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団塊&シニアマーケットを狙え!
第6回 「団塊・シニアに対するコミュニケーション戦略」

有限会社エヌ・コンサルタンツ 西村 健一

シニア市場に対して自社の商品やサービスを認知してもらうためにはどのようなアプローチが良いのでしょうか。今回はこの点について検討していきます。

シニア前期とシニア後期では広告に対する好感度の傾向が明らかに違う

視聴率調査会社と広告会社が共同で行った「好きなTV−CMの世代別の傾向」に関する調査によると、シニア前期の50代は、40代と81%同様の好みを示すという調査結果が出ています(30代とで76%、20代以下とでも67%)。

しかし、60代とは50%、70代とはさらに隔たり44%しか好みの一致が見られません。一方、60代と70代との間では63%の傾向一致が見られます。

このことは、企業が広告・宣伝によって自社の商品・サービスをシニア市場で認知させたいと考える際に、シニア前期と後期では内容を大きく変える必要があるということを示しています。

つまり商品やサービスを薦めようとするとき、50代を中心とするシニア前期世代については現在行っている手法で基本的に問題ないが、60代以上のシニア後期世代に対しては効果が低いということになります。

このようなシニア前期・後期での傾向変化は、そのあまりにもはっきりとした特徴から、エイジング(加齢)によるものであるとは考えにくく、コーホート(世代経験)によるものと考えるべきです。

では、好感度の対象そのものはどのように違うのでしょうか。同じ調査の結果ではシニア前期と後期で次のような明確な特徴が出ています。


  【シニア前期が後期よりも強く好感を持つ要素】

全般の傾向としては「新鮮さ」「親しみ」「わかりやすさ」「おもしろさ」が主要な要素。そのなかでも特に60代と比べて高いのが「印象的」「心に残る」「面白い」というようなインパクトや演出への反応のようです。


  【シニア後期が前期よりも強く好感を持つ要素】

「親しみ」「共感」という親近性、「わかりやすさ」「説得力」という理解のしやすさ、「あきがこない」という継続性という3つの要素が、前期世代に比べて特に強く出てくる傾向にあります。一方、「印象的」「面白い」に関しては極端に低下する傾向があります。



シニア世代のメディアとの接触頻度は特徴的
 
次にシニア世代が商品やサービスの情報をどのようなメディアから得るかについて考えるために、彼らのメディアとの接触時間という行動面を見てみます。

これに関してはNHKが2000年に行った「1日のメディア接触時間」という興味深い調査結果を紹介します。
       
  ◇男性の世代別◇  
    【50代男性】 TV:2時間42分 ラジオ:21分 新聞:31分 雑誌:2分
    【60代男性】 TV:4時間09分 ラジオ:30分 新聞:49分 雑誌:3分
    【70代男性】 TV:5時間34分 ラジオ:26分 新聞:56分 雑誌:4分
       
  ◇女性の世代別◇  
    【50代女性】 TV:4時間08分 ラジオ:37分 新聞:28分 雑誌:6分
    【60代女性】 TV:4時間42分 ラジオ:33分 新聞:36分 雑誌:6分
    【70代女性】 TV:5時間04分 ラジオ:26分 新聞:32分 雑誌:2分
       
  ちなみに20代はどうかというと、次の通りです。
    【20代男性】  TV:2時間13分 ラジオ:21分 新聞: 8分 雑誌:15分
    【20代女性】 TV:3時間01分 ラジオ: 9分 新聞: 7分 雑誌:10分
       
  テレビへの接触時間が圧倒的に大きく、また年々新聞への接触時間が長くなっていることがわかっていただけると思います。

さらには、若年世代に比べ、ラジオへの接触時間が意外と長いこと、雑誌に関してはほとんど接触しないことが分かってきます。

また、シニア世代はメディアへの接触時間そのものが非常に長いことも特徴的です。特に男性は変化が激しく、50代で3時間36分であったものが60代では5時間31分、70代になると実に7時間となっています(20代では2時間57分)。

つまりシニア後期に到ると一日の活動時間のうち3分の1以上がメディアとの接触にあてられていることとなります。

シニアに商品やサービスを認知してもらうためには

好感の傾向と情報収集活動としてのメディアへの接触状況から、コミュニケーション戦略について次のような仮説が立てられます。

 




(1)シニア前期の男性を対象とした商品・サービスの場合は、特に下の世代との差異対策の強化を検討する必要はありません。これは下の世代との違いを強調することがむしろマイナス効果を生む可能性が高いことを示してもいます。

メッセージとしては新鮮さや面白さというインパクトのある表現・演出をやや重視すべきです。紙媒体の場合、雑誌への接触時間が想像以上に短いので、新聞を情報チャネルとしては重視すべきです。事実、「50+」を読者ターゲットとする雑誌は、もっともメジャーな1誌を除いて苦戦されているようです。

