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ベンチャーキャピタリストが語る企業投資の実際
第3回  「立ち上がれ、サラリーマン!
                 〜事業再編におけるMBO」

日本プライベートエクイティ株式会社
取締役インベストメントオフィサー 法田 真一

求む!経営者
 
数年前、後継者難に悩む、地方の優良な中小企業の次期社長候補を『求む!経営者』と掲げて、日経新聞の日曜版の人材広告欄で公募したところ、100名を超える応募を頂きました。

応募して頂いた方のなかには、大企業の社員の方も多く、『自分のこれまでの経験を中小企業経営で活かせたら・・・』といった思いで、履歴書を送付頂いたようでした。

次々と届く封筒を前に、『まだまだ大企業にも、企業家精神や起業意欲に溢れた方がたくさんいらっしゃる、日本もまだ捨てたものじゃない』、そんな印象をもった次第です。

それから今、大企業は選択と集中を声高に叫んでおり、本業以外の非中核事業に属する子会社や事業部門を再構築しようとしていますが、あの時の企業家や起業家の方達はどうしているのだろうか、とふと考えるときがあります。

立ち上がるサラリーマン


B社は、東証一部上場企業の子会社で、新規事業の展開を目的として設立された1985年以降、社長こそ、親会社から定期的に送り込まれてくるものの、実際には、事業立ち上げから携わっているB常務が実質的な経営者として、年商50億円を超える規模にまで業績を着実に伸ばしてきました。

しかし、親会社は、“選択と集中”を掲げ、本業への特化を進めており、小規模で、親会社の本業と相乗効果のないB社を売却候補としてリストアップして、具体的な対応策を模索しはじめていました。

そんな親会社の動きを察知したB常務は、『自らがここまで育ててきた事業がいとも簡単に他社に売られるなんてとんでもない、従業員の意識も高く、親会社からの締め付けがなければ、これからもっと面白い展開も考えられる。』そんな思いから、自らが社長となって、事業を引き継ぐことを考え始めました。

そこで、B常務は、MBOファンドから直接話を聞いてみることを試み、MBOファンドから好感触を得たうえで、親会社に“MBO”を逆提案しました。

親会社としては、B社の事業の存続、従業員の雇用確保が満たされるのであれば、“売却”や“清算”と言う負のイメージではなく、MBOは前向きな解決策として評価されるであろうと判断して、B常務の意見を受け入れ、MBOファンドとの交渉を開始、持株の全てをファンドに譲渡しました。

現在、B社は、B常務が社長になって、親会社から事業と従業員をそのまま引き継いで独立、MBOファンドから非常勤役員を受け入れ、株式上場を目指して頑張っています。

株式上場という新しい目標、自分達の会社という意識・・・、親会社の看板はなくなったものの、従業員は皆、自立した一企業としての意識やモチベーションを高めながら、全員一丸となって事業に取り組んでいます。


MBOのメリット

これまでの実例からもわかるように、MBOに関わる各当事者のメリットは色々考えられます。
例えば、オーナーのメリットとしては、

    (1)事業承継を円滑に進められる
    (2)株式上場をしなくても創業者利潤を実現できる
  (3)従業員の雇用を継続できる
    (4)競合会社への機密漏洩が防ぐことができる
 
といったことが挙げられます。一方、会社を引き継いだ、新経営陣にとっても

    (5)少ない資金で会社の経営権を取得できる
    (6)経営の裁量権が拡大してモチベーションが高まる
    (7)自社株を持つことでキャピタルゲインを獲得できる可能性もある
 
といったメリットがあります。また、会社としても

    (8)信用やブランドといった経営の継続性が維持できる
    (9)経営の機動性、積極性が高まる
 
といったメリットが考えられます。

MBOを検討・実現するためには
 
大企業が、かつてないスピードで選択と集中を進めている今の時代は、ゼロから起業するリスクを負わなくても、MBOによって既存の事業を安く手に入れることができる、サラリーマンにとっては、またとないチャンスであるといえます。

では、自分の会社や事業部門が実際にMBOできるのか?実現の可能性はあるのか?

あくまでも1つの目安として、MBOを具体化できるかどうか、以下の10の質問に「Yes」か「No」でお答えください。

    1) 会社の財務内容は健全である
    2) 現在の事業のマーケットは安定している。景気や技術革新の影響を受けにくい
    3) 安定したキャッシュフローを生み出している
    4) 参入障壁の高い商品や独自の技術を有している
    5) 独立するとビジネスチャンスが拡大する
    6) 親会社(オーナー)の看板や信用に過度に依存していない
    7) 独立しても顧客との取引は継続できる
    8) 『自分が社長になればもっといい会社にできる』という人材がいる
    9) 『今の年収や退職金以上の金額を経営者として会社に出資できる』という人材がいる
    10)『社員がついていきたい、ついていける』という人材がいる
 

さて、いくつ“Yes”があったでしょうか?

