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第196号 『斜陽の出版界・・・それでも本を出そうとするなら!』

おはようございます。
出版メルマガの本多泰輔です。

何を思ったかセミナーもないのに連続投稿です。
前回に続きまして出版業界の斜陽ネタを引っ張ります。

みなさんは「なぜ特定の人ばかりが次から次へと本を出すのだろうか?」と思ったことはありませんか。

売れっ子著者、あるいは売れっ子作家というのは確かに存在しますが、出す本出す本がすべてベストセラーという、打席に入ればホームランというような人は、過去も現在もそう数多くは存在しません。
いても長続きしません。

村上春樹といえども、すべての著作がベストセラーになっているというわけではなく、あまりパッとしなかった本もあるはずです。たぶん。

ベストセラーは目立ちますから多くの人が知っていますが、売れない本というのは目立たないので、その存在さえ知られることなく、ということは本として不発だったことも世間に悟られることなく市場から消えてしまいます。

しかし、特定の人が次から次へと本を出し続けるという現象は事実です。

同じ人に同じような本を書かせるより、もっと広範なテーマの本を出した方ほうが世のため人のためになるんじゃないかと思いますけれども、なかなかそうはなりません。

偏ったテーマに偏った著者となれば、当然のことながらピークアウトは早いですし、新機軸も発見できない。

では、なぜこのような現象が続くのか、そこにも出版業界の斜陽ゆえの理由があるのです。


■販売部数で見ると40年前の水準

今回のデータも前回も『2015年版 出版指標年報』(全国出版協会・出版科学研究所)のデータを参考にし、本多の体験と推測をもとに書いております。

前回、出版業界の市場規模のピークは1996年で、現在の市場規模は1986年当時の水準に後退していると書きました。

市場規模という金額で見ると雑誌も書籍もだいたそういうことになるのですが、これを販売部数で見るとすこし様子が変わります。

統計を見ると、雑誌の販売部数は市場規模とだいたい軌を一にし、同じ1996年前後がピークなのですが、書籍だけを見ると販売部数の山は1988年で、現在の販売部数はほぼ1975年当時のレベルにまで落ち込んでいることがわかります。

書籍の販売部数のピークは概ね30年前で、現在の水準は40年前に逆戻りしているということです。驚くべき退潮傾向です。

他を寄せ付けない・・・と言いたいですが、他業種でも似たような傾向の業種はあります。

販売部数と市場規模(金額)で差が出るのは単価が違うからだと思います。

1988年だと単行本単価のボリュームゾーンは900円〜1000円くらいでしたが、現在は1300円〜1400円あたりでしょう。

書籍は2005年〜2010年くらいにかけて文庫と新書が異常に創刊されましたので、それが単行本を含む書籍全体の平均単価を押し下げています。

そのため金額の伸びは2005年以前と異なった環境となっています。

実際にどれほど本が買われていたのかを見るには、やはり販売部数を比較したほうがよりリアルといえます。

出版社の経営に影響するのは市場規模ですが、読者と出版傾向をつかむには部数のほう有効と思います。

さて、その書籍の販売部数ですが、実のところ1985年頃からすでに頭打ち傾向に入っておりました。統計では、1989年には下降を始めております。

1989年といえば日経平均(当時はたぶんダウ)が史上最高額をつけた年、世の中はバブルに踊っていたのですが、書籍出版社にいたわたしには「バブル?それなんのこと」という毎日でした。

結局、1996年まで出版界が右肩上がりを続けてこられたのは、雑誌が伸び続けていたせいで、書籍は早々と脱落していたのです。

だいたいこの頃から書籍の出版社では、「出版業は構造不況業種」という自虐的な文句が日常的に口にされていました。


■昔にあって今にないもの

悪いことばかりに注目しているのもなんなので、よき時代にも目を向けたいと思います。前述の通り、書籍の販売部数のピークは1988年でした。ここまでは、多少もたつくことはあっても書籍市場も堅調に右肩上がりだったわけです。

