ファミリービジネス成功の法則 |
第5回 『ファミリービジネス成功のための仕組み―その2:家訓を作る』
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日本は老舗(しにせ)大国といわれる。
多くの老舗が家訓を持っている。
家訓というとなにやら古臭く、大げさな感じを持つ方も多いかもしれないが、そこにはファミリーとビジネスの末長い発展を願った人たちの、強い決意や暖かい思いやりが感じられる。
一口に家訓といっても、いろいろなタイプがある。
一族が重んじるべき信条や商人としての心構えをのべたいわゆる家訓、家の継承や家主の責任・権限、分家や別家の役割を定めた、家憲と呼ばれるもの。
事業体のマネジメント方針を定めた店訓と呼ばれるもの、業務マニュアルとでも呼ぶべき、店則と呼ばれるもの、就業規則のように、従業員の規則を定めた、使用人規則と、大きく5つに分類される。
その内容は、企業とファミリーのガバナンス(統治)、コンプライアンス(法令順守)、CSR(企業の社会的責任)、CS(顧客満足)、後継者育成、フィランソロピー(社会貢献活動)など、現在の企業経営の課題が幅広く網羅されている。
キッコーマン株式会社を例に見てみよう。
キッコーマンは茂木家、高梨家を初めとする八家が合同で創業しているが、その茂木家の家訓には「徳義は本なり、財は末なり、本末を忘るる勿れ」(道徳上の義務を遂行するのが我々の本分であって、財産は末節の些事に過ぎない。この本来の関係を忘れてはならない。)とあり、道徳的であること、社会に貢献することを事業の根本的な価値観としている。
事実、江戸時代の度重なる大飢饉の際には、一族は自家の蔵を開いて多くの難民の命を救っている。
また、後に編纂された一族の条文にも、「私費を省きて之を公共事業に捐出せよ」(プライベートな支出を抑え、浮いた分は、社会に役立つ事業に使いなさい)とあり、現在でも社会貢献事業や社員が参加する清掃活動、ボランティア活動が活発に行われている。
また、京都の着物商、木村卯兵衛は、嫡子は13歳になったら他家へ丁稚に出ることを定めるなど、後継者育成のルールを家訓に示した。
同じ京都の矢代伝像家には、わがまま、身勝手な主に対して親族・分家・別家が連合して異議を申し立て、それにも従わない場合には、押込(座敷牢)・隠居を申し付けること、というガバナンスの仕組みを明記している。
200年、300年と続く日本の老舗の秘密を探ろうと、これらの老舗の家訓を欧米のファミリービジネス研究者達が注目し始めており、欧米の多くのファミリービジネスアドバイザー達が、ファミリービジネスに対して家訓作りを推奨している。
現代の家訓(ファミリーの約束ごと)は、江戸時代とは違い、民主的に、ファミリーメンバーの合意に基づいて作られている。現代のファミリービジネスにとって、家訓を作ることはどのような意味があるのだろうか。
主な目的をあげてみると、
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・ファミリーのオーナーシップの基盤を強いものにし、それに基づいた取締役会を形成し、
ファミリービジネスの将来にわたる強い決意を醸成する。 |
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・ファミリービジネスの強い基盤を作り、非ファミリーの管理職やビジネスパートナーとの信頼感を高める。 |
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・次の世代に対して、ビジネスリーダーや企業オーナーとしての期待を明らかにする。 |
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・家族、親族の調和を保ち、誤解から生じる不要な葛藤を未然に防ぐ。 |
などだ。
内容としては、この連載の第2回にお伝えした、ファミリービジネスの3つの要素、ファミリー、ビジネス、オーナーシップの3つをカバーするものである。
実際には3つの領域すべてを一度に文章化するのは大変な作業になるため、ひとつずつ、順を追って作っていくことになる。この作業は前回お話した「ファミリー会議」の中で行うことが多い。
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(1)ファミリー宣言 |
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ファミリーが大切に共有すべき価値観や、使命感を文書にする。
「人の話しは最後まで聞く。」とか、「問題を人のせいにする前に、
自分も問題の一部だと知れ」など。
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(2)ファミリーの就業規約 |
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ファミリーとビジネスのかかわり方を規定する。
入社の資格、就業条件、昇進、昇格の判断基準など。
これらが明確になっていると、非ファミリーメンバーはオーナー一族の身びいき、
身勝手の印象を持たなくなる。
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(3)ファミリー株主協定 |
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ファミリー株主間の取り決め。
株の売買に関する取り決め、株の買い戻し手続き、配当を受ける権利など。
法的な要素がたぶんに加わってくる。
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これらを策定しても、その後ファミリーメンバー内で尊重され、実行に移されなければ何の意味も無い。
そのためには、これらを決めていくプロセスが非常に重要である。
特にファミリー全体にかかわりが強い「ファミリー宣言」と「ファミリー就業規約」の策定にあたっては、ファミリーの全員がかかわることが望ましい。
ファミリーのリーダーが責任者として取りまとめていくことになるが、コンサルタントがファシリテーターとして客観的な立場から家訓作りを手伝うことが多い。
課題の抽出、ミーティングの議案づくり、ミーティングの進行、文書化、その後の改定まで、ファミリービジネスコンサルタントがそれらのサポートを行う。
家訓作りに取り組む前にやっておくことがある。
それは、ファミリー内の葛藤やわだかまりを解消しておくことだ。
家訓作りを始める前に、これらの問題を解決しておく必要がある。
家訓作りはそれらを防ぐ効果はあるが、起きている問題を解決する力は無い。
わだかまりの解消のために、別の方法が必要になる。
ファミリービジネスコンサルタントはこのような問題解決にも力になる。
ファミリーメンバーが互いに理解しあい、協力し合うための方法を提案し、実行をサポートするのだ。 家訓を作ることで、ファミリーメンバーは強い団結力と、次の世代に伝える強いメッセージを得ることになる。
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■法則その5■
家訓作りはファミリービジネスの永続力を高める。
次回(最終回)はファミリーの夢についてお話したい。
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■バックナンバー
第1回 「同族企業は3代で潰れるのか?」
第2回 「ファミリービジネスは強いのだ」 第3回 「“オヤジとの対決と解決法”〜オヤジと息子の意見は合わない〜」 第4回 「ファミリービジネス成功のための仕組み―その1:ファミリー会議」 第5回 「ファミリービジネス成功のための仕組み―その2:家訓を作る」 第6回 「ファミリー共有の夢」 |