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第160号 『真夏でも寒い出版界の現状』

総選挙、このメルマガが配信されるときには、もう結果が出ているわけです。たぶん、大方の予想とそう違わない結果だろうと思いますけど、どうなんでしょうね。

若者は、新聞は読まない、雑誌は読まない、広告は見ない、車は買わない、そもそも免許をとらない、旅行しない、酒も飲まないようですが、投票には行ったんでしょうか。

と、投票日の3日前に総選挙の話題に触れる、本多泰輔です。
今月は2回も登場です。ヒマだからでしょうか。

もうすっかり秋ですね。

残暑お見舞いというのも間が抜けた感じがいたします。
そもそも今年夏があったのかという印象です。

どうも、政権交代が起きても、出版界に何か新しいことが起きる気配はありません。

小泉元首相のように、首相の一言で『信長の棺』や『鈍感力』のようなベストセラーが生まれればいいんですが、次の総理が読書家なのかどうかわかりませんし、仮に読書家だとしても小泉首相みたいな人気がなければ、読んでもらってもね。

現総理は、ビジネス書を「大人買い」してましたけど、別に売れ行きに影響ありませんでしたし。


■真夏でも寒い出版界の現状


縮み指向なのか縮み思考なのか、やってることも考えてることも、両方ともすこし悲観的過ぎますね。

世間一般の傾向ですが、出版界は別の事情で縮み指向でした。この傾向は、出版社だけではなく、取次ぎも書店も同様だったと思います。

雑誌は広告が落ちて著しい収入減、書籍もこれがいいというものがありませんし、「内食」が増えて、カンタンレシピとかお弁当の本は売れてるみたいですが、ベースとしては小さいですね。

縮み指向もむべなるかな。

ちなみに、わたしの知り合いの東大阪の会社は、お弁当箱が売れて喜んでいました。お弁当箱市場というのは、意外にすそ野が広くて、石川県の輪島塗の産地の会社でもお弁当箱をつくってましたね。

こちらも売れてるんでしょうか。
こんど様子を聞いてみたいと思います。

大手取次ぎの情報だと、昨年度のビジネス書の総出荷数は、一昨年に対し50%減だったそうです。

えっ!ホントですか?って感じですけど、どうやらウソではないみたいです。

どの本をビジネス書にカウントするかは、会社によって違うのですが、とにかく同じカテゴリーで、出荷数の昨対が50%というのは、縮みすぎです。

『1Q84』は、「第一四半期、昨対84%」と思ってた人がいましたけど、それなら全然いいほうですよね。出荷総数50%なんて、トヨタだってそこまで落ちていません。

つまり、50%ということは、発行部数を伸ばした出版社の倍ほどは、発行部数を激減させた出版社があったということで、そりゃ草思社も倒れてしまうわなと思います。

総出荷量だから、売上とイコールではありませんが、出荷されなきゃ売上も立ちませんから当然、売上だって落ち込んでいるはずです。

いくら著者の印税を値切り、印刷屋さんを泣かせ(最近は自ら泣きたがるM気のつよい会社も多いですが)、社員の給与を据え置いたとしても収支は悪化します。

とても、それでなんとかなる状況ではありません。
これだけ寒ければ、暑中見舞いはいりませんよね。


■高くなりすぎた返品率の反動


実は、大手取次ぎというのは2社ありまして、上記の数字はそのうちの1社の話であります。もう1社はどうかというと、まだ確認できていませんが、無論よくはないと思いますが、想像するに上記の数字ほど惨憺たるものではなかろうと思います。

なぜかというと、後の1社は、前の会社ほど、状況に対応するスピードが早くないからです。

2、3年前まで、文庫、新書の新刊ブームがありました。また、書店も出版社も新刊重視の姿勢を強め、既刊本を多品種少量で売っていた出版社でも、新刊の瞬発力に頼らざるを得ず、方向転換していきました。

総売上は横ばいなのに、新刊の発行点数は毎年伸びる、そういう時代が続きました。このメルマガでも何度か書いたことです。

結果、あまりにも新刊の発行ペースが上がり、当然ながら書店の数も売り場面積は広がりませんから、新刊1点あたりの寿命はどんどん短くなってしまいました。

つまり、本によっては、書店に着いたとたんに返品という、実に哀しく過酷な運命の本が増え、お情けで店頭に並んだ本も、次々と出てくる新刊に押され、1週間も経たないうちに、棚さしに2部ほど残してバックヤード行き、そして返品という生涯です。

もし、本が口をきけたら抗議のひとつも出るところでしょう。

送り出した本が返ってくるのは、取次ぎとしてもコスト増になります。できれば、一度出荷した本は、きちんと読者に買い取ってもらいたい。

しかし、現実は40%の真ん中から後ろのあたりで返品率がうろうろしているので、取次ぎとしても、あんまり新刊本が次々と出てきてもらっても困る。出すなら売れる本だけにしてくれ。

そのため、取次ぎでもデータ管理が進んでいるところでは、どんな本が売れるのかを調べ、売れそうもないものは市場に出す量を制限しようと、そういう動きを始めました。

理屈としては、間違ってないのですが、いかにシステムの精度が高かろうと、データを入力するのは人間で、システムの成績は、どのデータが蓋然性の高いものかを見分ける人間の能力で決まってしまいます。

動機が、返品率を下げたい、だったわけなので、選ぶデータもそういう傾向になり、返品を避けるために、出すものを縮小するという、いわば縮み指向になってしまったわけです。

その結果、前年比50%まで出荷量が下がってしまいました。取次ぎ大手のもう1社のほうは、そこまでシステムが出来てませんので、たぶん50%も落してないだろうと思います。


■反動の反動


こういう振り子の現象は、どこでもあることです。
推測ですが、ビジネス書でも硬派の書籍と書店営業をあまりしないところが、取次ぎの制限による強く影響を受けただろうと思います。

書店営業の強いところは、川下からの注文で取次ぎを動かしますし、取次ぎが売れ筋と見るものは、実際に動いているもの、つまり、自己啓発ものとか、まあ柔らかめのものになりますから、そういう出版傾向の会社も影響は少なかったろうと思います。

書店営業をしない、取り次ぎまかせのところ、まあ取り次ぎ営業しかしない大手出版社か、そもそも営業がいない弱小出版社ですが、そこらへんは困ったことになっているのではないかと思います。

しかし、締めてみたら50%減というのは、取次ぎもびっくりの数字で、これではダイエットのし過ぎで健康に悪い、あまりに絞りすぎたというのが現状の認識で、今後は方向を積極指向に転換するようです。

来年当たりは、またダンボールの原材料が増えることになり、順調に経済が回復している中国はダンボールの値段が下がって喜ぶでしょう。

書店に置かなきゃ売れないと返品を増やすなは、出版社の中で常に拮抗することで、両者を満たすのは、ベストセラーだけなんですが、ベストセラーも置きすぎると、べらぼうな量を返品が返ってきますからね。

ベストセラーを出した翌年、資金繰りが悪くなって借金する出版社は多いです。そういうわけで、しばらくの間は振り子は積極拡大のほうへ振れています。


秋口はまだ縮み指向の冷気が残っていますので、あまり動きはないでしょうが、来年あたりは、また、出版のチャンスが増えるんじゃないかと思います。

いまから仕込んでおけば、いいタイミングじゃないでしょうか。



   《編集後記》
  総選挙から一夜明けた東京は雨。8月の終わり。いろいろと変わり目を感じますね・・・。(発行者:樋笠)




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