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第180号 『著者と大学教授に資格は要らない!』

あけましておめでとうございます。
今年もまた、より一層よろしくお願いいたします。

だんだん冬の寒さが、身に堪えるようになってきた本多泰輔です。

今年のニュースで気になったのは、ネットで頼んだおせち料理が見本と全然違ってたということで大騒ぎってやつでした。

なぜ気になったかというと、それが「たった」500件の注文だったからです。

たった500件の品がつくれなかった、という業者の不手際ではなくて(まあ、それもしょぼい話ではありますが)、500件の注文ということは、不良品の数も当然ながらMAXで500、全員がクレームをつけることは統計上ありません、事実全員がクレームをつけたわけではない、つまりクレーム件数は、せいぜい数10件でしょう。

たった数10件のクレーム(不良品をつかまされた人は迷惑だったでしょうが)で、あそこまでニュースになるのか!というのが、このニュースが気になった理由です。

たぶん、各局でアナウンサーがニュースを読み間違えるたびに来るクレームの数は、この数倍から10倍はあるでしょう。

死人が出たわけでも、健康被害が発生したわけでもない。看板に偽りありの観はありますが、全てのテレビ局で数日にわたり何べんも報道するほどのことか。おまけに新聞まで後追いする始末。

過去の不二家や赤福の時とは、あんまりスケールが違いすぎるでしょ。たった500ですぜ、500。500つったら、このメルマガの読者の数ですよ(どういう意味だ?)。

いくらか大げさに取り上げたとしても、まあ週刊誌レベルであって、地上波が扱うようなネタじゃありません。なんか悪意さえ感じましたね。

「せっかくのめでたい正月が不良おせちで興ざめ」には違いないですが、それはご注文した人と業者の関係の中で償われるべき問題であって、メディアは何も関係ないでしょうってことで、正月早々「テレビってバカじゃねえか」と毒づいておりました。

あ、そういえば年末にテレビ出演の話があったな。
出なくてよかった。


■著者としてのためらいがない著者たち

不良おせち騒動の発端はネットからなので、ネットについても触れなきゃいけないのですが、もうそろそろ本題に入らないといけないため「まあ、ネットがなければ、あのおせち業者もここまでダメージは被らなかったでしょうね」ということで話を終わりにします。強制終了。

さて、これから本を書こうと考えている人のなかには、「本を書いている人は大学教授とか、大企業の経営者とか、華々しい経歴の人ばかりで、自分のような普通の人間は著者になれないのではないか」というためらいを感じている人も多いのではないでしょうか。

実際そのような質問を受けることはよくあります。

「いや、著者の経歴は出版社が華々しく演出しているので、本人はだいたい普通の人です」というのが質問に対する答えなのですが、それで納得していただける人は少なく、やはり多かれ少なかれ著者になることへのためらいを残しているように見えます。実に謙虚であります。

ところが最近目立つのが、こうしたためらいの欠片もない著者ですね。だいたい「日本経済の常識のウソを暴く」という姿勢の人たちが多いように見えます。

全員わたしの知らない著者ですので、事情を知らずにケチをつけるわけにはいきませんから遠慮して物を言いますが、一言でいうと厚かましい。

経済学者でもエコノミストでもない彼らが、常識のウソを暴くという志は大変けっこうなのですが、自らの非常識を明らかにするだけで終っていることが残念です。

彼(彼女も含む)らは、専門外のことであっても、自分はこう思うということを検証もせず推敲もせず、思いついたまま発言してしまう。

それを許す編集者もどうかと思いますが、著者より賢い編集者というのはあまりいないので、かくして次々と「仰天本」「とんでも本」が誕生してしまいます。しかもそれで売れているものも少なからずある。

UFOや超常現象をテーマにした本なら別にいいですけど、だいたい日本経済をテーマにした本で目を疑うような記述が次々出てくると、ちょっと吃驚です。

なぜならUFOや超常現象、あるいは超古代史というのは検証不可能ですから言いっぱなしOKなわけですが、日本経済を扱うとなると、相当な部分で検証が可能で、発行後に間違いが明らかになって、盛大に赤っ恥をかく恐れがあるからです。


■それでも読者はバカじゃない

経済の本は、経済学者やエコノミストだけのテーマではありませんし、エンゲルスだってリカードだって一企業家だったわけですから、だれが書いてもいいのですが、「日本経済は円高でも大丈夫、だってこの10年リーマンショックまで円高でも輸出は増え続けていた」というようなことをいわれると、いや、05年から07年までも円安だったでしょ、だからあんなにFXがブームになったんだし、輸出が大きく伸びたのもその時期じゃないのと突っ込みの一つも入れたくなってしまいます。