もちろん、すべてを満たす必要はありませんが、“Yes”が7個以上あれば、結構、MBO実現の可能性は高いかもしれません。


MBOファンドの活用法

このように、経営陣と一緒になって買収に参画するMBOファンドは、プライベートエクイティファンド、あるいは買収ファンドとも呼ばれます。

いずれも、基本的な仕組みは同じですが、運営主体(外資系/国内系)や投資スタンス(企業規模/業種/投資金額/経営関与の度合)、投資基準によって、その性格や関与方法が異なってきます。

新経営陣と一緒になって買収に参画する“MBOファンド”の選定にあたっては、どのファンドに相談するのか、どのファンドとなら組めるのかといったことを考え、ファンドの投資スタンスや投資実績を確認しておくことが必要です。

また、ファンドがMBO後の会社経営にどのように関わってくるのか。例えば、後継者がいなければ、社外から候補者を連れてきてもらう必要があるかもしれません。

あるいは、今の後継者候補も合格点にはまだ・・・という心配もあるかと思います。MBOファンドには、こうした弱い部分を補ってもらうという役割も期待できます。

あわせて、MBOファンドが投資判断をする際に何を基準としているかも知っておく必要があります。ファンドによって多少の違いはあるものの、基本的には「安定したキャッシュフローが創出されているか」「安定した製品と市場があるか」「EXIT(出口)戦略が描けるか」「MBO後の経営体制が描けるか」といった観点から判断するといえます。

こうした条件が整っているかどうか、あるいは、将来、満たせる可能性があるかどうかを見極めていきます。


さて、3回にわたって、MBOと呼ばれる企業投資の実際について、お話をさせて頂きましたが、私どもは、MBO投資に際して、“志を継いで。夢をカタチに”という理念を掲げています。

オーナーがその企業に託した“志”を受け継ぎ、新しい経営陣が描く“夢”を共に実現していくことを目指したい、という思いをこめています。

具体的な行動を起こすためには、まず第一歩を踏み出してみないことには、何も始まりませんし、変わりません。

もし、これまでのお話に共感して頂けたり、何か感じるところがございましたら、是非教えて頂き、あるいは、ご相談して頂き、最初の一歩にして頂ければ幸いでございます。




■バックナンバー

第1回 「“金持ち父さん、貧乏父さん”〜MBOの活用法」
第2回 「“現代版のれんわけ”で会社を残す!〜 事業承継におけるMBO」
第3回 「立ち上がれ、サラリーマン!〜事業再編におけるMBO」

■法田 真一/日本プライベートエクイティ株式会社 取締役 インベストメントオフィサー
http://www.private-equity.co.jp
1989年 慶応義塾大学経済学部卒業後、商工組合中央金庫 入庫。1991年 日本アセアン投資株式会社(現・日本アジア投資株式会社)入社。東京投資部、札幌支店、大阪支店、岡山支店長を経て、ベンチャー企業の投資育成業務に従事。製造業から小売・サービス業まで幅広い業種の国内外企業への投資、育成、EXIT(上場・M&A)の実績を有する。 1999年より、事業開発チーム にて新規事業の推進を担当。M&A業務等を手掛ける他、2000年 日本プライベートエクイティ株式会社の設立に参画、同社取締役に就任。2002年 株式会社シーズメンのMBOを手掛け、同社取締役に就任。2001年 中堅・中小企業に特化したMBOファンド『事業承継・第二創業支援ファンド』をあおぞら銀行と共同で組成。2003年 中小製造業に特化したMBOファンド『TAKUMI継承ファンド』を三洋電機グループと共同で組成。

日本プライベートエクイティ株式会社
【法田氏からのメッセージ】
日本プライベートエクイティ株式会社は、独立系ベンチャーキャピタルの日本アジア投資株式会社と大手M&A仲介会社の株式会社日本M&Aセンターの共同出資により設立された、MBO(Management Buy Out)ファンドの運営会社です。中堅・中小企業のMBOに特化しており、上場企業等の事業再編に伴い分離される子会社・事業部門や後継者問題に悩むオーナー企業等の事業存続と企業価値の向上を、経営陣と共に目指します。


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