いつの間にか秋深しという季節になりました。サンマが高いのが哀しい秋です。
おはようございます。本多泰輔です。
ダイヤモンド社の「もしドラ」は来年3月にNHKでアニメ放送されるとかで、目標部数が300万部に跳ね上がったらしいですね。もはや村上春樹の「1Q84」に次ぐベストセラー、あるいはそれ以上かもしれません。
そのわりに、「柳の下」をねらった本が意外に少ないのが不思議です。それゆえ「もしドラ」の一人勝ちばかり目立って、ドラッカーブームという状況にありません。まあ、これから雨後の筍のように増えてくるのかもしれませんが。
「もしドラ」の後に出てきたドラッカー本のうち、何点かは5万部を超えるものがありますから、本当はブームになっていてもいいんですが、このあたりにも出版界の縮み指向が窺えると思っています。縮み指向とは、カンタンに言うと「もうだめだろう」です。
「もしドラ」が売れて、読者はみんな吸い取られた、だから「もうだめだろう」。「もしドラ」で読者の関心はドラッカーに集まった、「まだこれからだ」とはならないのですね。そこが斜陽業界の斜陽たる由縁です。「もう」と「まだ」の差は大きい。
さて、売れてる本の理由は考えなくてもいんですが、あえて少しだけ考えてみたいと思います。しょせん思いつきなんですけど。
■マネジメントの教科書
ドラッカーの本は、早い話がマネジメントの教科書です。高校の野球部のマネージャーが読んでも、上場企業の管理者が読んでもそこは変わりません。
「もしドラ」は、ドラッカー生誕100年の節目で出てきた本です。正確には記憶してませんが、日本にドラッカーが紹介されて50年くらいは経ちます。
ビジネス書の何割かはドラッカーの受け売り、孫引きで書かれているし、日本企業のマネジメントに対しても大なり小なり影響を与えています。なぜか。
暴論を承知で言うと、それしか近代的マネジメントの教科書がなかったからです。もうすこし解説風に言えば、ドラッカー並に論理的に経営を語ったものがなかったということでしょうか。
日本はアメリカに較べ、いわゆる会社という組織が出来たのが遅くて、軽く100年以上の差があります。ですから、日本においては会社経営の歴史が浅い。そこで組織を動かすやりかたをどこに学んだかというと、戦国武将や歴史上の人物の来し方を参考にしました。
会社のマネジメントも国のマネジメントも相通じるところが多いですから。日本的経営の教科書は「歴史」しかなかったのです。雑誌「プレジデント」が売れていた理由もそこにあったわけです。
松下幸之助に学ぶか、戦国武将に学ぶか、20年前までのビジネスマンは、そういう逸話を基にマネジメントの真髄を探っていたわけです。
近代的なマネジメントの教科書はドラッカーで学んでいたものの、本流はまだまだ日本的経営であり、そのお手本は戦国武将や松下幸之助でした
でも、歴史上の人物の行動は結果であって論理ではありませんので、原理原則の部分はドラッカーの側面支援で長く補っていました。そういう状況が平成までずっと続いていたわけです。
いま歴史は歴史でブームなのですが、マネジメントの研究に戦国武将を持ってくるのは、あまり流行っていません。飽きちゃったのでしょうか。
あるいは、昔、定説だったものが、新たな記録の発見によって、いくつかひっくり返ったりしていますから、事例に挙げづらいという事情があるでしょうか。
いずれにせよ、では50年前から存在するドラッカー理論が、なぜいまになって脚光を浴びているのか。なぜ、戦国武将や松下幸之助ではNGなのか。
それは、日本的経営が影を失い、グローバルスタンダードというアメリカ的経営が深く浸透したことと関係があると思います。
■読んで成る程と思うとき
どんな本でもそうですが、読んでて「さっぱりわからん」という本は読者をつかめません。多少難解であろうと、一部分でもどこかに「成る程」と共感するところがあって始めて読者は集まって来てくれます。それは『1Q84』でも「もしドラ」でも同じこと。
ほかのいかなる本でも同様のことは言えます。
おそらく戦国武将や松下幸之助の格言を読めば、いまでも多くの人が「成る程」と思うことでしょう。なぜなら、それはいつかどこかで聞いたことのある話であったり、格言の多くは日本人の生活文化の中にその意味するところが生きているせいであろうと思います。
要するに、馴染みがあるのです。文化的に「成る程」と思えるベースが、戦国武将や松下幸之助にはあるといえます。
一方、ドラッカーの言うマネジメントの原理原則も、傍流とはいえ50年間をかけて繰り返されているわけですから、だれが主張した理論かは知らなくとも、一応その考え方の片鱗や沿革は企業社会を中心に染み込んでいます。
なぜモチベーションが大事かはわからなくとも、モチベーションが大事であることは、新入社員でも知っているでしょう。そういう意味では、ドラッカーもまた馴染みのある人物なのです。ですから、「もしドラ」を読んで納得できる素地は、だれもが持っているわけです。
では、10年前でも「もしドラ」はヒットしたか。たぶん同じように売れたと思います。ならば、20年前ならどうだったか。「もしドラ」がこれほど日本人に受け容れられた背景は、グローバルスタンダードの浸透抜きには考えられないと先ほど述べました。
良くも悪くもアメリカ的マネジメントが、いまや日本に深く広く浸透している。おそらくは企業のみならず社会にも。それはこの20年の間の加速した現象と思います。
「もしドラ」が大ヒットした背景には、日本的経営の後退とグローバルスタンダードの静かなる侵食があるのではないかと思っているわけです。
ずいぶん長々と引っ張ってしまいましたが、今回の結論は以下の点です。読者をつかむには、どこかに成る程となっとくできる部分があることが大事。すべてが初めて聞くことばかりでは、読者はついて来れない。
どういう本が売れるのかということを考えたとき、やはり、そこに書かれていることにみんなも共感してくれるというのは大切な要素と思います。共感というのは「成る程」であったり、あるいは「やっぱりな」であったりします。
『デフレの正体』(藻谷浩介著 角川書店)という本が売れていますが、デフレの正体というのは、おそらくだれも突き止めてはいないでしょう。あるいは著者本人は突き止めたというかもしれませんが、わたしの個人的見解では人口問題だけで片付けることには疑問があります。
しかし、デフレと日本の人口減少を関連付けて考えるというのは、多くの人が「やっぱりな」と共感するでしょう。多くの人が「やっぱり、そうだったか」と思って読んでいるんかないでしょうか。
読者をつかめるかどうかは、そういう「成る程」感や「やっぱりな」感が欠かせないのだろうと思います。
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