おはようございます。
本多泰輔です。
すでにご案内のとおり、10月4日に「ビジネス本の書き方」のセミナーをやります。そういうわけで、そのご案内を含め原稿の書き方、第2回です。
出版の場合、原稿がすべて、とは前回も書いたとおりですが、その原稿が面白ければ、そのほうがいいのは言うまでもありません。
面白いの反対は、つまらないです。
つまらないと言われるほど、傷つくことはありません。つまらないとダイレクトに表現しない人は、たいてい難しい、わかりにくいと言います。
つまらないとわかりにくいでは、まったく別の評価なのですが、「面白かったけど、わかりにくい」とか「わかりやすかったけど、つまらなかった」という声はあまり聞いたことがありません。
「わかる」というのは、たとえそれが勘違いであったとしても爽快感を伴うものですから、面白さに通じるところがあります。
結局、わかりやすい原稿を書くことに傾注すれば、それが読者をつかむ最善の策なのですが、そうは言ってもどんな説明で何ページかは費やさざるをえないものです。
最初の一行からいきなり「わかりやすい」という原稿も難しい。そこで、ある程度、読者に付いて来てもらうための書き方の工夫というものもあったほうがよい。
今回は、読者をひきつける原稿の書き方、ということで書きます。
■キーワードは「みんなが知ってる」
読者をひきつけるための原稿の工夫というのは、プロでもみんなどうすればいいか悩んでいる永遠の課題。正直言って、なにか決定的な方法があるなら、密かに教えて欲しいくらいです。
とはいえ、こうして見出しに掲げてしまった以上、何かしら書かないわけにはいかないので、拙いながらもいくつか事例をご紹介したいと思います。
3年ほど前にやったことですが、地震に強い家というテーマで原稿を作った時に、始めのところで「3匹の子豚」の話を持ち出しました。
ご存知の通り、3匹の子豚の作った家はそれぞれ「わらを積んで作った家」「木の枝を組んで作った家」「煉瓦を積んで作った家」、そのうち煉瓦の家だけが狼の襲来から子豚を守ってくれました。
では3匹の子豚の家のうち、どれが地震に強いのか。それはわらの家、反対に最も弱いのが煉瓦の家です。地震には軽い家ほど強く、重い家ほど弱いのです。
なぜ「3匹の子豚」の本筋では煉瓦の家をイチオシしたのかと考えると、昔の人にとっても地震は恐るべき災害でしょうが、何十年かに一度の大きな地震よりも、毎年襲ってくる風害対策のほうが、昔の人にはより重要な対策だったと言えるのではないか。
この譬えは、色んな人が使ってましたので、まあ、誰でも思いつく話題なのでしょう。
ここでは誰でも知ってる童話を持ち出すことで、読者の関心を惹こうとしたわけです。童話のよさは、みんなが知っていることと、話が割合単純なので扱いやすいという点にあります。
■童話作家、有名作家の作品は使いみち豊富
また、お話自体はあまり知られていなくても、有名作家の作品は使い勝手がよろしい。
宮沢賢治の童話に「税務署長の冒険」という短編があります(ま、そもそも宮沢賢治に長編はありませんが)。
税務署長が村で密かに行われている密造酒造りを暴くという、あまりメルヘンではない作品ですので、知っている人は少ない。
しかし、地方村落の人々の暮らし振りや村人と税務署役人との関係がしのばれる話なので、税金について考える本の始めのほうに使いました。
税務署長は密造酒づくりの現場を発見し、最後は「大岡裁き」で村人と税務署との折り合いをつけるのですが、そのあたりが警察とは違う税務署という役所の性格を表しています。その辺がこの話を本の冒頭に持ってきた理由です。
童話作家でなくても、チェーホフでもドストエフスキーでも夏目漱石でもいいのですが、あんまり高尚過ぎても読者が離れてしまうので、著者としては離れすぎない距離感を大切にしたいですね。
有名だけど、あまり読者をひきつけるのには向かないかも、と思われるところでは、二宮尊徳、上杉鷹山などもそのあたりにランキングされそうです。
二宮尊徳は、実はかなりすごい人物なのですが、実際のところ何をやった人なのかがあまり知られていません。薪を背負って勉強した人という像も、いまはほとんど見かけませんからね。
上杉鷹山も藩主としては、5指にはいるくらいの名君なのですが、知名度の割に実績が知られておりません。
そういう点では、やはり小学生になじみがあるくらいの人のほうが、持ち出して安心と言えるのではないでしょうか。
