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わからない人にはわからない |
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地方のある寝具専門店を営む社長さんのお話です。
この社長さんは10年ほど前に大きく商売の方法を変えました。
その決断が功を奏し、現在は多くのお客さんでにぎわう店舗になっています。
どんな風に商売の方法を変えたかというと、今までふとんを山積みにして売っていた店を、おしゃれな生活雑貨中心の店に大きく変えたのです。
もちろん寝具も売っていますが、寝具の売り場面積は従来の30%、残りの70%は家具や食器、アロマオイルや石鹸などの生活雑貨です。
それまでの寝具店では、一日に4〜5人のお客様、客単価は数万円でした。客数は毎年減少していきます。そのため、少しでも単価の高い商品を売ろうと、様々なセールストークを駆使して売っていました。
このままでは客がいなくなってしまうと考えた末、思い切って今までとは大きく違うお店に変えたのです。
いままでは寝具が必要になった時にしかお客さんが来てくれなかった店でした。それを、何回でも来てもらえるような、ファンになった人は毎日でも遊びに来たくなるような店作りです。
変更後は、平均客数は10倍以上、客単価は数千円、という変化です。
簡単に言うと、こんな考え方に基づいて変えました。
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<古い商売> |
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<新しい商売> |
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取引志向 |
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関係性志向 |
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多いほど良い |
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絞り込んだ顧客 |
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マスマーケティング |
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マイクロマーケティング |
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売り込みの仕掛け |
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買いたくなる仕掛け |
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供給主導型 |
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需要主導型 |
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取引単位の利益 |
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顧客毎の生涯利益 |
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短期的 |
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長期的 |
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成功したお店ですので、他の地域から同業者が見学に訪れます。
彼らは社長の説明を聞きながら、何時間も熱心に見学していくのですが、残念ながら、社長いわく、 「彼らは何も学ばずに帰っていく。」との事。
自分の店を店員に任せ、わざわざ遠方から一日かけて見学に来ているのに、大切なことは何も学ばず、来た時と帰る時に同じ質問をして帰って行く。
例えば、「雑貨の利益率はどうですか?」とか、「どんなジャンルの雑貨が売れるのですか?」などです。そんな事を聞いても、この店がなぜ成功しているかは分かりません。
まして、彼らがこの店で売れている雑貨だけを仕入れて、山積みの布団の脇に並べても、何の足しにもならないでしょう。話を聞いていて、私もこのことは良く理解できました。
わからない人には、わからないのです。
どうしてそんなことが起こるのかというと、根本の仕組みが全く違うのに、根本の違いを学ばずに、
枝葉の部分ばかり見ているからです。
何時間も説明を聞いて、実際にお客様が商品を買っていく姿を見ているのに、「根本の仕組み」がわからないのです。理解しようとしているのに、本人には見えないのです。
別に老化現象というわけではありません。
この人たちの持っている選択肢を超えたところに根本の仕組みの違いがあるからです。
見学に来た人たちが毎日やっている商売は、一日に数人しか来ないお客様が来店すると、「この人に今日、何十万円買ってもらおうか」と考える商売です。
反対に、この社長さんの商売は、「お客さんにどうやってファンになってもらって、また来てもらおうか」と考える商売です。
古い商売の人たちは、真剣にこの商売を研究し、問屋が企画する研修会で勉強し、話法を勉強してがんばっています。本当に熱心にやっています。
それにもかかわらず、全く違うやり方を見た時に、それが理解できないのです。
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変化と学習のレベル |
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なぜわからない人にはわからないのだろう?これは社長時代の私の悩みでもありました。
「学習」には、「レベル」があります。
これは、グレゴリー・ベイトソンがまとめたもので、学習にはラーニング0(ゼロ)、ラーニング機▲蕁璽縫鵐悪供▲蕁璽縫鵐悪靴箸いΕ譽戰襪ある、というものです。
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●ラーニング0とは …変化なし、習慣、惰性という、学習が起きないレベル |
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●ラーニング気箸蓮鳥彪磧θ深諭△垢海靴困弔諒儔宗適応、修正というレベル |
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●ラーニング兇箸蓮蝶悗喨を学ぶ、非連続的な変化、違う価値観を学ぶレベル |
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●ラーニング靴箸蓮珍瓦違うシステム、別人になるほどの変化レベル |
