社長の意識は必ず全社的な雰囲気に影響を与えています。社員は社長のことを好きだろうが嫌いだろうが、尊敬していようがいまいが、無意識のうちに社長の影響を受けています。
この関係は親と子供の関係によく似ています。子供を持つ方はよくお分かりだと思いますが、子供は親の言うことよりも親の行動をそのまま真似します。
私の子供が3歳のころ、子供はコップの水を飲んだあとで「あ"−」と声を出すのです。
いったいどこでこんな品の悪い飲み方を覚えたのだろうと不思議に思っていたところ、ある日自分ががビールを飲むたびに「あ"−」と声を出していることに気が付きました。
これだ!と気づいた訳です。思わず笑ってしまいましたが、いかに行儀のいい飲み方を教えても、子供は親が言って聞かせたことよりも先に、親がやっていることを真似するわけです。
会社においても同じことです。社員は社長を真似します。
しかも社長の行動以上に考え方を真似するのです。社長の仕事に対する考え方、お客さまや仕入先に対する考え方、商品やサービスに対する考え方を真似します。会社の規模が小さいほどそれは直接的に作用します。
社員の意識は社長のあなたの心の鏡と言えるかもしれません。
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ニューロロジカルレベル
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社員に無意識に伝わってしまう、この社長の意識を、「ニューロロジカルレベル」に照らして、もう少し詳しく見ていきましょう。
ニューロロジカルレベルはNLP Universityのロバートディルツ氏がまとめた、階層構造モデルです。
ディルツ氏は人類学者のグレゴリーベイトソンの学生でした。ベイトソンが定めた学習と変化における4つの基本レベルを、さらに個人や集団の中での作用のレベルの階層構造としてディルツ氏が体系化したものがロジカルレベルです。
ディルツ氏の体系には6つのレベルがあり、上位のレベルの変化は必ず下位のレベルに影響し、何らかの変化を起こします。逆に下のレベルの変化は上のレベルに影響を及ぼす事もありますが、必ずしもそうなるとは限りません。 |
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このレベルとは、上から、
1.スピリチュアル、
2.自己認識(アイデンティティー)、
3.信念・価値観、
4.能力、
5.行動、
6.環境です。
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「スピリチュアル」は、個人としての意識を超えて、大自然や宇宙とのつながり、大きなシステムの一部であるといった感覚のレベルです。会社やチームとの関係性の意識と言うことも出来ます。
「自己認識(アイデンティティー)」は、自分は誰なのか、自分の存在理由、使命、を意識するレベルです。Who? (私は誰?)に対する答えでもあります。
「信念・価値観」は自分が大切にしている事、信じている事、時には思い込みもこれに含まれます。 Why?(なぜそれが大切か?)に対する答えでもあります。
「能力」は、可能性、技術といったものも含みます。 How?(どのように?)に対する答えでもあります。
たとえば、誰かがあなたにこのように言ったとします。一つずつ想像してみて、どんな感じか、試してみてください。
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あなたの環境は素晴らしい。 |
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あなたの行動は素晴らしい。 |
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あなたは素晴らしい能力を持っている。 |
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あなたの価値観は素晴らしい。 |
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あなたは素晴らしい人だ。 |
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おなじ「素晴らしい」という評価の言葉ですが、どのレベルに対して言っているかで受け止めた時の感覚の違いに気付かれたでしょうか?
