まあ、意図していることはわかりますが、150店くらいしか紹介されてないわけですから、ここでも勝ち組と負け組みがはっきり分かれますね。
星の付いた店は、予約殺到で勝ち組、星の付いた店に予約を入れることができた人は、政治力か経済力を駆使したのか知りませんが、ともかくこれも勝ち組、そういう男にくっついていった女も勝ち組。
それ以外は負け組み。負け組みは、負け組同士、負け組みの店で、つつましくイブを過ごす。
『ミシュランガイド東京』、嫌な本ですねえ。
ミシュランといえば、バブルのピークの頃、「週刊朝日」で『一度は行きたい恨ミシュラン』という度胸溢れる連載がありました。
私は、『一度は行きたい恨ミシュラン』を読むためだけに当時「週刊朝日」を買っていました。
『ミシュランガイド東京』発刊記念にもう一度連載が復活されないかと期待しております。そして鬼神を畏れぬあの蛮勇を、ミシュラン本家相手に奮っていただきたいものと思います。
■文章は究極伝達力
さて、当たり前ですけど、本というものは、絵か文章でつづられます。
文章には、上手い下手がありますけど、ビジネス書や一般書で最も肝心なことは、魅力的な情報、必要な情報がわかりやすく書かれていること。
まず、伝えるべき情報自体が関心のあるものでなければなりません。
そして次に伝え方です。
伝え方イコール文章のテクニックではありません。
その前に何を切り取って伝えるかが重要です。
すべてをいっぺんに伝えられるほどの、神のような力は著者にありませんし、すべてを伝えられて受け容れられる聖徳太子のような読者もおりません。
ですから、何を切り取るか、論点の整理と伝え方が重要なのです。
例えばどんな事例を選ぶか、あるいはどんな比喩を用いるかなども、伝え方といえます。
仏教の経典にも、比喩は本質から逸れてしまうが、人々を導くためにはあえて比喩を用いる、というようなことが書いてありますから、お釈迦様でさえ伝え方に心を砕かれたわけです。
ですから、われわれが伝え方に悩むのは、もう地球の引力に縛られるようなもので、まったくもって仕方のないことです。
そして伝え方で一番大切なことは、相手にどう伝わるかです。
いわゆるリテラシーですね。
事例にせよ、比喩にせよ、図解にせよ、文章にせよ、すべてそのための小道具といえます。昔の人は、行間さえ小道具にしました。
■論点を整理する
情報が豊富な人は、話が広がりすぎるという傾向があります。
話しているうちに、当初のテーマと違うテーマになってしまうということもよくありますし、何をしゃべってたか忘れることも少なくありません。忘れるのは歳のせいかもしれませんが。
原稿を書く場合は、しゃべるほどにすばやいテーマの展開はできませんので、テーマが散逸することはないでしょうが、それでも書き込んでいくとどんどん深みにはまってしまう。
逆に深みにはまらないように慎重に進めると、議論が浅すぎてことの本質にまで届かず、非常につまらないものになる。
この辺の進退加減を見極めるのが、著者のセンスということになります。
論点を整理するのは、書き始める段階ではある程度決まってなければいけませんが、何事もやってみなければわからないところはあります。原稿だって書いてみたら、別の展開が閃いたということはよくあります。
論点を整理するといっても、文章講座の教科書どおりにはスムーズに行きません。
最近は、読者より著者が増えた時代ですので、小説作法や文章作法についてもたくさんの本が出ています。
そういう文章読本を読んでみるのもいいのですが、コンサルタントにはもっとよい論点の整理方法があります。
どんなテーマでもそうですが、オリジナリティを出そうと独りであれこれ考えを進めていくと、とてつもなく飛躍したり、煮詰まってしまって嫌気が差してきたりと、あまりいいことはありません。
編集者がいれば相談できますが、編集も素人だったりすると対して役に立たなかったりします。
ところが、講演会やセミナーなどで、何度も実践に耐えたものは、第三者を納得させたという点では、いわば実証済みの「オリジナリティ」です。
何10人かの前で披露すれば、聞き手が納得しているのか、腑に落ちていないのかは、演壇から見てればわかりますよね。
そうやって、「現場」で実験済みのものは文章として発表しても、多くの場合読者からそっぽを向かれることはありません。
編集者に対しても、自身を持って主張できます。
すでに「現場」で実証済みの話を論点として残し、それらを時系列なり進化の系統なりにつないでいけば、労せずして論点は整理されます。
論点を整理するというより、論点から組み立て始めるという方法です。
■講演、セミナーはすでに一冊の本
本づくりから見れば、2時間程度の講演でも一冊の本になります。
ボリュームとしては決定的に原稿量が足りませんが、骨格たる論点はできていますから、その骨格の上にエピソード、つまり事例を増やしたり、詳しく述べることで、文章量は補うことができます。
本当にそんな簡単にできるのかと、疑われるでしょうが、有名人の本は、だいたいこの方法でできているのですから、書店に実在する本が証明しているといえます。
ただ、こうした本は前半は面白いのですが、後半は「ちょっとくどいな」という気がして読むのが億劫になります。元が2時間なのでそこは仕方のないところでしょう。
講演、セミナーが一冊の本になるとして、それが出版されるか、本となって売れるか、というと、双方に確かな関係性はありません。
講演では受けても、本では売れない。
逆に本で売れたものでも、講演だとつまらないこともあります。
とりあえずベストセラーの著者なら、それだけではったりが効きますので、最初の15分は聴衆の意識は集中しますけど。
セミナーには毎回100人を超す聴衆が集まり、会場は常に熱気に包まれ、セミナー終了後は賞賛の嵐だ、ということであれば、編集者を落とすことはできるでしょうが、市場はいたって冷静です。
私もそういう人を何人か知っていますが、不思議と本は売れたことがない。編集者が悪いのでしょうか。
そういうわけで、本になってからの売れ行きはともかく、原稿を書くときは、新規に書き下ろすよりも、過去のセミナー・講演、または企業の指導現場で実績ある部分を採集することから始めてみるのも確かな方法です。
いわば「個人資産」の棚卸ですね。
■まとめ
困った時は経験談、というはビジネス書の著者がよく使う手です。
こういうときの経験談は、捏造されたケースが多く、普通あまり説得力のない話になっています。
逆に事実はやはり説得力があるものですが、先日長ベテランコンサルタントと昔の話をしていたら、その人が講演会で話していた経験談に事実そのものというのは、一つもなかったそうです。
長いことやっているうちに、カスタマイズ、つまり聴衆や企業の役員相手に通じやすいように変っていったそうです。
やはり、「現場」で鍛えた話じゃないと、全員の心を射抜くような話にならない、事実というだけではお話に力が備わらないようです。逸話や小説みたいなものでしょうかね。
みなさんも「現場」で鍛えられた論理をお持ちでしょうから、いっぺん「現場」に戻ってネタを拾ってみてはどうでしょう。
ではまた来週。
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