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団塊&シニアマーケットを狙え!
第7回 「あらたなタイプの生活者
         〜団塊を中心とするシニア前期世代」

有限会社エヌ・コンサルタンツ 西村 健一

団塊・シニアマーケットでの商品・サービス提供を考える場合、購買活動そのものを分析するよりもむしろ、その購買活動の背景にある生活への理解を深めることが重要です。

つまり、店舗等における消費行動を中心とした「消費者」という考え方ではなく、自分の生活全般を自ら設計する「生活者」としてとらえるべきです。

そして、その理解の基盤として念頭におくべきであるのが「エイジング」「ライフステージ」「コーホート」という3つの因子であることは言うまでもありません。

今回は今後のシニアマーケットを牽引していくと考えられる、団塊の世代を中心としたシニア前期世代の大まかな生活者像を、これまで解説してきた内容を基にとらえていきます。

シニア前期の生活者像
   
◆ライフステージ◆


このグループの男性は概ね現役世代です。全体的な傾向として、大部分がまだ住宅ローンや教育費での支出が家計に占める割合が高いままです。

収入自体は平均よりも高めですが、頭打ち状態の者も多いと思われます。近年の成果主義・能力主義やリストラの動きなどで、「豊かな老後」という幻想はあまり持っていません。

このような現状を踏まえた上でのこのグループの男性の生活者像をとらえると、ライフステージ変化に対する基本姿勢によって大きく二分される傾向にあります。

現在の社会生活(主に会社生活)での上昇志向を強く持ち続けるグループと、シニア後期以降の生活への意識を強く持つグループです。

前者は自分自身がシニア期に突入しつつあるという意識はあまり持っていません。メディア等へのアプローチに関しても下の世代と同様な傾向を示します。

消費活動は活発ですが、趣味や自己啓発への投資というよりも、今現在の生活を楽しむための消費に強い興味を持つ傾向にあります。

各種の調査によると全体の約40%がこのグループに入ります。

一方、後者は自分自身がシニア期に突入しているとの認識を持ち、その多くが定年あるいは60歳という区切りを強く意識しています。しかし、社会生活そのものは継続しているため、老後の備えとしての具体的な活動を行うまでには到っていない者が大多数です。

消費活動自体はどちらかといえば低調といえます。このグループは老後資金の確保のために、不要不急の支出は抑える傾向にあります。支出は主に家庭生活にまつわるものが中心です。全体の約50%がこのグループに属します。

一方、このグループの女性は概ね子育てを終え、次のライフステージに移行しつつある年代です。この際に、家庭を中心に考えるか、自身の活動や交友関係を中心で考えるかでやはり大きく大別されます。

家庭を中心に考えるグループには、まだ手のかかる「夫」という存在があるため、実質的なセカンドステージに移行するのは夫のリタイア後と考える傾向が強くあります。このため、50代での対外的な活動はやや停滞気味です。

消費活動も家庭内に関する支出が中心となります。全体の約35%程度がこのグループに属すようです。

ただし、このグループにおいても「老後の新しい夫婦関係」を強く意識する集団は消費性向が高く、「老後の家計・健康問題」を強く意識する集団は消費性向が低いという2つの方向に分化されます。

一方、自身の活動や交友関係を中心に考えるグループの消費活動は活発です。消費傾向としては、地域での交友を主体に置くタイプはレジャーや教養などサービス系の消費が多く、地域の枠を超える活動を行うタイプは情報機器や高額商品などの購入割合が高いようです。

地域型が30%強、自身の活動中心型が約18%という調査結果があります。
   
◆コーホート◆


この世代はいわゆる団塊の世代を中心とした世代体験を強く保有しています。また一方では、良くも悪くも自分たちが今の社会をリードしてきたのだという自負心を(特に生活文化面で)持っています。

共通の世代体験が消費活動にあらわれる際のキーワードは「ノスタルジー」や「あの頃の夢」とあらわすことが出来ます。昭和30年代をテーマにした施設や、ビートルズやフォークなどのリバイバルヒットなどはノスタルジーの傾向をつかんだものです。

また、シニアのための音楽教室や絵画教室、シニアによるオリジナル企画での海外旅行の増加などは「あの頃の夢」の再現といえます。

社会をリードしてきた自負心に関しては、「新しい大人の文化」と「新しいコミュニティ形成」という形で現れてきつつあります。

文化面に関しては趣味への支出の高額化の傾向がありますが、まだ新しい大人文化といえるものまでには育っていません。

展覧会やコンサートなどのソフト享受型の消費が女性層で、DVDプレイヤーや液晶テレビ等のデジタルAV商品への支出に顕著なハード購入型が男性層では特徴的です。

コミュニティ形成に関してはシニア前期では女性が中心です。ボランティア活動やNPO活動という、従来とは異なるコミュニティへの「自身の活動型」女性の参加が増加しつつあります。

