おはようございます。本多泰輔です。
なぞかけがちょっとブームです。そこでわたしも。
「鳩山退陣とかけまして、編集会議でどの企画を出版するか、煮詰
まった時とときます。そのこころは。あとはカンにまかせるしかない」
このなぞかけブームも、なにか「なんでだろう」や「フォー!」のような一発屋の匂いがしますね。
最近は長続きするものがすくない。もう「サザエさん」くらいじゃないでしょうか。
昨年夏に新政権誕生と思ったら、もう次の総理の当番で、最近は総理のライフサイクルも短い。でも、新刊書のライフサイクルはもっと短いですから、出版界よりは政界のほうがいくらかましかもしれません。
政権が民主党に替わって、なにか新しいテーマが生まれるとは期待していなかったのですが、実は水面下でけっこういろんなテーマが生まれようとしています。
水面上だと、派遣法の改正があります。一方の推進者であった社民党が辺野古で離脱したため、今国会成立の勢いはいくぶんか落ちましたが、民主党の政策でもあったので、たぶん法案は成立するものと見られています。
そのほかにも仕込み中の法案には、ビジネス上の弱者や働く側権
利強化に大きく踏み込んだものがあり、企業に新しい事態に対する備えを強いることになりそうです。経営コンサルタントとしては、すべからくチャンスではないかと思います。
出版にとっても新しい制度、法律が出てくるときはチャンスなので、意外に民主党、ネタをくれるかもしれません。
ただし、夏の参議院選挙で勝てればですが。
■潜在読者という思い込み
さて、出版社が企画を通すかどうかの判断は、いまさらいうまでもなくその企画がどの程度売れるかという一点です。
売れるかどうか、というのは、要するに読者がどれくらいいるかということで、読者のいないテーマの本はどんなに安くてもだれも手に取りません。たとえタダでも読まれることはありません。チラシやDMと同じです。
とはいえ、読者がどれだけいるのかというのは計測のしようがなく、精度を上げようとしても、細部にわたればわたるほど、カンに頼るしかありません。
それでも、より多くの読者のいる本を出そうとするのが現在の出版で、そういうテーマ、そういう企画の切り口が求められます。
日本の人口は1億2千万人前後ですから、理論上、ベストセラーの最大部数は1億2千万部です。『ドラゴンボール』は日本の人口より売れていますが、それは各国語に翻訳され世界市場で売れているからです。「聖書」は世界中の人口を超える部数が発行されていますが、それは暦年の累積です。日本国内で出版するならば、1億2千万人のうち何人がその本の読者なのかということになります。
話をスケールダウンしましょう。
家電量販店の「ヤマダ電機」の社員数は約1万2千人、日本の人口の1万分の1です。企業規模からすると少ない気がしますが、本体はそういう人数です。あとは派遣社員なのかと思います。派遣法変わると大変そうですね。
それはともかく、仮に「ヤマダ電機で出世して幸せになる本」というテーマを企画したとします。読者は1万2千人、書店において売れるかどうかは不安ですが、読者数はあいまいな数ではありません。
本の内容に説得力があれば、読者はついてくるでしょう。
しかし、問題は1万2千人のうち、本当に本を購入してくれる人がどれだけいるか。そこはやはりわからないままで、発行してみないことには潜在読者が本物の読者なのか確認することはできません。
おおよそ潜在読者の1割が購入してくれたら、その本は成功といえます。
つまり、1万2千人の潜在読者を持つ企画の期待部数は1200部。
10人に一人が買ってくれます。
■ベストセラーは日本中でどれくらい読まれているか
期待部数が1200部では採算はとれません。
したがって本企画が陽の目を見ることはなかろうと思います。
日本に書店は約1万8千店ありますから、各店で1冊くらいは売れる本でないと、出版の意義が経営的にも見出せません。
2万部の本かどうかを企画の判断基準にする出版社も実際あります。
1割で成功という数字を大きいと見るか、小さいと見るか。それはもの凄く大きい数字です。
分母を変えればわかる。
日本人の10人に一人が読んでいれば1200万部の本になります。そんなの紙媒体では存在しません。
『1Q84』だって、34人に一人くらいしか読んでいないのです・・・って、実際読んでいる人は45人に一人くらいでしょうね。
それでももの凄い数ですけど。
45人に一人というと、バス一台につき乗客の一人は必ず読んでいることになります。学校だと一クラスに一人か二クラスに3人くらいが読んでいる本ということでしょうか。
120万部のベストセラーだと、日本人の100人に一人が読んでいるわけですから、朝夕のラッシュ時、東京駅から出て行く新幹線の一車両に一人ずつは読んでいることになります。
360万部の『1Q84』や120万部の大ベストセラーは年間でもめったにありませんけど、12万部くらいのベストセラーは年に何十点かあります。12万部だと千人に一人が読んでいる本。
千人に一人というのは、中学校1校で一人しか読んでいない。
六本木ヒルズに住まっている金満エリートのうちだと20人、仕事や物見胡散で同所を訪れているたくさんの人々のなかでは、50人ほどが読んでいる本です。
12万部となると、案外少ない。それでも紛れもなくベストセラーです。
J1の球団経営の優等生、浦和レッズは各試合で3万人以上を集め
ます。チケットは3000円以上ですから、単行本の約2冊分、したがって毎試合6万部の本相当を売り上げています。
まあ、そう考えると出版というのは、あまり儲からない事業です。
■ビジネス書の見込み部数は
ビジネス書の読者は、働く人か、働かせる人です。
日本の就労人口は約6000万人。非正規社員も含みます。
働く人のための本は1割の600万部の期待部数があるわけです、
そんな数の本はいまのところ出ていません。
事業所数は約300万ですから、トップリーダーのための本も30万部ほど期待できます。これはたまに見る数字です。
6000万人の就労者のうち、毎年1%くらいが新任管理者になるとすると、「課長になったら読む本」の潜在読者は60万人、その1割で6万部が期待できます。
ところが、「課長になったら読む本」は類書が多く、文庫新書も合わせれば、一書店にかるく10点ほどは存在します。
結果、販売数は分散し1点あたり年間で6000部ほど。
これは実態に近い数字ですね。
6000部じゃあやらないか、というと、これがまた面倒なことに、売れ行き良好書というのは上位3点が売上全体の6割から7割を占め、4位以下が残りの3割にひしめき合う。
トップになれば悠々2万部を超えるわけですから、やらない手はないのです。
じゃあ企画の決め手は、となると、そこは斬新な切り口か、著者のユニークさか知名度勝負ということになります。
斬新な切り口って何よ、と訊かれると、それは他とは違うこととなるのですが、ほかと違えば売れるという具合にはいかないので、結局はカン頼みとなり振り出しに戻ります。
そのテーマに潜在読者の数が20万人いるかどうか。
その企画が通るものかハネられるものか、その鍵の一つは潜在読者の数にあります。しかし、その潜在読者をカウントするのもまた難
しい。
6000万人を読者にしようと「働く人が得する本」というテーマで企画を立てることができるかというと、もちろん企画の方向としては成り立つのですが、それ自体を企画にすることはまず無理でしょう。
したとしても、何のことかわからない、テーマが鮮明ではないからまず出版社で通らない。
つまり「働く人が得する本」という企画の潜在読者6000万人は、いそうでいないわけです。
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これは果たして何万人に一人が読む本でしょうか。
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