カウンセリングの中でもこのレベルを意識しながらクライアントに質問をしていく事でクライアントの意識が変わっていくことが多々あります。
このモデルは組織にも当てはめる事ができます。企業に当てはめた場合、「自己認識」と「信念・価値観」はミッションステートメント、企業理念として表すことができます。また、「能力」、「行動」、「環境」は事業計画や、経営計画として表現されるものです。
例えば新入社員に「行動」を指導するのは同僚や係長の仕事、「能力・戦略」を指導するのは課長の仕事、「信念・価値観(理念)」を指導するのは部長や取締役の仕事、「存在理由、ミッション、使命」を指導するのは社長の仕事、とも言えます。
社長は常に「わが社はどんな使命を持っているのか」、「それを実現するためには何を大切にしていくのか」、を発信し続ける人であって欲しいものです。
私は社長時代に、一度朝礼でしゃべったことを、別の機会にまた話すということが苦手でした。同じことを何度も話すことが、自分で飽きてしまうのです。ところが聞くほうは、その日の夕方になれば今朝の朝礼でどんな話があったかなどはほとんど忘れてしまっているものです。
一度朝礼でしゃべったから、それでOKということはありません。「コミュニケーションの結果は、相手の行動の変化でわかる」としたら、一度しゃべっただけではコミュニケーションとは言えないでしょう。
これは、いくら発信しても十分ということは無い。言葉で表現し、行動で見せ、社長自身の生きる姿で社員に伝えていくものだと思います。
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世代交代 |
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創業者や先代社長が育ててきた、会社の「信念・価値観」(会社の文化とも言うことができます)は、時代や社会の変化によって変えていく必要があるものも出てきます。
私が社長就任の前に変えたかったことのひとつに、「今までに成功したことを、さらに真剣に取り組めば売上は上がる」という信念(思い込み)でした。
真面目な社員であればあるほど、すでに環境が変わって上手く行かなくなっている過去の成功体験を、一生懸命に繰り返します。その結果、頑張れば頑張るほど赤字が増えるという事態が繰り返されたのです。
社長交代のタイミングは、こんな思い込みを変化させていく、大きなチャンスになります。今までの社長の発信していた「使命」や、「信念、価値観」とは違うものを発信し始めるチャンスなのです。
人間は、基本的に変化に対して恐れを抱くものです。いままで受け入れることに恐れを抱いていた変化に対して、社長交代というより大きな変化を目の前にして、社員の気持ちの中にも変化に対する準備が整う時期でもあるのです。
変化に対して、「腹をくくる」準備が整うのです。社長交代は、新しい「信念・価値観」を伝え、戦略、行動レベルに変化を起こしていくための最高のチャンスなのです。
社長交代の時期こそ、会社が目指すビジョン、ミッション、価値観、戦略を、社員に語りかけるチャンスです。そして、手を変え、品を変え、常に会社の価値観を伝えつづけることが大切です。
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グループウエア |
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かといって、社長は一日中社員と話しているわけには行きません。中小企業にとっては、社長は最高の営業マンであり、対外的な窓口なのですから、社員に向き合ってばかりいるわけには行かないのです。
社員に社長の意思を伝える方法は色々です。朝礼、会議、社内報、社員と同行しての営業など。そしてありがたいことに、サイボウズに代表されるグループウエアという文明の利器が登場してきました。
インターネットを使って、忙しく飛びまわる営業マンや、地方の営業所のスタッフたちにも、社長の生の言葉でメッセージを伝えることが出来るようになったのです。
しかも、ただ一方的に伝えるだけでなく、やり取りが出来る。一対一でも、一対多でも、自由に、場所や時間の制約を超えてコミュニケーションが取れる。この柔軟性がとてもありがたいのです。
コミュニケーションは一方的なものではなく、相互作用で機能するものです。相手によっては、ねぎらいの言葉をかけてから、こちらの言いたい事を言う、あるいは相手の恐れや不安を認め、励ましの言葉をかけてから自分の伝えたいメッセージを伝えるなど、社長にとっては社員の意欲を高める、重要なツールとして使いこなせる可能性があります。
新しいツールというものは、今までできなかったことをいとも簡単に実現させてしまうものです。もし、今私が社長だったら、グループウエアを使って、こんなことをやるだろうと思うことを挙げてみます。
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1.社員向け:
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(A)社長の日記:自分の1日を社員に公開する。自分が得た発見や思ったことを書くことで、会社の信念、価値観を伝える。
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(B)社員の誕生日にメールを出す。そこでは、相手が会社にいてくれて、いかにありがたいか、というメッセージを伝える。
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2.お客様も巻き込んで:
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(C)掲示板を作る。そこでの会話からサービスの向上や新商品のアイデアを得る。
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(D)お客様にニュースレターを配信。毎週、お客様に役立つ情報を発信、社内の様子も出来るだけ伝える。
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もう10年以上前になりますが、私はある勉強会で久米繊維工業の久米信行社長と名刺交換しました。
久米社長は当時から毎日、日記風のメッセージを配信していました。当時はまだインターネットは普及しておらず、パソコン通信を使っての配信でしたが、私は久米社長から毎日メッセージを受け取り、それを読み続けるうちに、久米社長とは古くからの友人であるかのような感覚を持つようになりました。
たった一度の名刺交換にもかかわらずです。そして今でも久米社長のファンであり続けています。
当時は社員全員にPCを持たせることなどは費用がかかりすぎてできることではありませんでしたが、今では携帯メールあり、PDAありと、大変手軽に利用できる時代になりました。
社員やお客様とさらに強い関係を作るために、文明の利器を利用しない手は無いでしょう。
■バックナンバー
第1回 「社長は社員の鏡」
第2回 「二代目のジレンマ」
第3回 「親の七光りは利用しろ」
第4回 「なぜわからない人にはわからないのか?」
第5回 「後継者の成功の鍵“スポンサーシップ”」
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