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例として、パブロフの犬の状況を考えて見ましょう。
パブロフは、犬にエサを与える時に繰り返しベルを鳴らす事で、ベルの音に対してよだれを出させる事を条件付けできる事を発見しました。
犬はベルの音とエサを与えられる事を結びつけることを学びました。短期間のうちに、エサは無くてもベルの音がきっかけとなり、ベルを鳴らすだけで、犬はよだれを出し始めました。
ベイトソンの学習のレベルのモデルによれば、犬がエサを与えられた時の、最初のよだれを出す行動は、“ラーニング0”の事例です。
それは遺伝的に受け継がれた、あらかじめプログラムされた本能的な反応であり、それを消し去る事は、できなくは無いが、難しいものです。
唾液分泌の反応を、エサの視覚と匂いからベルの音に延長することは、“ラーニング機匹了例です。反復と強化によって、犬は唾液分泌という特定の反応(あくび、まばたきなどの反応ではなく)を、ベルの音に結びつける事を学びます。
“ラーニング供匹蓮崛択が行われる選択肢のセットの変化」を意味します。
これは、犬が一旦ベルの音に対して唾液を出す事を学ぶと、ベルの音を聞いた時にその反応を全く違うもの(例えば吠える、走り去る)に変えるようなことを意味します。(単純に唾液の量を増やしたり減らしたりするのではなく)
唾液分泌は「食べる」行動のセットの中のひとつです。他の選択肢のセットは、「遊ぶ」、「脅威を避ける」、「探る」、「脅す」などです。このレベルでシフトを起こす事は、レベル気茲衒雑なものなのです。
例の古い商売の見学者たちが今もなお励んでいるのは、“ラーニング機匹離譽戰襪覆里如⊃靴靴い海箸暴于颪辰討癲⊆分の既存の枠(選択肢)でしか理解しようとしません。そのことにすら気づかないのです。
コンピューターで喩えるなら、
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●ラーニング0 =
学習機能がない日本語変換ソフト
決められたひらがなから該当する漢字辞書のデータを呼びすだけ。
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●ラーニング機 =
学習機能つきの日本語変換ソフト
使用頻度を学習し、漢字辞書のデータから頻度の高いものを上に表示する。
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●ラーニング供 =
同じ漢字辞書のデータを文書に自動作成する。
文脈まで判断する自動翻訳ソフトなど、全く違うソフトで漢字辞書データを利用すること。
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●ラーニング掘 =
全く違うOSを使う、違うコンピュータを使うなど
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見学に来た彼らが必要なのは、“ラーニング供匹魑こし、この店の信念・価値観を読み取り、それに伴った見方、聞き方、感じ方を行い、戦略を理解し、学習することです。
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頑張ってはいけない時もある |
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つまり、ここでの変化とは、
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「売上げは、一回で高額品を売ることで上げるもの」 |
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↓ |
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「売上げは、多くのお客様と長い付き合いで上げるもの
」 |
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という、信念、価値観の変化です。この変化を起こせば、この社長さんがやっていることの全体像が見えてくるのです。商売に行き詰った時に、よく起きる失敗は、
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「まだ努力が足りないのではないか?」 |
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「真剣さが足りないのでは?」 |
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と鞭打って、全社を上げて一生懸命にラーニング気鯆謬瓩掘⊆勸に要求してしまうことです。私も社長時代にこの落とし穴に落ちていました。
私は、商売の考え方や、儲けのしくみを変えることなく、もっと営業時間を延ばせば売上は増えるはず、とか、もっと真剣に努力すれば必ず利益が出る、とか朝礼で口走っていました。
その結果、頑張れば頑張るほど赤字が膨らみました。
環境の変化や、改革のフェーズによってはラーニング気必要な場合も有りますが、長年やってきた事が上手く行かなくなってきた時や、環境の変化が急速な時には、“ラーニング供匹必要なのです。
こんなステップで考えてみてください。
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1.疑ってみる(Open to Doubt)
「これって、本当かな?」 |
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2.もしかしたら(Open to Believe)「新しい考えがあるかも?」 |
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3.新しい考え (Desired State)
「これだ!」 |
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会社に変化を起こすことは、「ラーニング兇魑こすこと」なのです。
そして、“ラーニング供匹魑こし続ける会社を作るには、会社の理念を明確に示し、社員を承認し、権限を委譲し、ねぎらう事が大切です。
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次回は、どうしたらラーニング兇魑こし続ける会社になれるのかをお話します。
■バックナンバー
第1回 「社長は社員の鏡」
第2回 「二代目のジレンマ」
第3回 「親の七光りは利用しろ」
第4回 「なぜわからない人にはわからないのか?」
第5回 「後継者の成功の鍵“スポンサーシップ”」
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