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連載コラム
連載コラム『会社を強くする組織の条件〜事例に学ぶ、意識改革、生産性倍増への道〜』平石 奎太/平石経営研究所
シリーズ:会社を強くする組織の条件 会社を強くする組織の条件
 
第5回 
『「ルールはある、守らないのは確認不足と教育不足」では問題は解決しない
  「守らないのではなく、守れないのでは?」と考えれば知恵が出る』(事例2)


■事例.2

これは、管理のよく整った加工会社の事例である。
当初は寧ろ管理が整っているという幹部の自負が壁になっていた。

管理の整った経営意識の高い会社にありがちなのが、「ルールはあるのだから、守るように徹底せよ」とか「再教育だ」で済まされる間違いである。

それも必要だが、一時的には改善されても時間が経てば又同じミスが繰り返される。

しかし、人はミスを犯すものであると考え、一歩進めて「守れないのではないか」「守りにくいのではないか」と考えれば知恵が浮かんでくる。そして、根本原因を突き止め、仕事の仕方や仕組みを変える改善まで進めたい。それが再発防止の根本対策になる。

以下にその改善事例を紹介する。


1.受付のミスを激減・・・36件(7月)、2件(2月)。仕事の仕組みを変えて着々と成果
 


加工会社はお客様から加工する部品を預って加工を施して返却する仕事をしている。従って、加工部品を受け付ける時に受付ミスがあれば後工程が全てムダ作業になり、ひいては顧客クレームにつながってしまう。

そこで、生産性向上の最重要課題として、受付ミスをゼロにする取り組みが始まった。
成果はグラフに示すように着実に上がっていった。「数量ミス」に注目いただきたい。


6月度〜3月度(但し3月は未記入)
【合計ミス数】 7〜9月:月平均26件
10〜12月:月平均12件

受付けミス推移

【数量ミス】
 

7、8月と増加
9月(改善1): 数を数える対象を従来の2倍に改善、
7〜9月 月平均11件、10〜12月 月平均6件と減少
但しその後、6件前後で停滞、進展せず

1月に「数量ミスをゼロにする仕組みを作る」という課題を提示
2月(改善2): 「計量トレー」を開発採用、2月にミスゼロ達成
受付けミス合計が36件(7月)から、2月に僅か2件になった。


2.“現場100回” 処理ミス(加工違い)の真因は果たして「不注意」だったか
 


ある日、加工会社としては重大ミスが発生した。

処理の仕方が幾つかあるうちの、処理の選択を間違ったのだ。
預り部品がそのまま廃品になる重大ミスである。

勿論やり直しで納期も大幅に遅れる。これにはさすがに社長も簡単に見過ごすわけにはいかなかった。当然である。会社の行動基準には「お客様にお預かりしたものは一品残らずお返しする」と定めてある。
残念ながら担当者の「減給」の処分が告げられた。
しかし、ミスがどのようにして起こったのか、発生の原因を確かめる必要があった。

 



  
・単なる不注意だったのか
・その他の原因はないのか
・「不注意」で済ませて再発防止が出来るのか
  私にはその間の事情がよくわからなかった。そこで現場で説明を聞くことにした。

現場を見てわかった。ミスが起こっても不思議ではないと思った。
つまり物の「定置化」がなされていなかった。
 


  
・「処理待ち品」の処理別のおき場所が不定
・「処理済品」の置き場所が不定
・「不良品」の置き場所が不定・・・など
  これらが全て担当者の記憶に頼って頭の中で処理されていた。
“人は間違いを起こすもの”との前提に立てばこれではいつか間違いが起こる。

現場が狭く工夫が必要だったが、なんとか工夫して「おき場所(区画)を決めて明確に表示すること」を提案した。

これを機会に、現場における「定置化」「表示」その他、“考えずに見てわかる管理”が一気に進んだ。

「考える負担」「記憶している負担」は改善して軽減することが重要である。
そのことが、品質の安定、ひいては生産性の向上につながるのである。

3.先ずは目標設定から。機械設備の立ち上げに要する時間を時間から6時間(1/2)に短縮
 
下期の計画を作成する時に、製造現場からある特定の“機械設備の立ち上げ時間を半分に短縮する”という目標が提示された。

私はかねてから大きなチャレンジ目標を設定することを勧めている。従って、これは大歓迎だった。
同時に社員の改革改善への意識の高まりを感じて嬉しかった。

価値ある大きな目標に向けて、活動は7月にスタートした。しかし成果が中々上がらなかった。現状の把握の仕方、検討の進め方を説明して作業の結果を待つのだが中々その準備作業さえ着手されなかった。12月になって遂に社長から檄が飛んだ。

「全く進んでいないではないか」。

私もやり方を反省した。
もう少し踏み込んで一緒になって進める必要があるのではないかと思った。

そこで、次月度に訪問した時にホワイトボードで参加者全員で検討した。
出勤してから機械が立ち上がるまでの工程を整理して、各工程の所要時間を書き込んでいった。

立ち上がるまでの12時間の内容が浮き彫りにされた。機械の立ち上げ作業に着手するまでに3時間を要していた。それは機械廻りの掃除に要する時間だった。数台の機械と機械廻りを一人で掃除をしていたため、機械の立ち上げに着手できなかったことがわかった。

ここまで分かると、さすがに社長から指示がとんだ。
「廻りから掃除要員をかき集めて来い。そして君は先ず機械の立ち上げに着手せよ」。

これで3時間短縮が決まった。作業者と経営者の価値観の違いだった。

それでもやもやしていた霧が晴れたように、その担当者は次なる改善に努力して見事技術的な改善策を編み出した。翌月訪問時には「〇〇君が正攻法で大成果を上げました」と会社が喜びに満ちていた。〇〇社員の飛躍の瞬間だった。

その3月、私のコンサルテイングは3年の期間を経て終了したが、社長から中堅社員が自信を持ち成長したのが最大の成果でしたとの謝辞を頂いた。 


  ■バックナンバー

第1回 「全員参加〜“自分だけやっても意味がない”と思って誰もやらない」
第2回 「組織横断チーム自部門だけで解決するものは何もないのに部門間で責任のなすりあい」
第3回 「P.D.C.A.を回す―“立派な計画は立てるが達成したことがない”のはなぜか」
第4回 「10%の直行不能率が僅か5ヶ月で0.33%に―カギは二つ。目標設定とアクションプラン」
第5回 「“ルールはある、守らないのは確認不足と教育不足”では問題は解決しない」
第6回 「熟練と経験だけと言っていた社員が見違えるように改革・改善を始めた―PSIP4年を目前に」
■平石 奎太/平石経営研究所 所長
平石 奎太/平石経営研究所 所長
「トヨタ的企業文化を創り、営業利益率5%以上達成を支援」
1934年生まれ。東京大学法学部卒業後、三洋電機に入社。人事・教育訓練に従事。経営者教育、幹部教育などを企画。冷蔵庫企画部長・冷蔵庫国内営業統括部長歴任。その間、商品企画に力を注ぎ、2ドアー、3ドアー、ミニ2ドアーなど日本の冷蔵庫史をリードする数々のヒット商品を生み出す。冷蔵庫事業部・事業部長就任。2年余りで全員参加による経営体質の大改革を実現し、50億円の利益改善を達成する。続けて三洋スカイリゾート社長を歴任し、95年、三洋電機退社。2000年、平石経営研究所を設立。所長就任。





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