店頭などでの販売においても、陳列方法への配慮(アイキャッチやPOPの活用)が重要な要素となります。まず興味を引いてみてもらうということを重視すべきです。


 



(2)シニア後期の男性を対象とする場合、インパクト重視の表現は避けるべきです。むしろ品質や安心感、歴史あるブランドなどに焦点をあわせ、その上で商品やサービスそのものをわかりやすく丁寧に説明する表現が求められます。

店頭での販売ならば、利用例のわかりやすい展示、デモンストレーションなどが有効です。いずれにしてもハイタッチな接客が求められそうです。

また、メディアとの接触時間が極端に増加しますので、テレビショッピングや情報提供番組の活用、背景情報(生産者の考え方の紹介、企業としての経営理念、開発のきっかけなど)を含めた新聞への広告掲載やパブリシティなどが有効です。

この世代でも雑誌はほとんど読まれていません。


    (3)女性に関しては、シニア前期・後期に大きな行動上の差異はありません。これは以前解解説したとおり、子育ての終了というライフステージ面での大きな変化を男性よりも早く迎えることで、より早くシニアライフ(あるいはセカンドデビュー)に対応しているということです。

つまり女性のほうが、シニアとしてより成熟していると考えられます。

つまりシニアの女性は同世代の男性よりも、より品質や安心感、定評あるブランドなどを重視すると考えましょう。

もちろん、前期と後期では戦略的には異なります。下の世代との一体感が強く、かつ品質にもこだわるシニア前期の女性に対しては、アンチエイジング(つまり「年齢に負けない」というメッセージ)を新鮮なイメージで見せていくことが求められます。シニアということを強調した内容は嫌われそうです。

これは店頭での接客などの際にも注意すべきポイントです。「お若く見えます」は逆効果かもしれません。

一方、シニア後期の女性に関しては、品質や効用面を強調した表現が良いと思われます。接客などで込めるべきメッセージは、本当に良いものが判るあなたにお薦めしているという内容でしょう。共感や親近感も必要な要素ですので、ハイタッチな接客が求められます。

メディアに関しては、彼女たちは男性よりもはるかに熟練したテレビ視聴者です。テレビショッピングや情報提供番組での紹介などは有効な手段です。

また、男性に比べると雑誌への接触時間が長いので、女性の場合はこれの利用を検討する価値はあります。




シニア世代へのマーケティングでは「口コミ」を活用しろ、とよく言われています。

これは、友達という「安心」できる相手が実際に使用していることで「保証」されたものであり、使い方や申し込み方などが友達から教えてもらえるという「理解のしやすさ」が、特にシニア後期の好感特性に合致しているためです。

シニア世代が意外なほど聴いているラジオというメディアの活用を考える場合、この口コミ効果が参考になります。ラジオは残念ながら使っているところを見せることも、イメージを視覚的に伝達することもできないメディアです。

しかも、紙媒体のように時間をかけて自分のペースで情報を取り込むということもできません。このような音しかない媒体であるラジオの活用法としては、「友達のようによく知っている人」から「私も使っている」「私が薦める」というメッセージを伝えるという「擬似口コミ」とでも呼べるような方法が最善です。

友達のようによく知っている人としては番組のパーソナリティや出演者がこれにあたります。CM時間帯での商品名や会社名の連呼は効果が期待できないと考えるべきです。




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■バックナンバー

第1回 「シニア・マーケットはこう考える」
第2回 団塊の世代を再確認する(1)「団塊の世代の人口構成面での特徴」
第3回 団塊の世代を再確認する(2)「コーホートとしての団塊の世代」
第4回 団塊の世代を再確認する(3)「団塊の世代のライフステージ」
第5回 「団塊・シニアの購買基準を検討する」
第6回 「団塊・シニアに対するコミュニケーション戦略」
第7回 「あらたなタイプの生活者〜団塊を中心とするシニア前期世代」
第8回 「団塊・シニア市場の4つのファクター」
■西村 健一/有限会社エヌ・コンサルタンツ 代表取締役
http://www.n-cons.com/
西村 健一/有限会社エヌ・コンサルタンツ 代表取締役
経営コンサルタント。中小企業診断士。1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部卒業。大手証券会社における個人営業・法人営業・企画業務・株式公開業務、システム開発ベンチャー企業でのマーケティングマネージャーなどを経験後、コンサルタントに転身。中小企業から日本を代表する大企業まで企業規模にかかわらず、幅広くマーケティング戦略の指導・支援、新規事業進出戦略の立案・支援などを行っている。
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