ある起業家は、社員に経理を任せるのが不安で営業も経理も自分でやっていたが、弟が入社して安心して経理を任せるようになり、営業に専念できるようになって業績が大きく伸びた、と語る。
また、優秀なファミリービジネスのファミリー内のコミュニケーションを調査した研究では、ファミリーのコミュニケーションに、正直さ、率直さ、一貫性が高いという特徴が見られた。
ファミリービジネスの持つこの複雑な構造が、非ファミリービジネスに比べて強みになり、また弱みともなる。
ファミリー独自の創業精神や価値観の尊重、社員や取引先との世代を超えた長期的な関係、継続への強い執念、強い結束、環境変化への適応力などはファミリービジネスに特徴的な強みであり、身びいきや分家間の争いなどはファミリービジネスが陥りやすい問題である。
これらの研究から、「ファミリー会議」の定期的な開催、取締役会の活性化、事業承継の計画的な実施などのファミリービジネスの強みを生かし、弱みを押さえるための方法論が開発されている。
冒頭の私の葛藤体験だが、3ヶ月にわたって決断ができなかったある日、父親と弟達とでゴルフを楽しむ機会を持った。
父は大のゴルフ好きで、3人の息子とゴルフするのは初めてのことだった。
そのときの父の嬉しそうな顔を今でも覚えている。
そのゴルフの翌日、私は何の抵抗も無く父の商品の中止を宣言した。
不思議な体験だった。
今まで自分を止めていた「良い息子でなければいけない」という思いは、前日のゴルフで十分に満たされ、止めるものがなくなったのだと思う。あとは純粋にビジネス上の決断をするだけだったのだ。
ビジネスにかかわるファミリーメンバーが陥る罠は、ファミリーの価値観とビジネスの価値観の境界線が無くなっている時に起きる。
いわばビジネスの帽子とファミリーの帽子を同時にかぶっているようなものだ。
二つの帽子を同時にかぶったり、話す親族と別の帽子をかぶって話をすると不都合が起きてくるのだ。
この帽子の使い分けが、ビジネスにかかわるファミリーメンバーのコミュニケーションの質を高め、結果として、ビジネスが伸びていく。
この二つの帽子を、ファミリーメンバーがお互いにかぶり分けることが必須である。
ビジネスの場ではお互いにビジネスの帽子をかぶり、ファミリーの場ではお互いにファミリーの帽子をかぶる。
家族と共に働くファミリービジネスには、独特の苦しみがある一方で、それ以上に、非ファミリービジネスでは感じ得ない独特の喜びがあるものだ。
帽子を使い分ける習慣を身に付けることが、ファミリービジネスを強いものにしていく。
■法則その2■
ファミリービジネスは基本的に強い。ファミリーとビジネスの帽子を使い分ける。
次回は「オヤジとの対決」についてお話ししたい。
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