後継者が集まる勉強会などで講演するとき、「オヤジとの対決」というテーマはウケがいい。
ほとんどの後継者が、オヤジ(社長)とどう接したらよいか悩んでいるのだ。
私に相談に来る方も、オヤジとの問題で悩んでいる方は非常に多い。切実な問題である。
私の場合も例外ではなかった。
父が社長で、私が専務だった頃、仕事をめぐって様々な意見の違いがあった。
普段はわりに穏やかに話し合う親子だったが、互いに納得がいかないときには、大声で怒鳴りあうこともあった。
同じ車で通勤していたので、車内での二人だけの会話は怒鳴りあいになることが多かった。
不思議なことに、怒鳴ったあと冷静になって考えると、親父の考えがなんとなく分かる気がした。
怒鳴ることでお互いに気持ちが通じるのであれば、これもひとつのコミュニケーションの方法だと考えるようにもなった。怒鳴ることで理解が深まる場合はまだ良いが、ベンチャー企業社長のA氏のケースは深刻だ。
A氏の実家は三代続く中堅企業で、A氏は父親(社長)を手伝うために家業に入った。
ところが父親と意見が合わず、大喧嘩のまま家業から退き、現在の会社を立ち上げた。
実家は弟が後を継いだ。
父親は健在だが、未だにA氏は父親と和解できず、弁護士を通して話すしかない。
A氏の悩みは、このままでは父親の葬式に出られない、というもの。
立ち上げた会社は順調に成長しているが、この父親に対する思いが未だに彼を苦しめ、眠れない夜を過ごすことも多いという。
オヤジとの対決の結果、家業を離れるという選択肢を否定はしないが、このような不幸な分かれ方は避けたいものだ。少なくとも互いに合意の上で結論を出せるよう、コミュニケーション能力を鍛える必要がある。
オヤジとのコミュニケーションにおいて、ジェネレーションギャップの影響は大きい。
例えばある製品の売上が思わしくないとき、オヤジは努力が足りないからだといい、息子はマーケティング手法が間違っているからだという。どちらの意見を採用するかで、対策も結果も変わってくる。
同じ現象(売上が計画を下回っている)を見ても、人によって受けとめ方は違う。
その受けとめ方は、その人のそれまでの経験によることが大きい。
オヤジの仕事での経験や多感な若い時代の世の中の価値観、時代の感覚とういものは、息子の世代のそれとはかなり違うものだ。双方が合意するためには、このギャップを埋める必要がある。
そのためには、「同じ世界を見ていても、相手には全く違う風に見えている」、
という大前提を持つことから始めなければいけない。
このギャップを埋める努力無しに、いきなり方法論を戦わせても、そもそも問題の見え方が違うのだから話が折り合うはずが無い。
コミュニケーション能力を高めるということは、相手が現実をどのように捉えているかを
「相手の目から見て、相手の身体で感じ、相手の言葉で聞いてみる」。
能力を高めることとも言える。
こうすることで、より相手に通じる言葉で話し合うことができるようになる。
さらに知っておきたいことは、オヤジの人生の段階ごとに、
「仕事や息子とのかかわりに関して、基本的なスタンスが変わっていく」
ということだ。
オヤジにとっては、子育てが終わってから息子に事業を渡して引退するまで、大きく分けて3つの段階がある。
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