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2011年03月04日
株式会社A&Mコンサルト  中山 幹男
突然の内々定取り消しは違法? コンサルタント写真
カテゴリー:組織・人事制度   


1.内々定取り消し訴訟
=会社に慰謝料支払命令(福岡地裁)=
福岡地裁で6月2日、景気悪化などを理由とした内々定の取り消しは違法として、会社に
慰謝料支払いを命じた判決が出されました。
 
 
[ 2010年6月2日19時54分配信 毎日新聞 ]   
 
企業が経営環境の悪化を理由に一方的に内々定を取り消したのは違法として、元学生の
男女2人が不動産会社「コーセーアールイー」(福岡市中央区)に慰謝料など計495万円
を求めた訴訟の判決が2日、福岡地裁であった。岩木宰裁判長は「内々定取り消しは原告
の期待を裏切り違法。原告に誠実に対応したとは言い難い」として同社に計195万円の支
払いを命じた。原告側の光永享央弁護士によると、内々定の取り消しに慰謝料支払いを命
じた判決は全国初。
 
判決によると、2人は2008年5〜7月、それぞれコ社の適性検査や面接などを経て内々定
を得て、会社側に要求された入社承諾書を提出した。2人は就職活動を終了させたが、正
式な内定通知を受け取る予定だった10月1日の2日前「サブプライムローン問題や原油など
の暴騰の複合的要因による経営環境の悪化」を理由とする内々定取り消しの書面が届い
た。
 
岩木裁判長は「内々定によって労働契約が成立したとは言えない」と判断したが、コ社
の対応は「経済状況が更に悪化するという一般的危惧感のみから、原告への影響を十分考
えず、内定直前に急いで取り消したと評価せざるを得ない」と指摘。「信義則に反し、原
告の期待利益を侵害する不法行為」と認定した。
 
原告の男女はこの問題を巡り09年1〜4月、労働審判を福岡地裁に申し立てた。審判は同
4〜5月、コ社側に2人への「解決金」として、計175万円を支払うことを命じたが、会
社側は異議を申し立て、訴訟になった。(以下省略)

2.「内定取り消し」と「内々定取り消し」の違い
一般的に新卒採用は、企業の募集案内(労働契約の誘引)→学生の応募(労働契約締結
の申込み)→適性検査・試験・面接→採用内定の通知(申込みに対する承諾)→労働契約
(始期付解約権留保付の労働契約)の成立、というプロセスをたどります。
 
一方、内定の前段階で「内定と考えてもらっていいよ」などと電話や口頭で本人に伝え
る場合がありますが、これは内々定と呼ばれ、後日何らかの正式決定(必要書類の提出や
入社前研修の開始など)が予定されています。
 
この内々定の段階では労働契約は成立していないとされており、「内々定取り消し」は労
働契約の解約に該当せず、労働法上の解雇にはなりません。ですから、内々定取り消しに
ついては、会社は入社強制の義務を負わず、民法上の不法行為としての損害賠償責任(金
銭による解決)のみを負うことになります。

3.内々定取り消しに対する企業としての対応
今回の事例は、正式な内定通知予定日の2日前に内々定が突然取り消されており、学生が
受けた精神的ショックは大きいでしょうし、会社が誠実な対応をしたとは言い難いと裁判
長も述べています。金額の大小は別として、慰謝料支払いもやむを得ないのかもしれませ
ん。
 
ただ、企業を取り巻く環境は常に変化しており、急激な景気悪化による業績低迷により
内々定を取り消さなければならない場合は当然あります。また、多額の費用と時間をかけ
てせっかく決定した内々定を取り消すということは、企業(特に優秀な人材の確保が困難
な中小企業)にとっても苦渋の決断でもあるわけです。
 
そうした実態を日々見ていると、少なくとも内々定段階での取り消しによる慰謝料支払い
は、よほどの事情がない限り認めるべきではないと思います。
 
企業の対応として大事なことは、まず取り消しの理由や事情を責任者がきちんと説明し、
金銭補償も含めて誠意ある対応をすることです。こうした対応が、損害賠償などの紛争発
生リスクを結果的に防止することにもなります。
 
とかく労務管理は法律論中心の議論になりがちですが、労務管理は「法律」「経営」「人
の気持ち」の3つのバランスをとること重要です。しかし、「人の気持ち」を考慮してい
ないがために、無用の労務トラブルを引き起こしている企業が結構多いのが現実です。



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