一方、都市近郊の新興住宅街に特徴的な、造成時期によって同世代が特定地域に集中する現象により、地域での交友関係の固定化⇒年代的に均質化された強固なコミュニティの形成という傾向が出てきています。

従来のような各世代が存在する老人会的な地域活動主体から、自分たちの世代だけの活動・興味が中心とされる新しい排他的な地域コミュニティが誕生してきそうです。

 















◆エイジング◆


この年代になるとエイジングが大きな課題として浮かび上がってきます。男性では体力の衰えや内臓系疾患の増加、女性では更年期の問題などが顕著になってきます。

このような自分自身の加齢による身体変化に対する生活者としての姿勢は、男女の別なく2つの方向性に分かれます。

まず第1の方向性として、加齢による身体的な能力低下に対する抵抗という「アンチエイジング」です。

これは自身の身体面でのシニア化を認めない、あるいは能力低下を可能なかぎり遅らせたいと考える層です。都市型生活者に比較的多い傾向といえます。

第2の方向性は、エイジングによる身体的な負担増を避けるような生活環境を選択しつつ、下の世代との差を対外的には感じさせないようにしようとする「エイジフリー」というアプローチを採る層です。

ユニバーサルデザインに配慮した家電商品や住宅、年齢による差異が少ない定番型のファッションなどを好んで採用する傾向があります。郊外型のニューファミリーと呼ばれた人々に多い傾向かと思われます。

なお、この世代のエイジングで忘れていけないもうひとつの要素は、彼らの親のエイジングの問題です。

介護が必要とされる割合自体は特に高くはありませんが、独居化や極端な身体能力低下などによる不安は、子の世代である彼らにとっても生活上の課題として避けられないものになってきます。


シニア前期へのマーケティングアプローチ

 





シニア前期の生活者像を踏まえたうえで彼らに対するアプローチを考えると、そのキーワードとして浮かび上がってくるのは「ステージ変化への対応」です。

現在、この世代に対する一般的なアプローチは「アンチエイジング」「豊かな大人の文化」「ノスタルジア」といったものです。これらのアプローチが間違っているとは言いません。

しかし、アンチエイジングやノスタルジアはあくまでも一過性のアプローチでしかなく、豊かな大人文化というアプローチも「今まで我慢していたモノ・コトをやってみましょう」という高額商品や高額サービスの販売促進策に見えてしまいます。

この世代はライフステージ、エイジングともに、これまで生活の前提としていたものが大きく変化し始める時期にあたります。

この変化・移行に際しての、新たなシニア像の提案やサポートという観点こそ重要であると考えられます。

このような提案や必要とされるサポートは、供給サイドとしての企業側からだけでは企画立案が困難です。

なぜなら、従来の高齢者・シルバーとは比較にならないほどの圧倒的なボリュームを有し、それまでの世代とは全く異なるタイプの世代体験を有するコーホートであるため、従来の顧客理解の常識が通用しないからです。

商品・サービス開発の際には必ず「顧客との共同開発」が必要とされるようになるでしょう。


次回はこのコラムの最終回として、新たなシニア向けビジネスや商品開発を検討する際にヒントとなるいくつかのファクターを解説します。




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■バックナンバー

第1回 「シニア・マーケットはこう考える」
第2回 団塊の世代を再確認する(1)「団塊の世代の人口構成面での特徴」
第3回 団塊の世代を再確認する(2)「コーホートとしての団塊の世代」
第4回 団塊の世代を再確認する(3)「団塊の世代のライフステージ」
第5回 「団塊・シニアの購買基準を検討する」
第6回 「団塊・シニアに対するコミュニケーション戦略」
第7回 「あらたなタイプの生活者〜団塊を中心とするシニア前期世代」
第8回 「団塊・シニア市場の4つのファクター」
■西村 健一/有限会社エヌ・コンサルタンツ 代表取締役
http://www.n-cons.com/
西村 健一/有限会社エヌ・コンサルタンツ 代表取締役
経営コンサルタント。中小企業診断士。1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部卒業。大手証券会社における個人営業・法人営業・企画業務・株式公開業務、システム開発ベンチャー企業でのマーケティングマネージャーなどを経験後、コンサルタントに転身。中小企業から日本を代表する大企業まで企業規模にかかわらず、幅広くマーケティング戦略の指導・支援、新規事業進出戦略の立案・支援などを行っている。
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