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団塊&シニアマーケットを狙え!
第5回 「団塊・シニアの購買基準を検討する」

有限会社エヌ・コンサルタンツ 西村 健一

今回から、人口構成の変化から今後企業が新たな中核的消費者層のひとつとして注目しなければならない、今後の団塊・シニア市場の消費者像について検討していきます。

具体的には、50代から60代前半を「シニア前期」、60代後半以降を「シニア後期」ととらえ、それぞれの世代において想定される「消費者としてのシニア世代」の代表的ないくつかの姿を想定し、それぞれのタイプのニーズにマッチングした商品やサービスを考えていきます。

その前提として今回は、シニア市場とその他の世代向けの市場ではニーズがどのように異なるかを、消費者ニーズ探索の代表的な手法である「心理的7つのサイフ」という考え方を使って概観することで、シニア市場での商品企画・サービス開発の方向性を整理したいと思います。

シニア市場の購買要因を"7つのサイフ"から検討する

消費者の購買行動を検討する際に用いられるポピュラーな手法である「心理的7つのサイフ(The Seven "Psychological Purses" of Consumer Awareness)」を基に、シニアの購買要因を考えてみます。

「7つのサイフ」とは消費者が商品・サービスに対価を払うときの心理的な目的を、7つに類型化したものです。
     
  (1)家族する(Family Activities)

 





日常的な家庭生活を営む上での基盤である「理想的な家族」を形成するための消費です。シニア以前の世代では、日常的な生活用品のほかに、住宅購入や自家用車の購入、子育てのための支出などが主要なものとなります。

シニア世代に突入すると、このタイプの消費の目的が(住宅ローンの終了、子供の独立などから)大きく変化していきます。特に、子供の独立、定年後の新たな形での夫婦関係などへの対応の必要性から、従来型の「家族するための消費」を「あらたな形での家族を形成するための消費」へと変化させていくこととが求められます。

この点から子供から孫へと消費支出対象が変化する、あるいは配偶者との関係を強化するための消費(例えば夫婦での旅行や住環境の快適化のためのリフォームなど)が増加する、両親ならびに自分たち自身の将来的な介護などを見越した出費などが顕在化してくるといった傾向があります。
     
  (2)将来に備える(Future Preparation)
   
大多数のシニアにおいては、現役時代よりも収入の減少は避けられないものとなります。

ここから、団塊世代を中心とした50代においては将来への金銭的な備え(金融商品の購入など)や定年後も働き続けるためのキャリア形成・資格取得などへの出費という、将来に対する前向きな備えというタイプの消費と、60代後半以降の貯蓄維持ならびに自身の健康維持管理に向けての出費、ケア・ハウスなどの終の棲家の購入など、防衛的な色彩を強く持つ消費という、大きく異なる2つのタイプの消費活動が年代別に考えられます。

また、この「将来に備える」消費は収入レベルや保有資産状況によって、各年代内においても消費傾向が細分化されるものと考えるべきです。
     
  (3)おいしいものを食べる(Tasty Eating)

 





人間は生きているかぎり食事を採り続けなければなりません。しかし、その食事が内包している目的や価値観は世代や生活レベルによって大きく異なります。

いわゆる「アクティブなシニア」という呼ばれ方をするシニア前期での高収入セグメントでの"おいしい"と、エイジングへの抵抗として身体能力の維持を目論む場合での"おいしい"とでは価値基準が大きく異なります。

これは当然シニア後期においても同様です。つまり、このカテゴリーでの消費においても年代別・世帯収入別・ライフスタイル別で細分化された市場が発生すると考えるべきです。

また、ここでいう"おいしい"は単に食事そのものを指すばかりでなく、食事をとる環境(外食ならば立地、店舗環境、サービス内容、中食であれば包装や提供単位なども含む)も重要なファクターとなってきます。
     
  (4) 自己啓発(Self-Enlightenment)

 





シニア世代での自己啓発は、セカンドライフでの生活に対する考え方に基づいて大きく2つの方向に分類されます。

ひとつはシニア前期に特徴的な、従来の社会生活(例えば会社生活)との関係を維持することを主要な目的とし、副次的には社会的地位と収入を確保することを目的となるタイプの自己啓発(例えば資格取得)です。