こういう人たちは、たぶん著者としてのためらいはないんでしょう。別に百年残る本を書こうとはお考えではないのでしょうから、赤っ恥覚悟ならそれでいいと思います。

では、このような、はっきり言って思いつきだけで書かれた「とんでも本」が、実はそこそこ売れているという事実をどう見るべきか。

わたしの持論は、「読者は著者と編集者より賢い」ですから、読者はそれとわかった上でこの種の本を買っているということになります。要するに、法経書としてではなく、エンタメ本として読んでいるということです。

柳田理科男の「空想科学読本」
が、科学の知識を味付けにしたエン
タメであるように、経済を味付けにしたエンタメとして読んでいるのかもしれません。

無論、この見解とて思いつきですが。
ただ、幸いなことに検証はまず不可能です。

というようなわけで、読者はちゃんとわきまえて本を読んでくれていますので、著者が何を言おうと問題ありません。どんどん好きなことを書きましょう。ためらうことはありません。

とはいえ、好きなことを書いて出版できるなら苦労はありません。

好きなことを書いて出版できるのは、自費出版と人気作家がその人気がピークの時に一時的に可能になるだけです。出版社は、著者に書きたいことを書いてもらうために仕事はしておりません。

そこでいつものテーマに戻りますが、編集部ではどんな審査基準で企画を評価しているのか。いちいち審査基準を明確にしている編集部はないと思いますが、あえて明文化すると次のような具合になります。

■企画を評価するレーダーチャート

<テーマ性>
・市場性(売れ筋のテーマか) 評価1.2.3.4.5
・話題性(タイムリーか、異色か) 評価1.2.3.4.5
・斬新さ(これまでにないものか) 評価1.2.3.4.5

<著者性>
・キャリア・体験の輝度(めったにない体験、ユニークなキャリアか)
  評価1.2.3.4.5
・テーマに対する適性(テーマにふさわしい著者か)
  評価1.2.3.4.5

おおむね以上5つの総合評価で判断しているといっていいでしょう。

5角形のレーダーチャートにするのは、メルマガのテキストでは難しいので、それはみなさん各自でやってください。オール5なら確実に企画は通るでしょう。4でもOKだと思います。

市場性(売れ筋のテーマか)というのは、企画のテーマがいま書店店頭で売れているテーマなのか、ほとんど見向きもされていないテーマなのかということです。

「片付け」が企画のテーマなら、いまなら市場性ありですね。
4以上がつくでしょう。経営計画なら2か1です。

話題性(タイムリーか、異色か)は、テーマの話題性でも著者の話題性でもいいのですが、一応テーマのほうに分類しています。

ノリピーの本が、昨年末に朝日新聞社から出ましたが、著者の話題性というのはああいう本のケースですね。

一方、テーマの話題性というのは、たとえば「相続税が上がる」というのは、ノリピーの本と違って、本それ自体に話題性があるわけではなく、相続税が上がれば世間で話題になるであろうから、それに便乗してということになります。

いずれにしても、話題性というのは読みが外れることが多く、恐らくノリピー本でもMAX4くらいしかつけられなかったと思います。

斬新さ(これまでにないものか)というのは、評価の分かれるところで、だれも必要としないからこれまでなかったのか、必要なのに見落としていたのか、さあどっちだということになります。

相続つながりでいえば、昨年『磯野家の相続』という本がありました。

これはテーマ自体は斬新なわけではないですが、切り口が意外となかった角度でした。市場性は相続がテーマですから恐らく評価は2か3程度、話題性も斬新さも評価5には届かなかったでしょう。せいぜい4くらいと見ていたんじゃないでしょうか。

著者のキャリア・体験の輝度、つまりどれだけ光るものを持った人かということですが、これはもうほぼテーマと一体ですね。光っているところがそのままテーマです。

光るというのはどういうことかといいますと、チリの鉱山事故から生還した人の本なら問題なく出版されますし、世紀の極悪人の本でも出版されるでしょう。

極端に言えば、100人殺した人物でも出版はOKなので、普通の人ではありえないような体験を持っている人なら、その体験の特殊性だけで企画は通ってしまいます。

対して、テーマに対する適性は、必ずしもべらぼうなキャリア・体験を持っている必要はありません。

わたしでもできたのだから、あなたでもできますよ、という簡便さで売ろうとする本の著者が、なにかもの凄いキャリアであったら、かえって説得力を失いますから、普通の主婦であったり、ビジネスマンであったほうがいいわけです。

だれでもできるダイエットとかいうテーマであれば、著者は怠け者であったり横着者であって、それでも15キロ痩せたというほうが引きがありますよね。本当に痩せた人であるかという結果は問われますけど。


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