そうは言っても、二宮尊徳は一時、小学校の教科書に載るくらいだったのですが、山から薪を切り出し、それを背負って歩きながら本を読み勉強した超真面目な人という認識では、なんだかかえってすごく遠い人になってしまいますね。
大体ただの勉強家だというだけじゃ偉人でもなんでもないですし。
身近な所では、いまなら「倍返し」も使いみち豊富な、読者を引きつける有効な手段と思います。
■擬人化という方法
この成功例は、何といっても『夢をかなえるゾウ』(水野敬也著 飛鳥新社)でしょう。
物や動物がしゃべるというのは、童話や小説では格別珍しくない手法ですが、ビジネス書ではめったにない表現方法です。つまり、ほとんどの人はやらない方法なので、めったにない。
めったにないのは、それが簡単な方法ではないからで、構成力や表現力に自信のない方にはお奨めできません。
しかし、発明王エジソンのことを伝聞で書いたものは山ほどあるので、いまさら見る気持ちになりませんが、発明品である電球がエジソンのことを語った本というのであれば、とりあえずは手にとって見たくはなります。
決算書が自分でどこが悪いのかしゃべり始めるとか、売れない理由を商品やカタログが教えてくれるというような本は、ちょっと読みたくはなります。
「在庫の気持ちがわかる本」とかどうでしょう。
ちょっとエクストリームですかね。
読者がどれほどいるかはわかりませんが、すでに溢れるほど類書の多いテーマではこうした表現方法が突破口になりそうな気もします。
こうした表現方法が増えてくると、だんだん文芸書とビジネス書の境がなくなってきてしまいます。
以下、セミナーのご案内
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10/4(金)14時開場 14:15〜17:50(東京・千代田区にて)
(セミナーの趣旨)
実際に本を書くとなると、これはけっこう手間ひまのかかる大変な作業です。そうして苦心して原稿を作っても、読者に受け入れられるか、その前に果たして編集者のOKが出るか、第二のハードルが待っています。苦労が報われるかどうかは原稿の中身次第です。
ビジネス本を出版する人に必要な原稿づくりの段取りと原稿のクオリティを上げる方法について、本セミナーではいくつもある方法の中から、最もシンプルな「原稿意執筆の原則」に絞り込んで紹介します。
講師は、ビジネス書の有力出版社である『中経出版』の元・編集長、奥平恵氏をお招きしました。
奥平氏は、中経出版をはじめ出版業界で30年以上のキャリアをもつベテラン編集者。現在も中経出版のアドバイザーとして外部から企画を提供したり、他の出版社へも企画提供や執筆・編集業務を行っている第一線のプロフェッショナルです。
そんな奥平氏の経験から、これからビジネス出版を目指す方、2冊目・3冊目を目指す方へ、ビジネス書の書き方の実践的なポイントをお話します。
さらに後半のパートでは『コンサル出版フォーラム』メルマガの編集長の本多泰輔が、まとめのお話とフォローアップ(個別相談)のご案内をさせて戴きます。
●詳細の内容はこちら
セミナー内容(予定)
1.書くことはあるのに、いざ書くとなるとなかなか書けないワケ
2.まずはターゲット読者を具体的に想定しよう
3.肩の力を抜き、ターゲット読者に語りかけるように書き始めてみよう
4.構成案(仮目次)を作成することはイロハのイ
5.「まえがき」を先に書いてみる
6.最初の数行に“著者の心”を込める
7.書き出しがなかなか決まらなかった、自信のある章から始める
8.「シンプル・イズ・ベスト」の気持ちで書き進めていく
9.上手な文章を書こうと考えない
10.小見出しを入れながら書き進める
11.テーマとのずれがないかの確認を時々しながら書き進める
12.推敲は、まず章ごとに行っておく
13.他の著書からの引用は最小限に
14.困った時には素直に自分のことを書けばよい
15.専門家、コンサルタントの原稿がプロのライターより勝っていること
16.専門家、コンサルタントの原稿が陥りがちな読者とのミスマッチ
17.誇りをもって目線を下げる勇気を持とう
18.プロが使う「読ませる原稿」 五つの工夫
19.原稿は本になるまで完成品ではありません!
20.基本、編集者の声は読者の声
21.編集者が困る原稿
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