特に1960年代は、ほぼ毎年二桁の伸びが続き、1970年代も1979年の第2次オイルショックまでは、概ね6〜9%の伸びでした。

つまり、あの第一次オイルショックのときでも10%近い伸び率があったわけです。

第1次オイルショックと第2次オイルショックでは何が違っていたかは、議論が逸れるのでここでは控えますが、1960年代〜1970年代前半に出版界にいたら、そりゃあ天国だったでしょうね。

こんな時代だったら出版社をつくってもよかったかもしれません。

現在の書籍の販売部数と同水準だった1975年をもうすこし詳しく見てみましょう。まず、返品率が現在より10%ほど低いです。そして、新刊の発行点数は現在の3分の1を大きく下回ります。

新刊の発行点数が3分の1を大きく下回っていて、販売部数が同じということは、すこし話を飛ばしますが、つまりは既刊本(前年かそれ以前に発刊された本)が多く売れていたということになろうと思います。

人口比で言っても、昔の人は現在の人よりもたくさん本を読んでいたというのは事実でしょう。それはそれとして、販売部数を支えていた背景には、本の寿命が長かったということもあったのだろうと思います。

長い期間読み続けられる定番品となる本がたくさんあって、読者もそれを受け入れてくれていたのでしょう。文字通りロングセラー商品があって、それが出版界を支えていたのです。

こうした出版傾向(読者傾向)は児童書の業界では、いまでも見られます。40年前は、現在のような新刊偏重主義ではなかったわけです。

本の利益率は、当然のことながら新刊本より既刊本のほうが大きいですから、既刊本が数多く売れていた当時は、わたしは知りませんけど、ずいぶんと羽振りもよかったことでしょう。

1970年前後に、出版業界は給料が高い、という誤った認識が生まれたのもむべなるかなです。


■著者にとって現在は有利か不利か

1975年と販売部数が同じで新刊の発行点数は2倍以上、返品率は10%高いという状況は、出版社にとっては実に厳しい冬の時代です。

しかも、冬のレベルで言えばまだ初冬の段階で、この先厳寒の真冬がやって来るのはほぼ見えています。

普通の経営者だったら、いまから出版社を起業しようなどとは思わないでしょうね。普通じゃない経営者が、普通じゃない出版社を起こすならあるかもしれませんけど。自然界にだって冬に咲く花はありますから。

さて、出版社にとってはいまさら言うまでもない過酷な状況なのですが、著者から見たら現在はどうなのでしょう。

新刊の点数が多いということは、著者にとってチャンスが増えるということを意味します。これは○ですね。

発行部数が少ないということは、印税も少ないということですから、直接の収入面ではあまり旨味がありません。これは×ですね。

しかし、コンサルタントにとって出版の印税はおまけのようなもの。あくまでも出版の目的は自己のブランディングであり、プロモーションだと思います。

つまり、出版はそのための手段なのですから、新刊偏重主義という現在の状況はむしろ有利といえるのではないでしょうか。

新刊の点数が多いということは、編集部もネタ切れで新人著者を受け入れやすくなる・・・はずなのですが、なぜかそうは問屋が卸してくれません。

ここでやっと冒頭の著者が特定の人に偏っているという話につながります。

新刊が増えれば増えるほど、打率(重版率)は下がります。つくる人間の数はそう増えないのですから、量を増やせば質が伴わなくなるのは自然の理というものです。

出版社としてはそれでは困るので、ハズレ、空振りのない本を出そうと考えます。一番手っ取り早いのは、売れているテーマと売れている著者で出すことです。

そのため、特定の著者と特定のテーマに出版が偏るということになります。

特定の著者の顔ぶれは、何年かごとに変わりますけどやっていることは変わりません。まさに相手変われど主変わらずですね。

とはいえ、特定の人というのはそう多くは存在しませんし、一人の著者がそう長く特定の著者として存在し続けることもできません。著者が偏っていれば、賞味期限も自ずと短くなります。

しかし、新刊点数は相変わらず多いままです。そうなると編集部としては背に腹は代えられない、苦し紛れであっても新しい著者に手を伸ばしてくる可能性が高まってきます。

新刊偏重主義の傾向は、やはり著者にとってチャンスです!



   《編集後記》
 
先週に引き続き、年末メルマガの第2弾をお届けしました。あと1回発行がありますので、ぜひお楽しみに!(発行者:樋笠)


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