もうひとつは、シニア前期の後半あるいはシニア後期に今後顕著となるであろう、従来の社会生活との関係性が希薄化するに連れて必要となってくる余暇時間の有効消費のための、あるいは新たなコミュニティへの参加資格としての自己啓発(例えば教養講座や趣味の講座)になります。

いずれの場合も、ライフステージの変化への取り組み姿勢と密接に関係したものとなります。
     
  (5)おしゃれ(Fashion)

 





衣食住という言葉に示される、人間の消費欲求の3大要素のひとつである「衣」に関してシニア層では、品質へのこだわり、アンチエイジング(加齢への抵抗)などが一般的な要素としてすぐ思いつくと思います。

これらは衣類という商品を通じて強く前面に押し出されてきますが、さらにはライフスタイルと融合してシチュエーション別の「自分が考えるシニア像」の演出、その結果としての特定ブランドへの強いロイヤリティなどという形でも表れてきます。

このような点から、「おしゃれ」という要素は単に「衣」だけではなく、ライフスタイル全般にわたる趣味嗜好と深く関わってくる要素となります。

そしてライフスタイルに対する考え方の基盤として留意する必要があるのが、以前のコラムでも述べた「コーホート(世代)」という共通体験への配慮となります。
     
  (6)ギャンブル(Gamble)

 





ギャンブルといっても単純に賭け事を示すわけではありません。

むしろ今までやってみたかったけれども勇気がなくて出来なかったお稽古事や、欲しかったけれども買わずに来たこだわり商品の購入、若い頃から夢見ていた豪華な海外旅行など、それまでの社会生活では必要性が高くないので手を出さなかったが「この際だから」という心理での背伸びをした消費がこれにあたります。

このカテゴリーで重要なポイントは、営んでいる消費生活と乖離しているという点です。いうなれば賭け事をしているときのように、緊張感や興奮を与えるものと考えればよいでしょう。
     
  (7)ちょっとしたつきあい(A bit of Entertainment)

 





シニア層、特にシニア前期から後期への移行時期において、それまでとは異なる形での人間関係や社会関係の構築が必要となってきます。会社勤めをしてきた人間であればあるほど、その人間関係や社会関係は会社という組織に依存してしまっています。

シニア期に入るということは、組織からの引退を意味します。何らかの形で新たな集団=コミュニティに属さなければ、社会との接点をほぼ失ってしまうことにもなりかねません。

シニア以前の世代においては、「ちょっとしたつきあい」での消費は特に大きな地位を占めませんが、シニア世代においては"コミュニティへの参加費用"という側面を持つため今後重要な位置づけとなっていくものと思われます。

特に従来型の自治体等が主催する「老人会」などが、その画一性などから参加人数を減少させている一方、新たな受け皿としてボランティア活動への参加などが増加している現状などから鑑みても、今後このような"新たなコミュニティでの活動"にかかわる消費は増加すると考えられます。

次回は、企業や店舗が団塊・シニア世代の消費者に対して商品やサービスを提供する際に特に求められる、コミュニケーション(=広義のプロモーション)手法について、その特徴的な留意点を検討していきます。




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■バックナンバー

第1回 「シニア・マーケットはこう考える」
第2回 団塊の世代を再確認する(1)「団塊の世代の人口構成面での特徴」
第3回 団塊の世代を再確認する(2)「コーホートとしての団塊の世代」
第4回 団塊の世代を再確認する(3)「団塊の世代のライフステージ」
第5回 「団塊・シニアの購買基準を検討する」
第6回 「団塊・シニアに対するコミュニケーション戦略」
第7回 「あらたなタイプの生活者〜団塊を中心とするシニア前期世代」
第8回 「団塊・シニア市場の4つのファクター」

■西村 健一/有限会社エヌ・コンサルタンツ 代表取締役
http://www.n-cons.com/
西村 健一/有限会社エヌ・コンサルタンツ 代表取締役
経営コンサルタント。中小企業診断士。1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部卒業。大手証券会社における個人営業・法人営業・企画業務・株式公開業務、システム開発ベンチャー企業でのマーケティングマネージャーなどを経験後、コンサルタントに転身。中小企業から日本を代表する大企業まで企業規模にかかわらず、幅広くマーケティング戦略の指導・支援、新規事業進出戦略の立案・支援などを行っている。
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