これまで海外進出の目的・地域選定・人材選考を見てきましたが、今回は、実際に法人を作って運営をするということを見ていきましょう。
数年前からCSR(社会的責任)という言葉が多く新聞や経済雑誌に登場するようになりましたが、この2008年4月以降に始まる会計年度から、株式上場企業では内部統制報告書を作成する義務が生じ、海外も含めた子会社の管理体制なども問われることになりました。
法人として設立・存続する為には、以前にも増して現地の法律・規制に則ることが第一条件となるでしょう。
第2回でも多少触れました様に、中国、タイやアラブ首長国連邦(UAE)などでは、同じ国の中でも地域によって優遇策や商習慣に違いがあります。
地方政府が雇用創出や地域の発展になるだろうと、中国政府の法規よりも審査・設立基準を甘くした為に法人設立、工場の完成までは簡単にしたものの、国家からの営業許可が下りず、2年も営業開始が出来なかったという話もあります。
海外では官僚や知事などと親しいという事が有意に働く場合もありますが、実質的な権限を持たないこともありますので、嘘ではない現役の政府高官とコネクションが出来たところで、その権限なども見極めなければ、付き合いを続けても時間の無駄という事もあるでしょう。
また、中央・地方政府側だけではなく、土地や建物の契約というところでも問題が出てくる場合があります。国も指定している工業団地内での進出さえも、土地や建物に抵当権がついていて、すぐに開業できない場合があったという話も聞き及んでいます。
そして、中国やベトナムなどの社会主義国では、如何に資本主義化が進んでいるとはいえ、土地の個人・法人所有は出来ませんので、中国は基本的に50年(タイでも一般的には30年、外国法人の優遇策企業で50年)の借地権を得るという形になりますが、法人であれば土地所有を出来るといった詐欺や、その期間内でも行政側での事情で移転させられることもあるので、契約時から注意が必要です。
中国・タイ・ベトナムなどの発展途上国への進出では、圧倒的にコスト削減の為という要素が多いでしょうが、工場を作って生産をするという場合、建築法や労働安全衛生法などの基準に則った建設をしなければいけません。
日本でも勿論、これらの基準はありますが、日本で工場管理経験をしていた方でも、創業や工場の立上げから経験した人でなければ、日本国内でさえもこれらのチェックを意識したことは無いかもしれませんが、海外で新たに工場を稼動する場合は、この辺りのチェックも重要です。
こうして、法人設立と工場完成までこぎつけた上で、尚、現地国・地域の文化によっては現地スタッフは遅刻を何とも思わなかったり、定時に帰宅するのが当たり前で残業してもらうのが難しいなどという場合もあり、労務管理も相当に重要です。
現地法人の責任者が管理しなければいけないことは大変に多く、海外進出時には創業というのは勿論、法務・生産管理・労務管理・営業など幅広く対応する総業管理をするつもりでいなければいけません。
リスクが多いと思われるかもしれませんが、第1回で記しましたように、自社が日本国内にいても、海外の競合他社が入り込んできては、今治でのタオル産業のように大打撃や場合によっては倒産の憂き目に会うことも出てくるでしょう。
リスクも勿論あるとはいえ、海外で実に多くの日系企業が進出し、活躍しています。優秀な管理者と信頼できるコンサルタントなどを利用すれば、貴社の事業を大きく広げてくれることでしょう。
日本での大企業では部署やスタッフが多いので、社長や取締役になっても実際に全体を見ることは無いでしょうが、海外事業の立上げとは、中小製造業のオーナー経営者と同じ様に全てを初めから対応する経営管理者としての能力が必要です。
この経営管理者としての経験を積んだ人材は、更にグローバル化が進んでいけば、尚、日本本社での将来の全社的経営人材候補としても大切にしていく事が必要です。
ただ、中国では、2005年5月には全土で反日デモ、2008年5月には四川省での大地震が起きましたし、中国や東南アジアではSARSや鳥インフルエンザなどの伝染病もあるもの。
人災・天災・疫病などの危険もある為、弊社では日本人駐在員の不安・心理面のケアもご相談対応もしておりますが、日本本社側でも大切な経営管理候補者が抱える課題・負担に対する理解をすることがとても重要です。
海外駐在員は、営業畑か技術畑を歩んできた人が現地法人の管理者を勤めている場合が多いですが、基礎となる存立条件となる部分の法律や工場の認可、その上での従業員管理や仕入れ・販売委託先との契約などのチェックという、実は最低限必要ながら、この一番ベースとなるところを対応出来ない元中国駐在員・コンサルティング会社も多いもの。
これらをすべてクリアした上で、工場として生産を稼動し、売上を上げ、貿易をするなどして利益を上げ、日本側でも中国側でも税金などを正しく納税して、初めてCSRや内部統制に対応できるといえるでしょう。
日本国内でも弁護士事務所や会計事務所といっても、得意・不得意分野がある様に、海外でも同様に、ただ資格を持っているというだけではなく、その適応力も含めて、信頼できるコンサルティング会社・弁護士事務所を見極めた上での顧問契約をした方が良いでしょう。
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